↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/29

〜 エピローグ 〜 初秋の雪


   24


紅葉もまだ散らないうちに、雪がちらつきはじめた。あたりは既に深く雪が積もっている。民家も人もすべて雪の下に埋もれて、世界は空と雪と地平線以外には何もない、シンプルな様相を呈している。



ふと空が晴れた。開けた視界に絢音は顔を上げた。何もない世界に、凜が現れた。ブランコを漕ぎながら、うつむいている。さく、さく、さく、と音がする。絢音が前に歩き出した足音がする。まっさらな雪に穴を開けながら、絢音は凜に近づくと、その手を後ろから、ぎゅっと握った。



「俺……」

 後ろにいるのが誰なのかわかっているように、凜は呟いた。

「お前が嫌がることは、絶対にしねーから!」



「勘違いしてたね、あたし」

 絢音はもう片方の手で、それをさらに撫でた。

「傷つけちゃったね。今なら凜のこと、わかってあげられる」



「わかるわけあるかよ」

 凜は背中を向けたまま、怒ったように言った。

「俺とおまえは違う人間なのに」



「歩こ?」

 絢音は涙でくぐもった声で、言った。

「せめて、一緒に歩こうよ」



凜はブランコからようやく立ち上がると、歩き出した。絢音と手を繋いで、並ぶことはなく、ただその背中を見ながら、さくさくと音を静かに立てて、ついて行った。



「友達になんかならねーからな?」



「あたしもなるつもりないよ。でも……」

 絢音は地平線の向こうを力なく見つめた。

「こんななんにもないところでずっと生きて行けないでしょ? 一緒に、ここを、抜け出そ?」



「俺をここに放り出したやつが何を言う」



「うるさい。さっさと歩け」



「貴様に命令される筋合いはない」



「あっ、そう? じゃ、手を離すよ?」



「離すな!」

 凜は慌てて絢音の手をぎゅっと握り返す。

「仕方ないな。一緒に行ってやる」



凜の涙はいつの間にか乾いていた。絢音は犬を連れて歩くように、歩きながらぼろぼろと泣いた。歩きながら、だんだんと笑顔になって行く。



「何を笑ってやがる?」

 絢音の顔は見えないのに、後ろから凜が言った。絢音の手をぎゅっと握りしめながら、清々しい笑顔を浮かべながら。

「気持ち悪いな、貴様。ハルカに振られたくせに、何を笑ってやがる?」



「あんたこそ」

 絢音も振り向きもせずに、凜に言った。

「なんであたしに利用されて、ボロクソに言われたのに、笑ってんの?」



「俺はこうやって貴様と歩いているからだ。貴様は?」



「シンプルな気持ちなんだ、今」

 絢音は涙でつっかえながら、そうとしか言えなかった。

「こんなに辛いのに、ハルちゃんのこと、好きになってよかったとしか思えない。そのこと以外、なんにもないんだ、今」



「ハハハ! 辛いのに笑ってんのか。複雑だな」



「複雑じゃないよ。すごくシンプルな気持ちなんだ」



「ハハハ! 実は俺も同じだ。貴様のことが好きだ。何度でも言ってやる。大好きだ、絢音!」



「うるさいな。今はハルちゃんのことしか考えられないんだからね、あたしは!」



「俺も同じだ。好きだぞ、絢音! ずっと好きだ!」



「好きだったよ、ハルちゃん! 今も好き!」



「ククク! よくも俺を騙してくれたな! それでも何度でも好きになってやるぞ、絢音!」



「うるさい! うるさいうるさーいっ! あたし今、ハルちゃんのことばっかり考えてるんだから邪魔すんな! あははは!」



「残念だったな! 俺の想い人は今、俺の目の前を歩いている! 俺の勝ちだ! 何度でも貴様の背中に俺の気持ちをぶつけられる! クハハハ!」



「なんであたしなのよ! 豚でも好きになっとけよ! きゃはは!」



「豚は貴様だろうが! このかわいい小豚ちゃんが! ククク、アハハ!」



絢音は繋いでいた手を離し、足元の雪を掬って丸めて固めると、後ろに向かって投げつけた。凜はぶさいくな体さばきで避けようとしてまともに顔に喰らい、雪にまみれた顔を笑わせた。



「好きだ! 絢音! 俺にもそれ以外、何もない!」



「あたしはハルちゃんが好きなの! 近寄んなーっ!」



絢音も笑顔になって、雪玉を投げて、投げて、投げまくった。



「人を好きになるのって、いいよね」

 絢音はもう、泣いていなかった。

「好き同士になるのはたぶん奇跡みたいなことだけど、好きになるのは辛いことだけど、でも、片想いだったってはっきりしても、それでもいいもんだね!」



「うるさい! 俺をコケにしたやつが何を言う!」



「あんたなんかどーでもいいからだよ、えいっ!」



「ぶほあっ! い、いつかおまえを振り向かせてやるぞ!」



「ふふっ。でも、友達としては好きになったよ、あんたのこと。でもあたしはハルちゃんが好き! 大好きだーーっ!」



「おれは貴様が大好きだーー……むわ!! 告白中に攻撃とは卑怯な!」





空と雪の間で笑いながら雪玉を投げ合いながら、2人は気づいていなかった。



地平線の向こうには、いつもの町が見えはじめていた。





           (第一部  完)






第一部『恋愛編』はこれにて終わりです。


読んでくださった方、ありがとうございました。




第二部『バンド編』は11月頃開始の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あ、書き忘れてました<m(__)m> バンド編 すっごく楽しみにしてま~す!!!(^O^)/
[一言] 悲しいけれど 優しい終わり方 ひどい朝だったけど… とっても素敵な気持ちになれました。 ありがとう、ここみ様♡♡♡ だから、やっぱり☆☆☆☆☆ 付けさせていただきます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。