2.練兵場の広場
2.練兵場の広場
佳代子の兄、亮一は、よく遊びに行くところがあった。
それは、谷の町の北側にあった練兵場脇の広場だった。
そこには、出兵をしていく兵士の訓練場があり、
また、10年位前に植樹され、その新しくできた森の中に、
天皇をまつる神宮が創建された。
ただ、広場は残っており、広場から、谷底を走る省鉄が良く見えた。
兄は乗り物が好きだった。
尋常小学校に通う仲間と一緒に、キャッチボールをしに来た目的のほかに、
省鉄を眺めるために、よく広場に来ていた。
当時この省鉄は、5年前に環状運転を開始しており、
こげ茶色の6両編成の列車が10分毎に走っていた。
その兄に佳代子は連れられて、鉄道の自慢話ばかリされていた。
「日本で、これだけ、短い間隔で電車が走る場所はないんだぞ。」
「あの電車は、自動でドアーが開くんだ。
そこらの汽車とは違って、すごいだろ。」
「これから2駅先まで、電車に乗るから、5銭、往復10銭分貸してくれないか。」
佳代子は、兄の傍若無人なところに、あきれていたが、
男にはその様な純粋なところもある、と自分を納得させていた。
佳代子は家に戻り、母の家事を手伝っていると、
兄が家に戻ってくる。
「あの駅で、この間開業した、湘南の海に行く電車を見に行ったんだ。
今度あの電車を使って、海を見に行き、温泉に行ってみたい。
あっ、帰りは路面電車で帰ってきたから、1銭返す。」
兄はそう言い、一銭玉を佳代子に渡す。
兄は、まじめで律儀なところも持ち合わせた人だった。




