試合―ルディランズとノノ―(2)
「・・・・・・なんでこうなった?」
「あんだけ煽っといて何をいまさら」
ふむ、と首を傾げたルディランズに、ジェシカが呆れたツッコミを入れる。
「沸点が低いのは相変わらずか」
「・・・・・・ていうか、よくよく考えたら、あんたらの因縁って、十歳にもなってないガキの喧嘩よね・・・・・・」
「失敬な。一応真面目な魔術合戦の結果だぞ」
師に言われたままに相手をした。
とはいえ、大人げなかった、と思わなくもない。
「ろくに実戦経験のない幼児相手だっていうのに、当時の俺は若かったなあ」
「・・・・・・」
からからと笑っているルディランズに、はあ、と一つため息を吐いた。
二人は今、協会の地下に設置された訓練場に来ていた。
実技試験などで使われることもある場所だ。
広さがあり、天井も高い。
また、四面敷かれた二十五メートル四方の舞台は、内部で起こったダメージを無効化する魔道具が設置されており、安全に力試しができる。
その舞台の一つを借りて、ルディランズとノノが向き合っていた。
それぞれ、セコンドとして、ルディランズにはジェシカが、ノノにはゼットがついていた。
他の聖遣隊のメンバーや、会議に参加していた面々は、もう観客と化している。
さらには、訓練場を使っていた一般の冒険者や、職員の一部が観客として集まりつつある。
「・・・・・・あー」
立会人を任されたライアンが、しかめっつらをしつつも、中央に立つ。
立会人に、協会の支部長、すなわち、アビロアの冒険者協会のトップが立っている、ということで、この試合の注目度が高くなっているところもある。
「では、ルディランズ・マラハイトとノノ・マインの試合を始める」
「・・・・・・いやあ、面倒だなあ!」
「顔がめっちゃ楽しそうね・・・・・・」
テンション高く、腕をぐるぐる回しながら、笑顔でルディランズは前へと進んだ。
魔術バカらしく、魔術を競い合う、というのが楽しくて仕方ないらしい。
一方で、対面に進み出たノノは、分かりやすく興奮している。
というか、ちょっとキレていた。
「ぶっ殺す!」
「・・・・・・ちょっと、かしらね?」
殺伐とした宣言を聞いて、ジェシカは首を傾げた。
「ほんと、何やったのよ?」
「模擬戦やって、ぶっ飛ばした。言葉にすると、マジでそんだけなんだが・・・・・・」
ルディランズの対面で、ノノはセコンドについたゼットになだめられている。
ただ、あれは勢いを落としているように見えて、明らかに煽っている。
「・・・・・・まあ、十年ぶりくらいだし」
「ちなみに、戦績は?」
「一年くらい毎日やったし、日に二回三回やった時もあったから・・・・・・、五〇〇戦くらいやって、俺の全勝?」
「・・・・・・なるほど」
ぶっちゃけてしまうと、危なげなく全勝だった。
「さてさて、それでも、聖遣隊に入ってるくらいだし、期待できるよなー」
へっへっへ、とルディランズは笑っている。
聖遣隊に所属している、となると、冒険者の等級は、三等級以上。
レベルは、一〇〇近いはずだ。
「よし、しっかり見るぞ」
「はいはい。怪我しないでね」
「まかせな」
******
ノノは、自分の杖を握りしめる。
ルディランズの師の元を訪ねた後、師からもらった杖だ。
でき、というか、素材がよくて、今のところこれ以上の杖に出会えていない。
もっとも、ルディランズが持ち出してきた杖も、あの時ルディランズが持っていた杖と素材は同じに見える。
「・・・・・・なんだかんだで、やっぱり杖の素材はあそこが最上級、か」
「うん?」
ぽつり、とつぶやいた声を聞きつけ、ゼットが首を傾げたが、なんでもない、と手を振って遠ざける。
「やるわ」
「がんばれー」
気のない応援を置いて、ゼットは舞台から降りていった。
それを見送って、集中力を高める。
杖とそして帽子に魔力を込めて、
「やったるわ!」
「おう。見してみ?」
ルディランズが、こいこい、と手招きをしている。
「では・・・・・・はじめ!!」
ライアンの合図に合わせて、先に動いたのはノノだった。
杖から魔術を詠唱する。
「一に【ヒ】、二に【飾り】、三に【労い】、四に【本】」
杖から炎が噴き上がる。
噴き上がった炎が収束し、槍の形を取った。
「貫く炎―ピアシングフレア―」
その槍の数は三つ。
それぞれに、異なる軌道を持って、ルディランズを狙う。
それに対して、ルディランズは、杖を立てた。
腕を振るい、魔力を集められた指先が発光し、その動かした後に軌跡が残る。
その軌跡が一定の図形を描いた直後、魔術が発動した。
それは、同じ炎の魔術だ。
だが、ルディランズが発動したのは、槍ではなく、壁だった。
それが、回転し、渦を作り、その流れにノノが放った槍が巻き込まれ、動きを失う。
そして、ルディランズが作り上げた渦の勢いが増した。
ルディランズが、トン、と杖の石突で床を突くと、そうして燃え上がっていた炎が、今度は逆向きに収束した。
そして、ノノが作ったような炎の槍が、今度は、七本、出来上がるのだった。
・杖
魔術に使われる杖は、自然物であるほどいい。
加工が入るとそれだけ性能が劣化する。
金属製品は特に悪い。
理想的なのは、できうる限り樹齢の高い樹木の枝などだが、自然に杖に使える形の枝は珍しいので、ある程度削ったりして加工は必要になる。
ただの枝であるため、物理的な性能は、推して知るべし




