3.尋常小学校の帰り道
3.尋常小学校の帰り道
佳代子と亮一の通う尋常小学校は私立だった。
場所は、自宅から、駅の方向に向かい、
東側の坂道をのぼりしばらく行ったところにあった。
駅前は商店が立ち並んでいたが、坂の途中から、
大きな屋敷が立ち並ぶ地域で、華族が多く暮らす地域となっていた。
父は常日頃から、
「決して華族の屋敷でいたずらはするな!
忍び込むな!」
とことあるごとに言われていた。
父は、兄が友人と屋敷に忍び込んで、基地ごっこをしていることを知っていたので、
その様に言っていた。
でも、佳代子は知っていた。
尋常小学校からの帰りに、たまたま屋敷に忍び込もうとしている兄たちを見かけたから。
佳代子は脇道へ隠れ様子をうかがっていると、
周りの様子をうかがい、人気がなくなると、木が生い茂り、石垣の低くなっているところから、
次々と兄と友人が中に入っていく。
佳代子は慌てて家に帰り、母にその様子を伝える。
「あら、見つからなければいいわねえ。」
「ちよさん、そんな悠長なこと言ってる場合ではないわよ。」
母はおっとりとしていて、それでいて、どこかのんびりとしているところがあった。
「いまさら何もできないでしょ。」
「それはそうだけれど。」
「それよりも、今日はまだ昼は食べていないでしょ。
ちゃぶ台の蚊帳の中に、おはぎがあるわよ。」
「なんでおはぎなの?」
「隣の良子さんから、たくさんもらったのよ。」
佳代子は台所へ行き、橋と水の入ったコップを持って、
今のおはぎを食べる。
「母さん、相変わらず、良子さんのおはぎはおいしいね。
さすが米屋だけあるわね。」
佳代子が話しているとき、ちょうど近くを港町まで行く電車が通り、
必然的に大声になる。
「ちょっと聞こえないわ、何か重要なこと?」
「いや、何でもない。」
佳代子は母にそう言う。