試合―ルディランズとノノ―(1)
「ちょいちょい」
「ん?」
会議が終わった後、ルディランズは手招きされていることに気づいた。
手招きの主は、聖遣隊の斥候役、ゼット・ポームである。
呼ばれる理由がわからず、ルディランズは、首を傾げた。
しばらく考えて、ゼットの役目が斥候役、というところから、ルディランズの役割について確認したいことがあるのだろうか、とあたりをつける。
「なんだ?」
「おう。ちょいと聞きたいんやけどな」
近寄ると、ゼットはルディランズの近くに顔を寄せて、声を潜める。
「おっと。ワイとしたことが。ゼット・ポームや」
「ルディランズ・マラハイト」
「おう。でな。ちょいと兄さんに聞きたいことがあるんやけど」
「・・・・・・なんだ?」
わざわざ声を潜めるあたり、重要な話か、と思いきや、
「ウチのノノ嬢がよ。兄さんになんか因縁あるっぽいんやけど、なんか心当たりある?」
「は?」
思ってもいないことを聞かれて、ルディランズはきょとんとする。
それから、ノノの方へと目をやった。
小柄で華奢な、年若い魔女である。
黒いローブに黒いつば広の三角帽子をかぶり、長い杖を持った、見た目に分かりやすい魔女である。
赤毛に、青い目。
多少童顔ではあるが、整った顔立ちは愛らしく、小柄でローブに包まれているために目立ちにくいが、女性らしい体つきも見える。
「なんでそんなこと聞くんだよ?」
「だってよ? いつも澄ました顔してるのに、兄さんの話する時は、結構感情出てたんよ。こりゃ、なんかあるな、と」
どちらかというと下世話な顔で、ししし、とゼットは笑った。
その仕草に、ルディランズは呆れる。
「仲間の過去を詮索してやるなよ」
「いやいや。ワイのカンがな? こりゃ、なんか面白いことあるなー、と思うねん」
「・・・・・・んー」
さて、どうしたものか、と考えたところで、ちら、とゼットの後ろへと目をやる。
「・・・・・・んー」
それから、すっと身を退いた。
「あん?」
その仕草に、ゼットが怪訝そうな顔をしたとき、後ろから声がかかった。
「ゼット」
「うひぇ!」
「楽しそうな話をしているわね」
「おう。ノノ嬢。なんやきこえとったんかいな」
「悪びれないわねー・・・・・・」
「別にええやん? それより、どうしてなん?」
「もう、直接聞くのね」
はあ、とため息を吐いた後、ノノは、ルディランズを見上げる。
「・・・・・・久しぶりね」
「そうだな」
「へえ? あたしだって、すぐわかるのね?」
「そりゃ、なあ・・・・・・」
ルディランズは、にやり、と笑ってから、ノノの頭に手をやった。
「変わってねえし」
「どういう意味よ!!」
べし、と頭の上の手を払いのけ、ノノは吼えた。
「て言ってもな。相変わらずちっちゃい」
「ちっちゃくない! あんたが伸びすぎ!!」
「はいはい」
へらへらと笑うルディランズを、きー、とノノが吠え掛かる。
「結局、どういう仲なんよ?」
「あ、それ私も気になるわ」
「ジェシカまで」
「だって、私の知らないルディの交友関係とか、気になるもの。ルディ、先生のところから出てきて、すぐに冒険者になって、それからそう経たない間に、私たちとパーティー組んでるでしょ? となると、それって、私達と会う前のことじゃないの」
「ふむ・・・・・・」
「気になるわあ」
「はいはい・・・・・・。まあ、大した話じゃないんだけどなあ」
ルディランズは、少し悩んで、口にした。
「昔、俺の先生のところに、こいつが魔術を見てもらいに来てな」
なつかしいねえ、とルディランズは思い返す。
当時のルディランズは、魔術の師である人物のところに住み着いて暮らしていた。
そこに、師のウワサを聞きつけてやってきたのが、ノノだった。
天才魔術師、とそう呼ばれる人物は数多くあれど、ノノ・マイン、という魔女は、間違いなく天才である。
若干五歳にして、独学で魔術を行使し、七歳の時には、上級の魔術を使いこなすようになっていた。
ただ、そこからノノは伸び悩む。
周囲は、まだ十にもならないのだから、と楽観する中、当の本人だけがその伸び悩みを解決するため、一つの噂に飛びついた。
それが、ルディランズの師の話だ。
そして、ノノは旅をして、ルディランズの師のもとを訪ねてきた。
ノノが、目的地にたどり着いたのは、ルディランズが九歳、ノノが八歳の時である。
「・・・・・・まあ、俺の先生は、ノノを弟子に取るつもりこそなかったけれど、遠方から訪ねてきたのを無下にに追い返すのも悪いからって、ちょっと魔術を見ることになってな」
「あんたは、弟子だったのにね」
「俺は、まあ、言って異常者だったからな」
「自分で言うの?」
ジェシカは、呆れたように言うが、ルディランズは肩をすくめるにとどめた。
「で、魔術を見るんだったら、模擬戦がいいだろう。だったら相手がいるだろうってんで、俺が相手することになってなあ」
「ふうん。で?」
「いかにもなメスガキっぷりに、いらっと、来て・・・・・・」
「イラっときて?」
「思わずぼこぼこにしちまった」
ははは、と笑ったところで、ノノが爆発した。
「されてないし!! 手加減してやっただけだし!!!」
・魔女装束
黒いローブと鍔の広い三角帽子、あと身長並みに長い杖。
魔女の装束として、一般的なもの。
伝統的なものだが、単純なファッションではなく、魔術を行使する上でも効果が高い。
最大の理由は、魔女として活動する上での必要なとある儀式のために、三角帽子が必要になるため。




