天国まで届け、この歓声
軍靴の音を響かせてステージに上がってきたのは、中肉中背の金髪の男性だった。
「まさか僕の相手が貴方のような素敵なレディとは……神に感謝しなければなりませんね」
侮っているわけではなく本気で嬉しそうに私に微笑む彼を見て、こちらも貴族らしく落ち着いた笑みを返し剣を構えた。
「よろしくお願いしますわ」
「こちらこそ」
合図がなるやいなや、私は先手を取り今まで鍛えてきた足腰の生かした踏み込みで間合いを詰めにかかる。
それを見て彼は目を見開き剣を構え受けとめた。
「いやはや、予想以上の速度と重さのある剣だ」
剣を振り払い構えを変えた男は、お返しとばかりに仕掛けてきた。
素早く繰り出される突き、払い、振り下ろしをなんとか捌き、身を躱しこちらも同じように手数を減らすことなく応戦する。
「貴方の動きは美しく、それでいて何処か男性のような豪快さがある……。その剣ではそれを生かし切れていないのでは?」
確かにただの木剣ではイグナリスの魔力供給状態の動きを再現し切れず、今一つになってしまっている部分は確かにある。
それをなんとか補おうと、イグナリスを使わずに動きを補正する鍛錬もしてきたが流石に熟練の騎士にはお見通しのようだった。
「確かに今の動きは私の全力とは言い難い物ですが、それをお見せするには実剣を使う事になりますので……」
剣を構えつつ答えると、男はニコリと笑った。
「ぜひとも拝見したい。審判実剣への変更を申請する」
「……よろしいのですか?万が一貴方の身に何かあれば……」
「なあに、美しい貴方に斬られるなら本望。それにちゃんと治療するために万全の体勢ではありませんか。ここで貴方の全力を見ずして帰ってしまう事の方がよっぽど悔いが残る」
「わかりました。ご希望に応え全力で参ります」
私はステージに待機している審判に頼んで、エレナからイグナリスを受け取って持って来てもらって構える。
「イグナリス、彼は私たちの全力をご所望なの、力を貸して」
『ほほぉ?我らの全力とな?命知らずではないか……くくく』
「剣は寸止めするわよ」
『言ってみたかっただけだ。悪役っぽいだろう?』
「……行くわよ」
『存分に暴れてやれ』
イグナリスからの魔力が流れを全身で感じ、呼吸を深く静かに整え構える。
先ほどまで余裕の笑みを浮かべていた彼は、何かを感じ笑みを消し真剣な眼差しで私の一挙手一投足に集中しているのが分かった。
「行きます」
言葉を掛け、私は今まで鍛錬以外で出した事のない速度で、ステージをかけ反応が送れた彼をゆっくりと視界に捉えながら一度素通りし背後に回る。
咄嗟に剣を振りかぶるような体勢で、受け流された私の振り下ろしはステージの岩に大きな亀裂を入れた。
「凄まじい速度と威力、受け流せたのが奇跡です」
「受け流そうとしたのは正解ですわ。受け止めようとしていたらきっとこんな風に砕いてしまっていました」
男は額に汗をにじませ、余裕の笑みが消え苦笑いを浮かべた。
観客たちもひび割れ砕かれたステージを見てどよめいていた。
「では、続けますよ」
私は左から回り込むように踏み込み、剣を振るう。
今度はフェイント無しの真っ向勝負だ。
「これは無理だ」
受ける事はせず、あくまで受け流す事に集中する男の諦めの声は剣戟の音で掻き消され、観客には一方的な展開に見えているだろう。
だがしかし、この状況が続く事は私の敗北を意味した。イグナリスの魔力供給で一時的に能力値を上げて、超人的な身体能力を得たと言っても、あくまで私の身体が耐えれ切れる範囲までなので、長時間これを維持していると限界を迎え、身体中に激痛が走り動けなくなってしまうのだ。
『この男、我らの弱点に気づいているのか?』
「かもしれないわ。でも、せっかくだし速度上げてみたくなったわ」
『これ以上上げるとなると、すぐに限界を迎えるぞ?』
「どっちにしろ、あの人は今の速度に適応し始めてる。だったらそれを超えてやるわ」
『わかった。やるからには勝て、アイナ』
一際強烈な魔力が身体中に走るのを感じながら、剣を構えた。
「この速度に耐えきれたのは貴方が初めてです。ですが……ここまで、です!」
爆発のような音を響かせ跳躍すれば、彼我の距離は一気に縮まり、地面を這うような位置からの切り上げを繰り出す。
喉元に指一本分の隙間を残した位置に留めて、男に笑いかける。
「レディ、貴方とのひとときはとても素敵でした。それでは」
男は剣を突きつけられても、涼し気な顔で笑みを浮かべ両手を上げて降参の意思表示をして、数歩下がり礼をすると、退場していった。
「なんとか勝てたわね」
『アイナ、お主の腹を見ろ』
「お腹?……え?」
イグナリスに言われ、見てみると僅かにだが薄く切れ目が入っていた。
「最後の踏み込みの時?」
『ああ。あの男今の一撃も対応できた上で敢えて降参したようだ』
「常人があの速度に適応できると思う?」
『わからん。だが、過信するなという戒めにしておけ。それよりもこれでお主の父上にも、良い報告が出来るのではないか?』
観客に手を振り歩き出し、途中振り返りイグナリスを掲げてから、ステージを降りる。
「お父様、私勝ちましたよ。アイナ・リーフェルトの名を国中に轟かせましたよ」
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これで第一部完結となります。
第二部も書き溜めて予約投稿という形を取るので、気長にお待ちください。




