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ポニーテールの勇者様  作者: 相葉和
118/206

118 ニューロックへの帰還

「ロティナ、すまんがその調味料を取ってくれ」

「はい、ジェイス様」

「あ、ジェイスさん。すみませんが使い終わったらオレにも貸してください」

「あんたたちー!おかわりは!?」

「はい、わたしビアくださーい!・・・あ、でも自分で取りに行きますのでロゼッタさんはユリウスを見ててあげてください」

「ユリちゃん、気遣いありがとうね、好きなだけお飲みよ。どうせ勘定は太守・・・じゃなくてジェイス様持ちなんだろう?」

「城の建築費用もあるので、ほどほどに頼むよ。ははは・・・」


先日の攻城戦から二日が経った。

お城を潰してしまったわたしのせいで住む所を失った太守、もといジェイスとロティナは、わたし達が逗留している『黒豚亭』で一緒に宿泊していた。

そして今、一緒に晩御飯をいただいている。

なお、太守のジェイスについては『もうこの国の組織から外れるつもりなのだから、太守呼びはやめて欲しい』との事で、皆、名前の方で呼んでいる。


・・・名前呼びになって一番嬉しそうなのはフィアンセのロティナさんかな?

宿で一緒に寝泊まりしているのも楽しそうだし。

お城の生活は息苦しかったのかな?


当初は領主たるジェイスが気軽に町の宿屋なんぞに泊まってていいのかと疑問に思ったが『勇者御一行と気兼ねなく同じ屋根の下で過ごせる機会を逃す手はない』とかなんとか言って普通に宿泊名簿に記帳していた。

一応、護衛の兵士が交代で宿を警備しているが、その兵士も町の人からの差し入れを貰ったり、ご近所さんと雑談をしていたりする。

職責についてはやや疑問もあるが、ニューロックと同じく、もしくはそれ以上におおらかでよい領地だなと思った。

なお、城に住み込みだった使用人や兵士の皆さんは経費で町の宿屋に泊まったり、近所に実家がある人は一時帰宅していた。


食事が済み、太守から今日の調査状況を聞かせてもらった。


攻城戦終結後、太守はすぐに投降した兵の捕縛や瓦礫の下敷きになっている者の捜索、そして黒幕である太守次官シュクリフと騎士隊長ベルノの捜索を手配した。

そして太守次官と思われる遺体は発見できたものの、ベルノの遺体は未だに発見できずにいた。

今日も引き続き探索と瓦礫の撤去が行われ、一応一通りの作業は終了したそうだ。


「城の瓦礫の撤去は概ね終わった。ベルノはまだ見つかっていない。その他の死者と投降した敵兵・・・いや、反乱兵についてはほぼ全員の照合が終わった。帰らぬ人となった兵には申し訳ないことをしたがな。中には反乱に本意では無かった者もいたことだろう」


たしかに上官からの指示で嫌々ながら反乱に参加した者や、状況的にノーと言えなかった兵士もきっといるだろう。

そう思うと、気が重たくなった。

わたしが城を潰した訳だし。


呑気にビアなんて飲んでてごめんなさい・・・


「いや、決して勇者殿のせいでは無いぞ。もしも勇者殿があのようにしてくれなければ、我々は正面から戦いに挑み、もっと多くの犠牲を出していただろう。勇者殿のおかげで最小限の犠牲で済んだのだ」


わたしが暗い顔をしていた事に気がついたのだろう。

あわてて太守がフォローしてくれたが、少なからず命を奪った事には違いないのだ。


「それに、救った命だってあるのだ。勇者殿はそれを忘れてはならないよ」


そう言って太守がロゼッタとユリウスに顔を向けた。

太守の視線に気がついたロゼッタが笑顔を返す。

昨日、ロゼッタは産まれた赤ちゃんの名をぜひわたしに付けて欲しいと懇願してきた。

そんな恐れ多いこと出来ないと断ったが『ユリちゃんが救った命なんだし、ユリちゃんに命名の責任がある!』というとんでもない理論で押し切られ、名前を付けることになった。

とりあえずわたしの名前にちなんだ名前がいいと言われたが、男の子に『ユリ』の発音はどうなんだろうと色々考えた末、偏った知識の中から『ユリアン』と『ユリウス』の二択を提示したところ『ユリウス』に決定した。

ユリウスは今、母の腕で眠っていた。


・・・本当に無事に産まれてくれて良かった。


なお、ロゼッタに『勇者様』と呼ばれるのもなんかむず痒かったので名前で読んでもらうようにお願いしたところ『ユリちゃん』と呼ばれるようになった。

わたしもそのほうが嬉しい。

ちゃんづけ呼びは身内ではエスカだけだし。


・・・あ、エスカさんで思い出した。

アーガスのみんな、港に残ったままじゃん。


「ねえエリザさん。わたし達はいつ帰ります?港でアーガスの皆も待ってますよね?」

「そうだね。ジェイスさんとの話もついたし、明日にでも帰ろうか?」


昨日、太守とエリザとアドルがこの宿屋の一室で会談を行い、ニューロックと協調路線を結ぶことで合意していた。

互いの技術提供や貿易が盛んになるように貨物の定期便就航など、様々な話し合いが持たれた。

また、近いうちにニューロックの技術者をこちらに派遣する事にもなった。

そろばんの制作技術、そしてそろばんのオンライン授業をライオット領でも受講できるようにするのだ。

もちろんそろばんだけじゃないけど、わたしにとってはこれが一番大事。

その他、細かい所はカークとジェイスでまとめてもらえばいい。


「そんなに慌てなくてもよかろう?それに勇者殿の体調はもう万全なのかね?」

「ええと、まあまあ、ですね」


魔力の使いすぎで昨日はろくに動くことが出来なかったが、今日は普通に歩くことも会話することも問題ないレベルには回復している。

ただし、魔力についてはあまり回復していない。

ディーネとサラがいるので大丈夫だろうけど、一応そこは悟られないようにしている。


「未だに見つかっていないベルノが気がかりですけど、わたしとしては早めに一度ニューロックに戻りたいと思います」

「ベルノのことはライオット領で責任を持って対処したいと思う。捜索隊も編成した。町の守備も固めてある。領地内全域に私の意向も伝えてあるし、もはやベルノに味方する者もいないだろう」


もし生きているのであれば王都へ脱出したかもしれない、とジェイスは言った。

ベルノはわたしが直接ぶん殴ってやりたいと思っていたが、ジェイスがやる気を出しているならばジェイスに任せることにする。

わたしがエリザに小さく頷くと、エリザは少し考えた後、姿勢を正した。


「ではジェイスさん。アタシ達は明日、出発したいと思います」

「ふむ。分かった。では港までの足はこちらで手配しよう。なに、またすぐに会える。おそらく次はこちらからニューロックに赴く事になるだろう。調印式的なものが必要だろう?」


どうやら近いうちに、今度はニューロックにて、ジェイスとその若奥様に会うことができそうだ。



翌日、ジェイスとロティナ、そして町の人達に見送られながらわたし達は馬車でアコニールの町を発った。

アコニールの町に来た時と違って今度は護衛の騎士に周囲をガッチリと守られ、一路、港へと向かった。

そういえば今回の旅ではライオット領の中央や東側に行く機会が全くなかったので、次回来た時には是非そのあたりも見て回りたいと思う。

この領地もそれなりに魔石が取れるそうだし、盛大に行われるというお祭りも見てみたい。

私の中では既にリオのカーニバルのイメージで出来上がっているが、流石にサンバのお姉さんほどの肌の露出は無いだろう。


「あ、サンバといえば・・・」

「ユリよ。どうしたのじゃ?」

「ううん、ただの独り言。たいしたことじゃないのよ」


私の独り言に反応したディーネに、なんでもないという身振りを返した。


「港に入領管理官のサンバっていう名前の人がいたのを覚えてる?ちょっと感じ悪くて、五人までしか領地に入っちゃ駄目だとか、難癖をつけてきた人」

「妾は一目見ただけじゃが、なんとなく覚えてるのじゃ。それがどうしたのじゃ?」

「その人のことをふと思い出しただけ。出航するときにも難癖をつけられなければいいなって」


その後は馬車で皆と他愛のないおしゃべりをして、途中でお昼休憩をはさみつつ、寄り道無しで真っ直ぐ港に向かい、夕方前には港に到着した。

すぐに入領管理事務所に向かい、領地を出るための手続きに向かった。


「おう!ニューロックから来た御一行じゃねえか。太守の放送を聞いたぜ。首都では大活躍だったみたいだな。次に来るのはいつだ?歓迎するぜ」


難癖どころか、両腕を広げて笑顔で迎えられた。


「えーと、あなた・・・本当にサンバさんですか?」

「サンバだよ。他の誰に見えるんだ?」

「えーと・・・サンバさんの双子の兄弟とか?」


最初の印象と違いすぎて気持ちが悪い。

太守次官が倒されたので掌を返したのだろうか。

とにかくサンバの態度が変わりすぎて面食らっていることを正直に伝えた。


「お前な・・・まあ、そう思われても仕方がない。むしろ俺が変わったんじゃねえよ。周りを見てみろ」

「周りですか?」


事務所内を見渡しても特に変なところはない。

・・・あ、むしろ、なくなってる?


「人が減ってます?」

「ああ。お前らが初めてここに来た時は、もっと人がいただろう?あれな、太守次官が派遣したお目付け役だ」


サンバの説明によると、太守次官が派遣したお目付け役達はわたし達が領地に来るのをずっと待っていて、もしもサンバや他の職員がわたし達に便宜を図ったりしないように監視していたそうだ。

あえて入領に人数制限をかけたりしたのもそいつらの指示らしい。

そしてわたし達が領地内に入った後、お目付け役達はすぐにここを去ったそうだ。

おそらく、太守次官にわたし達の到着を知らせに行ったり、道中の刺客の手配をしたのだろう。


「つまり、サンバさんもわたし達もそいつらに見張られていた訳ですか」

「ああ、そうだ。お前らが妙なことで難癖付けられないようにこっちも細心の注意を払って対応していたんだ。感謝してほしいな」


・・・サンバさんは難癖をつけるどことか、守っていてくれたのか。

まさか実はいい人だったとは・・・


「全く気が付きませんでした。そうとは知らずに失礼なことを言いました。ご配慮、ありがとうございます」

「いや、いいんだよ。俺も太守を助けてくれたお前らに感謝しているんでな。あー、形で礼をしてくれるってんなら、そこの鳥と獣を俺にくれてもいいんだぜ?」

「あげません!」


そういえばサンバさんはディーネちゃんとサラちゃんを気に入ってたっけ。

やっぱりハシビロコウとカピバラを好きな人に悪い人はいないってことだ。


かくして、出航手続きは滞りなく済み、わたし達は懐かしの『星の翼』号に乗船した。


「おかえりー!待ってたよユリちゃん!」

「エリザ、ユリ、ついでにアドルもおかえり」

「ただいま、エスカさん!ホークスさん!」

「ついでってなんだよ・・・」


エスカとホークスに迎えられ、久々の再会を喜んだ。

エスカ達も港湾施設内でジェイスの放送を聞いて、状況はそこそこ把握しているらしい。


「ユリちゃん達、大変だったみたいだね。しかし毎度大変な目に遭うね」

「不本意な言われようですねえ。でもエスカさん達も大変だったんじゃない?不自由だったでしょう?」

「いやー、そうでもないかな」


エスカ曰く、港湾施設の人達はニューロックからのお客だと聞いて大歓迎ムードだったらしい。

わたし達が戻るまで、アーガスのクルー達は毎晩酒場で宴会状態だったそうだ。

なにそれずるい。


「それに、サンバっていう港の職員さんが色々と便宜を図ってくれてね。補給もバッチリ済んでる。いつでも出発できるよ」

「サンバさんが?あの人、本当にいい人だったんだね・・・」

「ユリ、言い方・・・」


アドルに注意されてしまった・・・

だって仕方ないじゃない。

第一印象が悪すぎたんだもの。


「今のは反射神経みたいなものだから。うん、もう大丈夫。サンバさんはいい人」

「そそ、サンバさんはいい人だった。カーク様ほど素敵ではないけどね」

「はいはい、エスカ。そろそろ出航しようか」


『星の翼』号は懐かしのニューロックに向けて出発した。



帰りの航路は順調だった。

近づいてくる一隻の高速船を発見するまでは。


「エリザ!あの船、確実にこっちに向かってきてるぞ!」

「わかったホークス。総員!戦闘態勢!アドルとユリも準備してくれ」

「分かった!」

「いくよ、ディーネちゃん、サラちゃん!」


わたしは艦橋からデッキに出て、近づいてくる船に目を凝らした。

アドルもなにやら魔道具を使って船を視ている。


「ユリ・・・あいつ・・・」

「うん。ベルノだよ。追ってきたんだ・・・」


高速船のデッキの上に立つ、ベルノの姿をはっきりと見た。

やはり瓦礫の下敷きにならず、生きながらえていたようだ。

ただし、少し様子がおかしい。

城破壊の時に深手を負ったのかもしれない。

そんな状態でも追ってくる執念深さに感心と呆れを半々に感じた。


「このまま突撃してくるつもりかな?最大船速で走ればこっちのほうが早いと思うけど・・・」

「後腐れないようにここで倒したほうがいいよね」


まだ高速船との距離はある。

例のジャミングする魔道具の射程には入っていないようだ。

とはいえ、わたしの魔力はまだそれほど回復していない。


「ディーネちゃん、サラちゃん。あの船の足止めをお願い!その間に艦砲射撃で船を撃ってもらって。とどめにディーネちゃんの大波で船を沈めましょう」

「分かった!」


アドルはエリザに作戦を伝えるため、艦橋に向かって走った。



「はあ・・・はあ・・・。まだだ。まだ俺の役目は終わっていない」


ベルノは痛む体を気力で押さえつけ、デッキから敵船を睨みつけていた。

ベルノは先日の戦いに敗れた後、数名の部下と共に密かに首都を脱出して港に逃げた。

そして父である太守次官が所有していた高速船に乗って沖合で待った。

そして今日、勇者を乗せた船を発見し、突撃をかけた。


陸上での戦闘では遅れを取った。

しかし海上であれば逃げ場がない。

それはベルノにとっても同様だったが、それはどうでも良いことだった。

ベルノを支えているのは『刺し違えても勇者を倒せ』という言葉と、王から賜った魔道具だった。

心なしか、魔道具が発する赤い光が増している気がする。

この魔道具がどんな効果を発揮するかは分からないが、これにはきっと意味がある。

王の期待に少しでも応えなければならない。

その先に、きっと答えがあるはずだ。

ベルノはそれだけを考えていた。


その時、風と波が強まった。

船は大きく揺れ、進行が定まらない。

船の操舵をしている部下達を鼓舞して立て直しをさせようとしたが、波と風の勢いは一向に収まらず、ベルノの船は操縦不能状態に陥った。

そして、荒れ狂う風の音に乗って、別の轟音が聞こえてきた。

それは敵船からの艦砲射撃による攻撃だった。

船体にいくつもの砲弾を浴びせられ、船は中破した。

ベルノ自身は直撃こそ無かったが、デッキに強く体を叩きつけられて苦悶の声を上げた。

起き上がったベルノは、船の損害状況を見て、既に船が航行不能だと理解した。


「この距離とこの風の中で、かくも正確に撃ち抜くとは・・・くそがああ!」


ベルノは残った魔力をふりしぼり、敵の船めがけて魔力の刃を振るった。

しかし既に満身創痍のベルノは足元もおぼつかず、さらに敵船との距離はかなりあるこの状況で、ベルノの攻撃は届くはずもなかった。

もはや僅かな生命力しか残されていなかった。


「あ・・・」


そのベルノに、大波が襲う。

眼の前を壁のごとく立ちはだかった波の壁を見て、ベルノは死を悟った。


「バルゴ陛下・・・お役に立てず、申し訳ございません・・・」


それがベルノの最後の言葉となった。


そして、


(いや、よくやった。十分だ)


その言葉に、王から預かった赤い魔道具が応えた。

ベルノの命と引き換えに、魔道具の発する赤い光は一層強くなった。



「船、沈んだわね」

「うむ、良い波じゃった」

「さすがディーネちゃん、凄いわ!」


無表情に見えるハシビロコウだが、わたしにはドヤ顔に見えた。


「決死の特攻じゃったが、無謀じゃの」

「そこまでして追いかけてきた気概は褒めるべきなのかしらね・・・」

「ユリ!ディーネ!感慨にふけってる場合じゃないわ!おかしいわよ!」


サラが警告を発した。

海の中で赤い色が広がっていく。

そして海面にボコボコを泡が広がっていき、やがて海上に大きな人の形が現れた。


「なんで・・・なんであんたがここにいるのよ!」

「どうやら奴の特攻はこれが狙いだったようじゃな。最悪なのじゃ」


ディーネとサラがデッキで後ずさる。


・・・わたしはこの異形を見たことがない。

でも感覚で分かる。

だって魔力の気配がディーネちゃんやサラちゃんに似ているんだもの。

でも、この魔力の感じ・・・強大過ぎる!


現れたのは上半身しかない裸の男、しかし肌は真っ赤で、燃え盛る炎をまとっているかのように輪郭が揺らめいていた。


「久しいな。水の精霊と風の精霊。そして初めてお目にかかる異世界の勇者よ。我は火の精霊。挨拶がそのまま別れの言葉となるが許して欲しい」


7/25に次話投稿予定です。


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よろしくお願いいたしますm(_ _)m

※7/21 誤字修正しました。

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