30話~5年後~
5年後──
13 SECONDS TIME BOMBがメジャーデビュー後にリリースした1st ALBUM「SMELL OF MONEY ROCK'N' ROLL」は邦楽の総合チャートにて上位を記録した。
堂々たる快挙を遂げたその作品は多くの人々の耳に届き、ロックバンドの音源としては異例の好セールスを樹立した。
また同アルバムをひっさげた全国ツアーのチケットも売れ行き好調で、全会場が即SOLD OUTとなる人気ぶりを博していた。
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【終点に到着しました。お忘れ物のないようにご降車ください。この度は越後新幹線をご利用いただき誠にありがとうございました】
車内アナウンスが流れると、菫はキャリーケースを片手に新幹線のドアに向かった。
プシュー!とドアが開き、駅のホームに降り経つと……金色に輝くその髪は無情なる強風にさらされた。
「さ……寒~い!!完全に雪国舐めてたかもっ……!」
トンネルを抜けると雪国だった……という有名な一文のように、そこにはまさに異世界の光景が広がっていた。
くすんだ灰色の空からは綿雪がぼたぼたと降り注ぎ、吐く息もそのまま凍りついてしまうのではないかと思うぐらいに真っ白に変化する。
レザーのライダースジャケット(中に一応セーターは着ている)では、とても凌げない寒さだ。都内ではこの姿でも割と暖かかったのだが……。
菫がふと周りを見渡すと、ほとんどの人間が厚手のコートやダウンジャケットなどのヘビーアウターを羽織っていることに気付く。
憧れのバンドの地元公演のチケットが当選し、そのことに浮かれすぎた結果……遠征先の天候や気温の下調べを怠ったことを菫は悔いた。
菫は改札を出ると、駅前のロータリーに足を踏み入れた。
会場である「スワンアリーナ」まではこの場所からシャトルバスが運行しているらしいのだが、そのバスがどこから出ているのかがさっぱり分からない。
キャリーケースを転がしながら、ロータリー周辺を右往左往する菫。
(ええい、こういう時は人に聞くのがいちばんっ!)
菫は周りをキョロキョロと見渡すと、たまたま近くを歩いていた一人の男に声を掛けた。
「あの、すいませんっ!今から『スワンアリーナ』に行きたいんですけど……それで、ええっと……駅前からバスが出てるらしいんですけど、その乗り場ってどこにありますかっ?」
「スワンアリーナ?ああ、もしかして……君もこれからサーティーンのライブに行く感じ?」
「あ、はいっ!そうです!」
「おお~!奇遇だね~!実は俺もこれからライブに参戦するんだよ」
「ええっ、本当ですか!!」
「うんうん、めっちゃ楽しみだよね~!それで……え~と、バス乗り場だよね?俺もちょうど向かうところだったからさ、ついでに案内するよ」
「ありがとうございます~!」
「どういたしまして。ところで……今日はどこから来たの?随分と寒そうな薄着だし、地元の子ではなさそうだよね?」
「ウチは東京から来たんですけど……いや~、こっちがこんなに寒いなんてつゆしらず……でも、大丈夫です!これから大好きなHALUの歌が聴けると思えば、寒さなんかへっちゃらですからっ!」
「へえ~、HALUのファンか。それで彼と同じ髪色ってワケ」
「そおなんですよっ!昨日、美容院でブリーチをしてきたばかりなんです」
「カッコいいじゃ〜ん!すげー似合ってるぜ」
「ありがとうございます!そういうお兄さんこそ……KANATAと同じスパイキーヘア似合ってますよっ!」
「おっ、マジで?サンキュー!」
その男は照れくさそうに笑うと、頬に深い深いえくぼを作った。
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会場の「スワンアリーナ」のロビーに到着すると、場内の物販コーナーには早くも長蛇の列が出来ていた。
メンバーと同じように派手な髪型をした男の子、攻撃的なファッションに身を包んだ女の子、パッと見はロックに興味など無さそうに見える中高年から小さな子供まで……実に多くの来場客が列をなして賑わっている。
菫もお目当てのツアーTシャツをゲットするために、その列の最後尾に並んだ。
すると目の前には「MITSUNARI 親衛隊」と背中に書かれた法被を羽織った中年男が立っていた。
頭にタオルを巻いたずんぐりむっくりの中年と、黒髪ポニーテールのガタイの良い中年の二人組だ。
13 SECONDS TIME BOMBには男性ファンが多いというのは有名な話であったが、ここまで年齢層が広いことに菫は感心すると同時にどこか嬉しい気持ちにもなった。
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菫が手にしたチケットの席番号は……ステージ中央の最前列であった。
アリーナ席のちょうどボーカルの真正面に位置する「特等席」である。
ツアーTシャツに着替えた菫はその席に座ってからステージ全体を眺めると、感嘆の溜息を洩らした。
(ああ……こんなに近くでHALUの姿が拝めるなんてっ……!!)
会場に設営された鉄骨で組まれたステージセットの上には、すでにメンバーの愛用機材がずらりと並ぶようにスタンバイされている。
菫は場内に流れる大音量のBGM(Oasisの「Rock'n'Roll Star」)に包まれながら、ライブが始まる瞬間を今か今かと心待ちにした。
開演時間から数分ほど押したところで、いよいよライブの幕が上がった。
会場の床をビリビリと鳴らすような大歓声が押し寄せる中……RAY・KANATA・MITSUNARI・FUMIの順番でメンバーがステージに登場する。
最後に少し間を空けてから……ボーカルのHALUがステージに現れると、歓声はより割れんばかりに強まった。
黒いモヘアのカーディガン、グランジ風にダメージが入ったブルーデニム、トレードマークの金髪ミディアムヘアに、色付きの眼鏡をかけている。
彼が動く度、視線を向ける先、その一挙手一投足に大きな歓声が沸き上っては会場が大きく揺れる。
そんな神々しいオーラを纏うロックスターを間近で目にした菫は、気づけば同じように観衆の大歓声に交じって叫んでいた。
「HALUーーーーー!!!!!」
その声が本人に届いたかどうかは定かではない。
しかし、ほんの一瞬ではあった。
確かに一瞬だけ。
HALUが目の前の「特等席」に向かって小さく微笑みかけてくれたような…………菫にはそんな気がしてならなかった。




