序 1
風を割く。
細めた目から見える月明かりだけの夜空の先には、ぽつりと人間の文明の灯があった。
翼が空気を押し、そしてその度に体が前に進む。象をも踏みつけ殺せる足が、そこらの獣なら何でも丸呑みに出来る口が、大木以上ある背丈が、大きい翼で持ち上げられ、体を前に進める。
尖った口先で空気が分かれ、後ろへと過ぎて行く。
僅かな月明かりは、山の輪郭を黒く映し出している。鼻に意識を集中させれば、空を見ずとも雲一つない事が分かる。耳からは風を割く音だけが聞こえて来る。
この、自分だけで飛んでいる時間を感傷的に思っている自分が居た。
まだ、それは明日なのに、緊張もしている。まだ、半日程時間はある。いや、もう、半日しかないと思っている。
まだ、と思いたい自分も居るのだ。
けれども、このままではいられないと思う自分も居る。
そっちの方が、俺もカゥプトも思いとして強い。このままの関係で居ようとも今以上に悶々とし続けるだけだろう。
とは言え、いや、そう、それでも、と思いたい自分を消え去らせる事も出来ない。
そういうものなのだろうか。俺達の関係は、歪だったんだろうか。
風が後ろへ去って行く。山脈を一つ越えて、その先に広く切り立った崖がある。
きっとそれは、俺自身には分からないだろう。どんな結果になろうとも、誰もが満足する結果にはなり得ない。他の誰かに教えを乞おうとも、そうやって答を得ようとも、納得出来ないだろう。
崖がみるみる近付いて来る。二匹のドラゴン、カゥプトとネィロはもう先に着いていた。
流石に色までは、この夜でははっきりと見えない。カゥプトが俺を見止め、俺はその隣に着地した。




