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誰かを動かすきっかけ

 団長は向き直り、剣を構え直す。


 「良い身のこなしだ。それなりに重さもある、これなら俺も楽しめそうだ」


 団長の気配が変わったかと思った矢先、足を踏み込み跳躍間合いを詰めてきた。

 まともに食らえば明日の試合本番欠場になって、私だけじゃなくて国の評判落ちると思うんですが!?


 「……ここっ!」


 軌道を見極め交わし、足をひっかけ体勢を崩したところに薙ぎ払うように剣を振る。

 体勢を立て直す隙を与えず、攻めに転じて更に身体を捻り打ち込んだ。


 「更に重みが増した……」


 それなりに本気の打ち込みをしているが、やはり体格差筋力差もあり、余裕で受け流されていく。

 ならばと、突きを交えて動きを変えた。


 「単調な動きにならないように常に、千変万化する型。めずらしいな」


 やはり国が誇る騎士団長の実力というのは、計り知れない涼しい顔をして私の連撃を捌いて分析を続ける。

 だが、その動きになれたところで次の一手を加えた時、団長は虚を突かれ体勢を崩した。


 「体術も扱うか!?」

 「使える物は全部使ってこそですわ!」


 剣を振るいつつ、不意の一瞬を突くように蹴りを交えた動きに対処が送れ、団長の脇腹に一発良いのが入った。


 「見事。女だからと侮っていた事を謝罪する。良い太刀筋だった。」

 「ありがとうございました。とても勉強になりましたわ」

 「明日の剣闘士大会、お互い全力で楽しもう。俺は部下たちの訓練があるので失礼する」


 置いてあったタオルを肩にかけ、団長は去っていく。


 「なんとかなったわね」


 立てかけていたイグナリスを腰に下げる。


 『見事だ。私の補助無しでもあれだけ立ち回れるのなら安心だな』

 「まだまだよ、もっと強くなって団長の剣を受け止めるくらいにならないと」

 『あの一撃を受け止めるのは……無理だろう。我を使ってる時なら可能だろうが』

 「うーん、もっと強くなりたいなぁ」

 『向上心があることは良い事だ、さてとりあえず湯浴みでも行ったらどうだ?』

 「そうね、良い汗かいたしそうするわ」


 団長から一本取れた事を噛み締めながら、一度部屋に戻りイグナリスを置いて大浴場へ向かう。


 「いつでもお湯に浸かれるってやっぱり良いわよね」


 誰にでもなく呟き、湯船に浸かる。

 身も心も解れていく極楽の時間を楽しみつつ、私はさっきの試合の動きを反芻する。


 「あともう少し蹴りの動きを早めたいな……」


 ヒタヒタとタイルを歩く音が聞こえ私の傍に、一人湯船に入ってきた。


 「先ほどの試合、素晴らしかったです」

 「ありがとうございます、えっと……貴方は?」

 

 綺麗な空色の髪が美しい女性の、湯船に浮かぶ私の倍はありそうな胸に圧倒されつつ、話しかけてきた女性に名前を尋ねる。

 

 「私は、ソフィー・ミュラーと申します。エルヴァナで商会を営んでおります父と共にこちらに参りましたの。城内の素敵な調度品を見て回るのも楽しかったのですが、なにやら殿方の皆さんが子供みたいにはしゃいで何処かへ向かって行くので、私も気になって拝見させていただきました」

 「試合を見ていたと言う事はご存じかと思いますが、アイナ・リーフェルトです」

 「ええ、存じております。お名前は他国であるこちらにまで轟いておりますよ。なにせ<救済の伯爵令嬢>ですもの」

 「うぐっ……出来ればその名で呼ぶのはご遠慮いただきたく……」

 「ええ?どうしてです?こんな素敵な二つ名を伏せるなんて、もったいないですわ!」


 私の腕を取って詰め寄って来るソフィーさん、腕を動かした事で迫力が増した……いやほんと大きいわね……悔しい。


 「自分から名乗ったわけでもないですし、そんな大層な事をした覚えもないのです。ただ貴族として民を導く者として、傷ついた人々を助けたい。ただそれだけなのです」

 「そう思っていても、実際に行動を起こせるのがどれだけいることか。それに男性では無く女性の身でそれを成し遂げようとするその心意気に、私は感銘を受けましたの!」

 「は、はあ」


 私の手を離し、恋する乙女のように宙を見上げたソフィー嬢。


 「私も貴族としてあるべき生き方を貫くべきだと!私には戦う技術も体力も、ましてや度胸もありません!ですが、困っている人々に手を差し伸べる事は出来ます。それで、父に相談し領主様ともお話を通して孤児院を増設し、行き場が無くなった子供たちが道を踏み外す事を、可能限り減らしてみようと動き始めたのです」

 「それは……とても良い事ですね」

 「ありがとうございます!それもこれもアイナ様の行いが、海を渡ってエルヴァナにまで届いたからこそ!私に貴族としての矜持の一旦でも民たちに、見せる機会を与えてくれたことに感謝を!」

 

 あまりにも私を偉人のように称えて来るものだから、対応に困って引き攣った笑いを浮かべつつ、のぼせると悪いので、挨拶を済ませて脱衣所に戻り服を整えて部屋に戻る。


 「そっか……私の行動が誰かの行動のきっかけになるんだ……」


 口元がニヤケそうになるのを堪えると、ユリアから怪訝な顔をされたのだった。

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