特級魔術師
先手を取ったのはエレナで、短い詠唱を終えるとすぐさま氷の槍を数本生成し相手の魔術師に放った。
「詠唱ってあんなに早く済ませられる物なのですか?」
「いや、彼女が独自に開発した魔術式を組み込んであるから、あれほど早く術を展開させられるのだ。対魔術師戦を想定した訓練で、我々が手も足も出ずに倒される事の方が多いくらいだ」
「団長たちが勝つ時はどういった方法で?」
「消耗戦だ。我々が力尽きるかエレナ嬢の魔力が尽きるかで勝敗が決まる」
「ひたすら攻撃魔術を避けたり耐えたりして、魔力切れを起こした所を狙うと……」
「そうだ。魔術兵団との戦闘訓練もあるがそちらはなんとかなる。詠唱を終える前に間合いに飛び込めるからな……だが、彼女は別だ」
あまりの詠唱速度に度肝を抜かれたのか、目を見開いて咄嗟に躱した魔術師は杖を振るい小さな雷撃をエレナに放つが、エレナの張った障壁に阻まれてしまう。
「詠唱が早いだけで、魔術師の戦闘は優劣が決まる。だが、油断は出来んぞ」
相手は水泡をいくつも出現させ、エレナの周囲を取り囲むように展開させた。
「詠唱は絶対にしなければならないという弱点を突く気か」
水泡は高速で移動し不規則なタイミングでエレナに襲い掛かり、エレナの張った障壁に阻まれては弾けていく。
だが、そのうちのいくつかがエレナの頭上から襲い掛かり、エレナの顔面を覆う。
「あれじゃ、詠唱は出来ないわ!」
「いや、見てみろ」
勝利を確信した魔術師は笑みを浮かべ一歩前に踏み出すが壁に阻まれ、立ち往生してしまう。困惑したまま後ずさろうとするが、そちらにも壁があったようでまともに動けなくなっている事に気づいた魔術師の頭上には、弾けた水泡やエレナの周囲を旋回していた水泡が集まっていた。
「あれは相手の魔術師が呼び出した水泡では?」
「魔術の事は詳しく知らんが、術を上書きして乗っ取るような事も可能らしい。おそらくエレナ嬢は周囲を漂っていた水泡に自分の術式を組み込んで乗っ取りつつ、相手の攻撃をわざと食らい油断させたんだろう」
ドレン団長の言う通り、エレナの顔を覆っていた水泡はゆっくりと離れ魔術師の頭上に集まる水球に混ざった。
そして、ある程度大きくなった水球はそのまま真下で障壁に取り囲まれた魔術師に雪崩れ込み、水槽のようになった障壁の中でもがきながら、必死に降参の意を伝えていた。
「同じやり方で倒すとは、良い性格をしているな」
「はやく終わらせたかっただけかと……」
私の読み通り相手が降参を訴えた瞬間、全ての術を解除した後、ぺこりとお辞儀して逃げるようにステージを降りてこちらに走ってきたエレナ。
「き、緊張しました。わわ、水滴がアイナさんたちにかかっちゃった……すすすいません!」
「いや、大丈夫だ。気にすることは無い」
「そうよ、それにしてもやっぱりエレナってすごいのね!」
「大勢の前で見られるのが、恥ずかしくてすぐ終わらせたくて詠唱が早く終わらせられる魔術で倒そうとしたんですけど、さすが国を代表する魔術師だけあって、魔術の使い方が上手でした。なので、術式も綺麗で入り込む余地が一杯あったので……やりやすかったです」
特級魔術師の実力を見せられ、改めてエレナが凄い人物だと言う事を思い知りながら出番なので席を立つ。
「エレナ、イグナリスをお願い」
「は、はい。しっかり持ってます!」
「じゃあね、イグナリス行って来るわ」
『健闘を祈る』
木剣を受け取り、ステージに上がっていく。
見渡す限りの大勢の大観衆の怒号や声援が地響きのように腹に響く。
「確かに、緊張するわね。でも……こういうのも、悪くない」
私は木剣を強く握り締めて、上がって来る対戦相手を待った。
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