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二.説得開始

天正十一年。賤ヶ岳の戦いで秀吉に敗れた義父上が生き延びたわずかな手勢とともに北ノ庄城へと引き上げてきた。

その後、秀吉の軍勢が追いかけてきて城を取り囲んできて。まだ幼い頃、小谷城での記憶が生々しくよみがえった。忘れたくても忘れられない。このままでは同じ景色を見ることになってしまう。あのときは父上を、今度は母上を失うことになる。そんなの絶対に嫌だ!


「姉上、どちらへ?」

「母上と話をしてくる。そなたたちはここで待っておれ」


初の問いかけにそう返し、私は母上のところへ急いだ。



「ちょうど、そなたを呼ぼうと思うておったのじゃ」


母上はどこか覚悟を決めたような表情で私を出迎えた。おそらく母上はもう、自害の意思を固めているのだろう。


「先ほど、猿……いや、秀吉公より使いの者が参った。私とそなたたちを保護したいとの申し出じゃ。ゆえに茶々、そなたは初と江とを連れ――」

「お断りいたします」


母上の言葉を、私は遮った。後ろにいる乳母(めのと)が「茶々様!?」と驚いた声をあげるけど、母上は動じなかった。


「城に残ると申すのか?」

「母上が出られぬのであれば、です。母上はここに残るおつもりなのでしょう?」

「……そうじゃ。生き延びたとて、私に待っているのは猿の側室(めかけ)にされる道しかない。あのような汚らわしい男の手に落ちるくらいなら、勝家様とともに死んだほうがずっと良い。――何より」


母上はそう言って、寂しげに目を細めた。


「死ねば、長政様に会えるではないか」


やはり。母上の心にはずっと父上がいるのだ。義父上と結ばれようと、心はずっと父上のものなのだ。それだけの愛が、父上と母上の間にはあったのだ。

だけど。


「それは母上の我が儘、エゴにございます。母上は自分勝手でいらっしゃいます」

「……何じゃと?」


母上の顔色が変わった。親に対してあり得ない発言だということは私も分かっている。だけど、ここで何とか翻意させなければ史実通りに事が進んでしまう。まずは母上の自害を止めることが最優先だ。


「母上はそれでよいかもしれませぬ。されど、私たちはどうなるのですか?」

「……」

「江はまだ十歳にございます。父上を覚えておらぬのに、母上まで失うなど不憫でなりませぬ。私も初も、母上と別れるなど嫌です」


声が震えるのを自分でも抑えきれない。

前世でも、私は両親を早くに亡くした。父は私が生まれてすぐに事故で、母は私が大学に入ってすぐに病気で逝ってしまった。二度も両親を早くに亡くすなんて耐えられない。というか、私だって母上のことが大好きなのだ。

私の様子を見て、母上は眉を寄せている。やっぱり、末っ子である江のことを考えると決意が揺らぐのかもしれない。


「……それに、秀吉公のもとに下ったとして、庇護されるとは思えませぬ」

「それは案ずるな。そなたたちに決して危害を加えぬことを、城から出す条件に付けた。猿はそれを飲んだぞ」

「母上。秀吉公は約束を守られるようなお方ですか?伯父上の仇を討った後、三法師様の後見でありながらもまさに自分が天下をとろうとしているかのような動きをしているのですよ」


実際、秀吉は伯父上の孫である三法師を差し置いて天下を獲っている。ドラマだからどこまで本当かは分からないけれど、母上の「娘たちに手を出すな」という遺言を無視して茶々を娶っている。約束を守るような人間だとは到底思えなかった。


「それは……」


図星だったらしい、母上は困惑した表情を浮かべる。だけど、まだ決意を覆すには足りないようだ。

まるで自分自身を盾にするようで言いたくはないけど、これを言うしかないようだ。



「母上。私は母上に似ております。もし母上がここに残った場合、秀吉公は私の顔に母上を面影を見出すことでしょう。そうなればおそらく、私は……」

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