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血の気が多いというかなんというか……。

 適度に腹を満たす食事を済ませ、日が落ちた街並を部屋から少し眺めて待ち合わせの場所へ向かうため、ユリウス様が手配してくださった荷馬車に向かう。

 腰にはしっかりイグナリスを帯剣して、深呼吸をする。

 

 「こちらです。アイナ様」

 「ありがとう」


 柄のない幌を張った荷馬車に乗り込み、予定通り奴隷市場の会場へ向かう。

 馬車は次第に一番繁華街を抜け、騒がしい地区から離れ屋敷が点々と並ぶ一角にやってきた。


 「こちらです」


 荷台から降りると既に変装したユリウス様や近衛兵の数人が待機していた。


 「こんばんはユリウス様」

 「アイナ嬢、聞いたぞ?修練場でドレン団長から一本取ったそうだな。しかも木剣でとは……見事だ」

 「いえ、ドレン団長は私の実力を知るために手加減してくださっていたように思えます」

 「俺見てましたけど確かに最初はそんな感じでした、けど途中から目付きが変わってたし、あれは本気でしたね」


 周りの男性たちから、褒め称えられなんとも居心地が悪い思いをしつつ、話はすぐに切り替わり今回の会場の話になった。


 「今回の会場はこの屋敷の地下で行われておる。しかも今回はかなりの大物だ」

 「というと?」

 「この屋敷はこの国の宰相、オヴェール・レイズノート侯爵の屋敷だ。今まであった奴隷売買の大元の一人と言う事が分かっている」

 「宰相が……」

 「ああそうだ。我ながら早急に気づいておればどれだけの悲劇を防ぐことが出来たのだろうと、嘆くばかりだ。だが、ここで奴を捕えれて取り調べをして奴隷に関わる組織の全体図を掴み、壊滅させる」

 「そのためにも、絶対にここで捕える事が大事なのですね」


 強く頷くユリウス様は我々を見渡し声をかけると、忍び込ませていた密偵が開けてくれた窓から忍び込んで、地下を目指した。


 王宮はかなりの煌びやかで、見る物を圧倒する荘厳さがあったのに対して、この屋敷に抱く印象は贅の極みと言った様子で至る所に金やらの眩しい物で着飾っており、目が疲れてくる。


 「バカの一つ覚えのように、金で埋め尽くして……全く趣味が悪い」


 嘆くようにユリウス様が零しながら、地下へと続く道を密偵に案内させる。


 「あの一つ一つもなにかしらの違法行為で稼いだ金で手に入れた物なのでしょうね」

 「だろうな。全くこのような恥ずべき行為を続けている事に気づけなかった我が、国一の凡愚だ」


 会場の騒がしい声が聞こえてくる所まで来ると、一度足を止める。


 「先に入り込んでいる者達から合図が来たら、皆手筈通りに」


 無言で全員が頷き、待機する。


 「ちなみに入り込んでいるのはどなたなのですか?」

 「我の息子、第一王子のミハエルだ」

 「お、王子!?」

 「うむ、この間エルヴァナの視察を終えて帰ってきて今回の話をしたら、参加したいというのでな。関与しているのが分かっていた貴族から招待状を奪い、変装させて会場に向かわせておる」

 「い、良いんですか?その……跡継ぎですよね?」


 冷や汗が止まらない。

 なんなのだ、この王家の人々は……。


 「我々も止めたのですが……どうしても参加したいと聞かず……ドレン団長には言うなと陛下と同じように口止めまでされてまして……」


 顔を覆い嘆く近衛兵の方たち。

 凄く気持ちが分かる、きっと私が殿下だったとして同じ事をしたら、ユリアから絶対に反対され軟禁される気がする。


 『血気盛んな王族も居たものだな』

 「盛んすぎるのよ……」

 「む、合図だ。行くぞ皆の者!」


 我先にと一気に階段を駆け下りていくユリウス様。

 いやいやいや、そういうのは近衛兵とか私がやりますから!!


 「イグナリス、魔力反応があったら教えて。不意打ちだけは気を付けないと」

 『任せろ』


 駆け込んだ会場は地下とは思えない程、明るく清潔に作られており余程金をかけて作られている事が伺えた。

 辺りを見渡し、一番奥側二階の観覧席から擦過音が聞こえたのでそちらに駆け出した。


 「皆の者、では各自手筈通りに!」


 ユリウス様はステージ上の奴隷たちに声をかけ鎖を壊し、近衛兵はそれらを援護したり妨害する用心棒たちを相手取り、大立ち回りを演じ始めた。


 私の役目は先に会場入りしている協力者の援護という事だったので、この間の近衛兵さんたちの誰かだと思っていたのだが……。


 「まさかの第一王子のミハエル様とは……」

 『気が抜けないな』

 「全くイグナリス魔力を頂戴、跳ぶわ!」

 『おう!』


 イグナリスから流れ込んでくる暖かい魔力を脚に集中させ、狙いを定めて地を蹴る。

 砲弾のように打ち出され、轟音を撒き散らして観覧席に着地した。


 「な、なんだ!?」


 油断なく警戒しながら立ち上がると、突然現れた私に狼狽え後ずさりする小太りの男――オヴェール・レイズノート侯爵の姿があった。

 その周囲に警護に付いていたガタイの良い男と剣を交える度、豊かな銀髪が揺らしながら戦うミハエル殿下の姿があった。


 「っと……その赤髪、金の瞳。貴方が<救済の伯爵令嬢>かな?」

 「え、ええそうです。出来ればその名で呼ばないで頂きたいのですが」

 「どうして?素敵な二つ名じゃないか。民たちからの信頼と尊敬、貴族の矜持を体現したような素敵な名じゃないか」


 薄い笑みを浮かべて、ガタイの良い男に油断なく構えながらも余裕の態度を取るミハエル様。


 「ここからは私が前に出ますので」

 「レディ、それは出来ないな」


 私の声かけを無視し、優雅にダンスでも踊ろうかとでもいうような流麗な動きでレイピアを使いこなし、男の力任せの大振りな動きをスルリと躱し、足の腱を突き動きを封じられ男は痛みに叫び声を上げながら倒れ伏した。


 「さて、次は君の番だよ。オヴェール・レイズノート卿」

 「く、来るなぁ!」

 『アイナ、あの男から魔力反応だ!』

 「っ!!」


 イグナリスの身体強化で瞬時に飛び込み、イグナリスを前に翳すように構えると同時にオヴェール侯爵の手から雷撃が放たれ、イグナリスの刀身に弾かれた雷撃が周囲を焼き焦がした。


 「な、なんだその剣はぁ!私の魔術を……弾いただとぉ!?」

 「大人しくしなさい!」


 威圧的に近づき柄で殴って昏倒させる。


 「ふぅ……。とりあえず大物は確保出来たわ」

 「見事だ、<救済の伯爵令嬢>殿」

 「……はぁ」


 パチパチと歌劇を見終えて演者にでもするように拍手しながら笑みを浮かべるミハエル様。

 どっと疲れてきたわ。

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