第一篇:祈り菓子
風化する。
風に混じった魔力が、吹かれたほとんどのものを劣化させてゆく。
この世界のものであるかぎり、一つの条件のものをのぞいて。
「フワ、フワフワ」
髪を引かれたギロは、連れを見やった。
「なんだい、チャチャロ。あれがほしいって?」
「フワ~!」
チャチャロはピンク色のウサギのぬいぐるみの見た目と裏腹にわがままだ。
いつもどおりギロの肩に居座って、モフモフの手を上げ希望のものを指す。
教会の尖塔についた星。
「だーめ、あんな高くまで登れるかよ」
「フーワー!」
「駄々こねたってだめ。あれ教会のなんだぞ」
耳元でフワフワフワフワ騒がれたギロはその夜、宿屋でキッチンを借りた。
チャチャロがベッドで高いびきしている間に、一仕事を終わらせる。
次の朝、宿を出たギロはチャチャロに油紙で包んだものを差し出した。
ピンクの手が引っ張り出したのは大きな星形の飴。
「ワフフ?」
「これでいいだろ。どうせ、あのてっぺんについているのだって同じさ」
ギロは教会を見上げる。ロックケーキの壁に、飴細工の星。
ギロの銀髪で遊ぶように風が流れた。
魔力をふくんだ風は、半年もすれば木も石もボロボロにしてしまう。魔風に対抗できるのは人の祈りがこもったお菓子だけ。
だから、人々は外に出るものはお菓子でつくるのだ。ヌガーのレンガに、飴細工の窓、シュトレーンの煙突、板チョコのドア。
「教会製ほどきれいな模様はないけどさ……」
それだっていい出来だろ? と続ける前に、チャチャロはバリバリとべっこう飴をかみくだく。
「……昔から、べっこう飴が好きだよなあ。食べ方もおんなじ……チャチャロ姉さん」
ギロの言葉もどこ吹く風で、チャチャロは飴に夢中だ。
数年前。姉が恋した魔法使いは、彼女の魂を半分に割って持ち去った。
手元に残された記憶もない半分を連れて、ギロは旅をゆく。
風にくずされて生じた銀砂の砂漠、人の祈りが建てたお菓子の街並みを彷徨い。
飴がひとかけら砂に落ちた。
琥珀色の煌めきは、永久にそのままに。




