依頼報告
冒険者協会の建物は、一階が広いロビーになっている。
一角には受付のカウンターが並んでおり、一角には依頼書を貼り付けた掲示板が並んでいる。
そして、残った区画は、待合室と、冒険者同士の交流のためのロビーだ。
世間では、冒険者には荒いイメージがあるが、このロビーにいる冒険者は、行儀がいい。
暴れればペナルティを食らった上で、叩き出されるのだから、まあ、当然ではある。
一応、ロビーの片隅には飲み物と食べ物を提供する店舗はあるが、酒は出していない。
だから、それほど規律の乱れもないのだ。
一方で、
「うおっしゃあ!」
ぐ、と叫びが上がる。
ロビーのテーブルの一つで、力試しとして腕相撲をしていた冒険者の勝者が発した、勝利の雄たけびである。
「おうし! おら、俺の勝ちだ。賭け金よこせや」
「くっそ、負けた!!」
どうやら、腕相撲で、賭けをしていたらしい。
このくらいは、戯れの範囲である。
ただ、
「へっへ、雑魚がよぉ」
「ああん? イキってんじゃねえぞ? おらぁ!」
そういうことをやっていると、酒が入っていなくとも、ボルテージは上がっていく。
そうして、額を突き合わせ、青筋を立てながらのにらみ合いが発生し、もうケンカまで一触即発、となったところで、
「みなさーん? あんまり騒ぐと、叩き出しますよー?」
「・・・・・・へーい」
エレナが、全く笑っていない目をしながらほほ笑んで告げると、集まっていた冒険者たちは、血の気の引いた顔でそれぞれに散っていく。
「なんていうか、まったく・・・・・・」
ふう、とため息を吐いて、エレナは受付のカウンターへと戻る。
誤解されないように言っておくが、エレナに冒険者たちを制圧するような強さはない。
ただ、協会職員に逆らった場合、冒険者は立ち行かなくなる、というのは、冒険者の常識である。
まあ、怒ったエレナが、冒険者たちの血の気が引くほどに恐れられているのは、また別の話だが。
その時だった。
ロビーの扉が開き、新たな人影が中へと入ってきた。
それは、『虹追いの竜』の四人だ。
エレナは、冒険者協会の建物に現れた四人の姿を見て、ほっと息を吐いた。
ある程度の移動をしたため、多少くたびれてはいる。
だが、無傷で元気そうだ。
笑顔を浮かべていて、達成感に満ちている。
だから、ちょっと伝えるのがためらわれる。
「エレナさん。終わりましたー」
「はい。では、ここ行ってください」
「へ?」
カウンターにやってきて、薬草の入った袋を出してきたエミリーに、す、と紙を渡す。
それは、地図である。
「ええっと、そこが、まあ、依頼主さんの工房ですから」
「ん?」
「今回の採取物は、直接依頼主の方へ届けてください」
「えー・・・・・・。ここまで、帰ってきて?」
「たらいまわしみたいで申し訳ありませんけれど、指名依頼の場合は、依頼主さんに提出が基本なんです」
「・・・・・・先言ってくださいよ」
エミリーが、肩を落とす様を、さすがに申し訳ないと思いながら見る。
だが、エレナとしては、ちょっと咎める気持ちもあった。
「ええっと、一応、依頼書の方に、注意事項として書いてありますよ?」
「え?」
そ、とエレナが依頼書の写しを渡す。
エミリーは、それを受け取って、目を通して、あ、と声を漏らした。
確かに、そこには、注意として確かにそういう一文が書かれていたからだ。
「見逃していた・・・・・・」
「慣れてきたころに、よくある見落としではあります。まあ、とにかく、急いで依頼主のところへ行ってください。薬草に関しても、鮮度が命ですからね」
「はい」
*****
「おやおや、持ってきたかね」
デニスの元を訪ねると、使用人に案内されて、デニスの工房へとたどり着いた。
「さて、それでは、薬草を見せてもらえるかの?」
「はい。これです」
テーブルの上に袋を乗せる。
「どれ・・・・・・」
中身を取り出す。
水で湿った綿で根を包み、それごと革袋に入れて、水がこぼれないように口を縛ってある。
デニスは、それぞれの縛りを外して、薬草の状態を検分していく。
「・・・・・・ふうむ」
じっくりとした鑑定に、四人は、知らぬうちに息を飲む。
そして、しばらくして、
「ふうむ。一本だけかな?」
「見つかったのは、一本だけでした」
マーク達は、一応森の中で崖っぽいところを探し、何か所か回っている。
だが、結局見つかったのは、一本だけだった。
「そうか」
「・・・・・・あの、マズイ、ですか?」
「ふうむ。ちょっと、根がちぎれとるし、傷もついておる」
「あ・・・・・・」
言われたところを見れば、葉が傷ついていたりする。
その分、減額だろうか、とエミリーは肩を落とすが、
「なあに。このくらいならば、品質に大きい影響はないはずじゃ」
「あ、じゃあ・・・・・・」
「うむ」
デニスは、依頼書にさらさらっと、サインを入れる。
「これを持って、協会に提出しなさい。それで、報酬が受け取れるはずじゃ」
「ありがとうございます!」
四人がそろってした礼に、デニスはうむうむ、とうなづいた。
「ところで、他に薬草なんかの採取はせんかったかの? もしよいのがあれば、こちらで買い取るぞ?」
にや、と笑って、デニスは告げる。
それに対し、四人は顔を見合わせ、それぞれに薬草の束を出した。
せっかく森に行ったのだからと、いろいろ知っている範囲で摘んでは来た。
「ふむふむ」
それぞれを鑑定し、協会に出すよりはちょっと高い金額で買い取ってもらい、ほくほくした顔で、四人はデニスの工房を後にした。
・冒険者のマナー
冒険者は、その仕事の大半が、戦闘が絡むものになる。
そのためか、どうしても気性が荒くなりがち。
だから、わりとあちこちでケンカをする光景はよく見られる。
冒険者のケンカは、冒険者ライセンスを持っていない者を巻き込まない限りは、ある程度大目に見られる。
それでも、協会の施設内でやらかすと、ペナルティを食らうことも多い。
一方で、ある程度のランク以上の冒険者になってくると、一般的には行儀がよくなってくる。
そういう方が、依頼をこなすうえで有利、と実感していくからだ。
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別のも書いてます
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




