冒険者登録(5)
「では、かんぱーい!」
「乾杯」
「か、かんぱい、です」
「・・・・・・・・・・・・」
軽い口調のルディランズの掛け声に合わせて、杯が合わされる。
クランとなった『虹の飛島』の拠点となる屋敷。
トリオからパーティーとなった時、その際に得た竜退治の褒賞から買った屋敷だ。
買った時点でそれなりに巨大な屋敷だったが、その後増築と改築を行った結果、さらに巨大になっている。
このレベルの屋敷を持っている、となると、それこそ高位貴族の一部か、ギルドクラスの大所帯くらいだろう。
やり過ぎ、と止められつつも強行したジェシカは、この屋敷を仲間で一杯にしたい、という野望を語る。
結局、それからクランに昇格して、十分に屋敷が使われている状態を鑑みるに、無駄な投資ではなかったのだろう。
その拠点の一室。
食堂に隣接した個室で、四人の男女が卓を囲っていた。
一人は、ルディランズ・マラハイト。
乾杯の音頭を取り、いち早くジョッキに口を突けて、エールを飲み干している。
一人は、フィアマ、と仲間内から呼ばれる女。
少し斜め下に伸びる長い耳は、亜妖精種族の特徴だ。
本名は、リーフィクラティアマ・ゼスト・ストルマフ。
もう一人は、同じく亜妖精種族の、ウィシア、と呼ばれる少女である。
ルディランズを先生と呼ぶ、魔術師だ。
本名は、ウィシアレルディス・セッティア・ストルマフという。
ストルマフという名からもわかる通り、二人は、同じ一族の出身である。
そして、最後の一人は、ブレア・フェス。
ルディランズの奴隷として買われ、ルディランズのパーティーメンバーとして、冒険者登録をしたばかりである。
この四人で卓を囲んでいるのは、単純に、ルディランズが拠点に帰ったところで、この二人が暇をしていたからだ。
「昨日のパーティーやったっていうのに、今日もやるのね」
フィアマの呆れたような声に、ルディランズは首を傾げる。
「今日は、ブレアの冒険者登録記念と、クラン加入記念だって」
「ふーん」
くるくる、と杯をまわし、フィアマはワインを飲む。
それから、じっと、ブレアを見た。
杯に注がれた酒をちろ、と舐めて、う、と顔をしかめていたブレアは、フィアマの視線を感じて、顔を上げる。
「?」
「ブレアには、クランマークを渡そう」
その視線に首を傾げていたブレアに、ルディランズは一つの記章を手渡す。
「これは・・・・・・?」
「クラン以上になると発行可能になる、クランマークってものだよ。ライセンスカードと触れ合わせてみな」
ブレアが、言われた通りにライセンスカードを取り出し、渡されたクランマークを当てると、ライセンスカードにクランマークが吸い込まれ、ライセンスカードにクラン所属の証がついた。
「それで、クラン所属ってことになる」
「何かあるんですか?」
「クラン所属は、ライセンスカードとは別に、強化効果が発生するんだよ。性質は、クランのそれによるが」
「ちなみに、『虹の飛島』のクランだと、どうやら身体能力強化率にプラスの補正があるみたいよ」
フィアマの捕捉に、ルディランズはほう、と頷いた。
「もう検証済みか」
「調べておいて、損はないから」
フィアマは何でもないように言うが、クランマークが支給されたのは、昨日のことだ。
効果をしっかりと確かめているのは、実に手際がいい。
「というか。貴方、本当にその子を仲間にするつもり?」
そのフィアマの声を受けて、ウィシアも疑問の声を挙げた。
「・・・・・・先生。本当に、一からパーティーメンバー集めるんですか?」
「一から集めるってのも変な話だけどな。お前らのパーティーだって、足りないメンバーを補充する必要があるだろう?」
「それはそうだけどね」
クランへの昇格にあたり、『虹の飛島』のメンバー数は、ぎりぎりだ。
サポートメンバーを冒険者としてパーティー申請しているからこそ、クランへの昇格条件を満たしたようなものなのだ。
実働のメンバー数だけだと、人数が足りていない。
「まあ、クランにした以上は、放っておいても人は集まるだろう。応募してきた情報は、拠点の方に届けてもらうように言っといたし」
「聞いておきたいんだけど」
「うん?」
「何でその子なの?」
ブレアを使う理由、だろう。
ぶっちゃけるとルディランズは、レベル二六、とレベルが低い。
それでいて、虹の飛島の初期メンバーである。
いろいろと、やっかみを受ける立場だ。
そこで、奴隷を、しかも少女をパーティーメンバーとして迎えた、となると、それらの悪評はさらにひどくなるだろう。
「使える、と思ったからだよ」
「わたしには、よくわかりません」
ウィシアは、その答えに、ちょっと憤然として答えた。
「先生のことだから、考えがあるのだとは思いますが」
「こいつに?」
ウィシアの言葉に、かぶせ気味にフィアマが声を挙げる。
「・・・・・・こいつよ?」
「フィアマさん。さすがに、言いすぎ・・・・・・」
「運が良かったのは事実だが、使い魔として運用するんだから、ちゃんと考えはあるってば」
「使い魔ぁッ?!」
ルディランズは何でもないことのように告げるが、その内容に、フィアマは驚きの声を挙げた。
「人間を使い魔にするとか、正気?」
「ありよりのありだろ。精霊術に仕組みは似たようなもんだぞ」
「ふざけんな。精霊術とは違うでしょうが」
「ははは。俺には違いはわからんなあ」
ルディランズとフィアマの二人が、喧々諤々と、それぞれの理論をぶつけ始めたのを見て、ウィシアはそっとブレアに寄った。
「大丈夫ですか?」
「・・・・・・正直、取り巻く環境が二転三転していて、何が何やら、と混乱しています」
「ええっと、先生は、魔術には変な人ですけど、他は割と真面目な人です」
「魔術には・・・・・・」
「わたしの、魔術の先生なんです」
にこり、とウィシアは、ブレアに微笑んだ。
「・・・・・・ええと」
「どうしました?」
「私が、どうしてご主人様に選ばれたのか、今もよくわかってなくて」
「うーん。それは、どうしてなんでしょう? 多分、先生にしかわかりませんね」
「そう、なんですか?」
「お? ブレアを選んだ理由か?」
二人で話していた間に、ルディランズが声をかけた。
フィアマの方は、憤然とした様子で、杯を重ねている。
議論には、何かしらの決着がついたらしい。
「ブレアを選んだ理由な。ぶっちゃけて言うと、ブレアが呪われてるからだ」
「呪い・・・・・・?」
「おう!」
首を傾げるブレアに、にっかり、とルディランズは笑うのだった。
・亜妖精種族
この世界にいる、人類の種族の一つ。
細長い形をした耳が特徴で、精霊と交信することで精霊の力を行使する精霊術が使える。
精霊術は、基本的に魔術より強力なため、亜妖精種族は、例外なく優れた術師である。
森に住まうエルフ、洞窟に住まうドワーフなどがいる。




