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カイロスの祝福  作者: 沙雪


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いくつか存在するパラレル

「カイロス神はもともと時を司る神だと言われています。時と言うのは、気運とかチャンスも表します。そしてカイロス神が微笑む時が商機であり、我々商人に勝負の時を教えてくださるサインだと言われていまして。それから、カイロス様は気まぐれにこの様に時間を早めたり巻き戻されたりして、私達に使命を課す時があるのです」

 カラムは真顔でそう言った。

「じゃあ、今回、ここに来たのは、そのカイロス神の気まぐれに巻き込まれたってことなのか?」

 テリオスは冗談交じりに言うつもりだったのだろうが、彼は全く笑えていなかった。

「誠に申し訳ないことだが」

 カラムは心痛な面持ちを見せる。

「戻れない訳ではないんですよね?」

 セシリオの言葉に頷く。

「カイロス様はそこまで辛辣な方ではありません。こういったタイムループをされるのはその者がカイロス様が提示する問題を解決する力があるから。つまり問題を解決できれば、元に戻ります――これはカイロス様、本人から聞いた話ではなく、今までタイムループに遭遇した者たちからの証言をまとめあげた推察になりますが」

「と、するとタイムループに巻き込まれた方は一定数いらっしゃるということなのですか?」

 カラムは神妙に頷く。

「割といらっしゃるようです。統計でみると少なくとも年に一度はあるようですね」

「そんなに?」

 レジナルドは流石に驚いた。

「はい。カイロス様は意味もなく何かをなさるような神様ではありません。ひとえにこの国を良くしようと思われ、やっていらっしゃることなのだと思いますけれど――ここからは、私が商人らしからぬ発言をすると思いますが、そう言った事情であることを察していただければ……」

「前置きはいい。ともかく今、自分たちが置かれている状況を正確に知りたい。話してほしい」

 テリオスは今までの彼の様子からは想像もつかない程の声を発する。

 その凄みはレジナルドに冷や水を浴びせる程のもので、今まで彼のことをベータだろうと思っていたのだが、もしかして彼はアルファであることを隠しているのではないかと。そう思わせるには十分すぎるきらいがあった。だが、その反面、テリオスの隣に張り付くようにしているカイと言う少年は完全にベータだと、確信がある。レジナルドにはセシリオという番があるため、流石にあの独特のオメガのにおいはわからないが、その立ち振る舞いを見ただけで、どのバース性かは大体わかる。それはある意味貴族、いやアルファの宿命とでも言うべきなのだろう。

 ちなみに、意外であるが目の前のカラムはベータである。

 カイロスの国ではアルファやオメガはそもそも総人口に対してパーセンテージがごくわずかだと聞いていたので、そうそう会う事はないだろうなと思っていたがその通りだった。アルファやオメガがいなくても、この国がこれ程までに栄えているのは、カラムが先ほど話した様にカイロス神の存在が大きいのだろうと思う。

「この世界を、もっと広い視野で見た時に、様々な時間軸、パラレルワールドが存在すると言われています」

「パラレルワールド?」

 カイがたどたどしく言葉を復唱し、首を傾げる。

「例えば、もしあの時あの人にあの言葉を伝えていたらどうなっていただろうか。もしあの時、今とは別の決断をしていたらどうなっていただろうかと考えたことはありませんか? パラレルワールドとは、その”もし”や”~だったら”とか”~していれば”が成立していた場合の、その先の世界の事を指します」

「その認識で言うと、世界にはかなりの数のパラレルワールドが存在すると考えられるのでは?」

 レジナルドの言葉にカラムは頷きながら、

「仰る通りです。カイロス様はいくつかの世界のパラレルワールドを行き来して、その全ての世界の統制、管理を行っていると言われています。そして、カイロス様は良く思われない結果の時間軸のパラレルワールドを見つけると、別のパラレルに生きている人間をそのパラレルに送り込んで、未来を変える様に仕向けるのです」

「じゃあ、私達は今、この世界の何かを変えるためにここに送り込まれたということですか?」

 レジナルドの再度の問いに、

「恐らく」

 と、カラムは曖昧に答えるので、

「恐らくと言うのは?」

 テリオスがその追究をしない訳がなかった。

「先ほども申し上げた通り、私たちは、カイロス様からの信託を言葉で受け取ることは一切ないですから。その状況から全てを考えた上で、判断しなければならないのです。ですから、皆さまがこちらにいらっしゃったのは、カイロス神の影響であることは間違いないのですが、それがどうしてかという部分までは、はっきりとお答えするのが難しいものでして」

「じゃあ、ここでそれがわかるまでただ漫然としていろと? 私には今すぐにでも向こうの、自分の現実世界に戻ってやらなければならないことがあるのだ」

 テリオスはいらいらとした様子で、大きな声を張り上げる。隣にいたカイは反射的に彼の腕をつかむと、テリオスは我に返ったようで、

「申し訳ない」

 と、小さく呟いた。

「いえ、そう仰られるのも仕方のないことだとわかっております。それに、今までの例で言いますと、このタイムトラベルに巻き込まれるのはカイロスの民だけだと代々云われてきたのですから、まさか他国の方が一緒に来られるとは、我々としても思いもよらないことで……未来ではそう言った事例はあるのですか?」

 不意に話題を向けられたユーニスだったが、冷静に首を横に振った。

「いえ、聞いたことがありません。カイロスの民は生まれた時から、タイムループやタイムトラベルに巻き込まれるのはカイロス神の祝福のためだと言われて育ってきているのですが、それ以外の国の方については、さすがに」

「そうなんですか?」

 セシリオが驚いた声を上げる。

「はい。いきなり右も左もわからないパラレルに飛ばされて、一人でなんとか出来る様なことであればいいですが、そうではない場合もありますので、これがあることを前提にそれぞれの家ごとで助け合えるように合言葉を決めて、それを代々伝えているのです」

「もしタイムトラベルに巻き込まれても、その一族を頼れるように。手と手をとりあって解決に向けて動けるようにと定めています」

 カラムの説明にユーニスが付け足す。だからこそ、彼はこれまでも冷静でいたのだと感じた。

「カイロス神がわざわざタイムトラベルをさせて、このパラレルに送り込んだ理由を見つけて解決しなければ、我々が、元の世界には戻れないことが分かった。だから早いことその理由を見つけて、どうにかしたいのだが……手掛かりは何かないのだろうか?」

 レジナルドの問いに、カラムは腕を組み、唸り声を上げる。

「実はすでに一度、タイムループを繰り返したのです」

 陰鬱な声で呟いたのに対して、ユーニスの言葉が相反するように響く。

「もうされたのですか?」

 カラムの驚きの声にユーニスは頷いた。

「タイムループ?」

 カイがこてんと首を横にする。

「ここに来て程なくして、また強い光に包まれて、場所が戻った時があったでしょう?」

「ああ、あれか」

 テリオスは振り向きカイを見た。レジナルドの位置から顔は見えないが、声は優しい雰囲気を醸し出していた。今度、カラムやユーニス、レジナルドの方を向いた時には、また鋭い視線が戻っていたが。

 レジナルドはふうと息を吐く。テリオスが言う事態が行ったのは、本当のことだ。

「タイムループをするということは、つまりカイロス神の目論見通りにはいかなかった。つまり、未来の改変に失敗した時です。ですから、タイムループをした時にちょうど遭遇した事態が、今回、皆さんがここに来た理由に大きく関わっていることが多いのです。あとは、このパラレルにたどり着いた時、最初に居た地点の近くにあるとも言われる場合があるようですが……ちなみにタイムループはいつ、どんな場所で繰り替えされたのでしょう?」

「王家の隠し紋のある神殿近くで……」

 カラムは大きく目を見開いた。


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