アビロアの魔術研究会
ルディランズは、魔術バカである。
基本的に、暇な一日はひたすら魔術を研究している。
ルディランズは、魔人種としての血はかなり薄い。
というか、母親から継いだドライアドの血と、父親から継いだシェミハルの血。
この二つの血が濃すぎて、他の血は駆逐されているのだ。
ちなみに、この二つの血を同時に持つことはかなり珍しい。
両方とも、優性遺伝としてはかなり強い部類に入るため、同時にどちらも発現する、ということはまずないのである。
「・・・・・・」
魔術の研究とは、何をするのか。
それは、魔術師によって、千差万別だ。
例えば、新しい魔術の詠唱法。
あるいは、古代に失伝した魔術の復古。
魔術に使う触媒の研究や、魔術薬の開発も、魔術の研究のうちに入る。
とはいえ、ルディランズの場合は、それだけをしていればいい、というわけではない。
「先生。これなんですけど」
「はいはい」
ルディランズは、バイトとして、魔術の教師をしている。
ちなみに、冒険者の中でも割と名が売れている冒険者には、こういう仕事をしている者は多い。
「まあ、やってみればわかるんだが」
「・・・・・・やってみていいんですか?」
「どうぞ?」
「・・・・・・先生がそう言うってことは、これ失敗するんですね?」
「そういうのも、経験だぞ?」
「えー・・・・・・」
ルディランズは、面倒を減らすために、暇なときに魔術教室を開いているタイプだ。
きっちりと面倒を見ているのは、同じクランに属するウィシアくらいだが、それでも魔術教室で教師役位はする。
なお、アビロアには、冒険者向けの魔術教室が存在する。
教室、というか、共有の研究室、かもしれないが。
過去に、アビロアに拠点を置く大ギルド『アドベンチャラーズ』のギルドマスターが提唱した、アビロアに拠点を置く魔術師向けの共同の研究室である。
新人の魔術師相手なら、熟練の魔術師がことを教える。
熟練の魔術師同士なら、それぞれが持っている理論を戦わせて、より高みへと昇る。
そういう場所だ。
「魔術、というのは、基本的に試して成果を見る方がはやい」
「それはそうですけど、失敗したらどうするんですか?」
「基本を押さえておけば、とりあえず失敗しても危険なことにはならんさ」
ははは、と笑う。
「先生」
「どうした? ウィシア」
「あのですね・・・・・・」
ウィシアは、魔術師としては、少々異端だ。
魔術は、広く普及している技術だ。
だが、術、としての性能だけなら、神人種が使える神術や、亜妖精種、半精霊種の使える精霊術などの方が高い。
特に、亜妖精種であるウィシアは、精霊術を使った方が圧倒的に高いパフォーマンスの術を行使できる。
実際、教室にいる生徒は、その大半が、血統のわからない混血の亜人種か、魔人種である。
それでも、ウィシアは、魔術を選んだ。
そのあたり、ルディランズは理由は聞いていないが、ルディランズ自身も、自分に向いている方法より、魔術を選んだ身である。
そのあたりが、ウィシアに先生と呼ばれても拒否しない理由でもある。
「ここは、こうした方が確実だな」
「あ、なるほど」
「魔術っていうのは、基本的に制御に重きを置けばいい。制御を緩めれば威力が上がるし、制御をきつくすれば威力が下がる。あとは、目的に応じてバランスだ」
「はい」
ウィシアにアドバイスをやりつつ、ルディランズは魔術の詠唱式を構築する。
指先で線を引いて、魔術の陣を作成する。
「わかるか?」
「はい。・・・・・・なるほど、こうするんですね・・・・・・」
はー、と感嘆の息を漏らすウィシアに、ルディランズはうむ、とうなづく。
「なんというか・・・・・・」
そんな様子を見て、ベアトリスが首を傾げた。
「ルディランズが普通に教師をやっているのを見ると、違和感がすごいな!」
「言ってろ・・・・・・」
というか、
「お前は、何しに来たんだ?」
「ルディランズが、先生をやっていると聞いて」
「お前に教えることなんて何もないんだがなあ・・・・・・」
「何を言うか」
ふん、とベアトリスは、眼帯をつけた顔を不機嫌そうにゆがめ、
「お前が、我より優れた魔術師であることは、疑いないであろうが」
「あほか。俺とお前じゃ方向性が違うんだよ」
「方向性?」
「ん? ああ、そうだなあ・・・・・・」
ウィシアの首を傾げた疑問に、ルディランズはふむ、と考える。
「俺は、広く深く魔術を使う。ベアトリスは、狭くより深く魔術を使う。そういう違い?」
「え?」
「俺は、自分の個性としては魔術向きじゃないからな。魔術を使うには、広く浅くを繰り返して深くするしかない。・・・・・・お前もこのパターンな?」
「はい」
「ベアトリスは、才能があるから、そこをとにかく深掘りした方が、強くなるんだな」
「そうなのか?」
「なんでお前自身が疑問形なの?」
ベアトリスのきょとん、とした顔に、ルディランズが辟易した顔をする。
「ベアトリスさん。今日は暇なんですか?」
「暇じゃよ?」
「なんだその口調」
「我は、基本的に、センスで魔術を使っている。理論は後追いなのだ」
「もうちょっと勉強しろー? な?」
「ならばお前が教えるがよい!」
「なんで上から目線なの?」
やれやれ、とルディランズは苦笑した。
・ドライアド
樹木に宿る、半精霊種。
実際のところ、『力ある隣人たち』の一種である、精霊族に極めて近い種族。
樹木に宿っている場合は、精霊族に近くなる。
樹木から出ている場合は、人間に近い半精霊種になる。
宿っている樹木が枯れない限りは、死なない、実質寿命のない不老長寿な存在。
現状、最も大きい存在は、『樹海領域』に含まれる多数の樹海の一つ、『紫貴樹海』の女王。
『紫貴樹海』は、樹海を構成するすべての樹木が、ドライアドである女王そのものである樹海。
樹海の中で起こったことは、すべて女王に知れるし、樹海の中で、女王の思い通りにならないことはない。
ドライアドのような半精霊種は、こと自分の領分に関しては、誰よりも強い。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
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