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不死者君が世界を渡って色んな人を曇らせる話  作者: 椿


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灰色の世界

 「……なんだ、これ」


 新しい世界に辿り着くと、そこは薄暗い灰色の世界だった。灰が積もり、周囲には建造物は一つたりとも無い。全てが瓦礫と化しており、植物すらも全て枯れ果てていた。


 「ごほっ、ごほっ……息してるだけで苦しいな。まぁ、酸素があるだけ有り難いか」


 時折、明らかに人間が生息出来ない世界もあり、そういった世界に順応するのは大変なのだ。極端に空気が薄かったり、気温が馬鹿みたいに高かったりすると、適応に数十年、下手をすれば数百年単位で足止めを食らう。


 今回は息苦しいだけだ。健康に害があろうと、どうせ死ねば治る。気にせず歩みを進めよう。


 辺りを散策しながら、周囲の残骸を漁る。見たところ、以前の世界とは違い、文明レベルは中々高そうだ。コンクリートや錆びた看板、自動車らしきものも見られる。あぁそうだ、タツミにも分かるように──


 「……はぁ。誰が置いていったんだよ。いい加減にしろ」


 自分で置き去りにした癖に、俺は傍に彼女が居ないことを忘れていた。これだから不死者は駄目なんだ。一人の少女を傷付けておいて、のうのうと生きてやがる。


 言い訳をすれば、あれは数百年振りの人との交流だったのだ。少し舞い上がっていた。それに、彼女は中々可愛らしい子だった。俺とて男だ。その中身が戦闘狂の切り裂き魔だとしても、その関わりを思わず楽しんでしまった。


 「……いつか監禁されるぞ、だったか。何も言えねぇな」


 以前、といってもかなり前のことだが、とある世界で一人の女性と過ごしていた時期がある。彼女は生来の魔性の女であり、その美貌は見た人をたちまち虜にしてしまうものだった。


 誰もが、彼女の姿を見るとその姿を崇め、そのうち自らの醜さを許容出来なくなり、いつか自分の命を絶つ……彼女はそんな自分のことを、『魅了の悪魔』と呼称していた。


 不覚にも、俺は彼女の魅了にかかり、そして死んだ。だが、俺は不死者。死ぬことは無く、また生き返り、性懲りも無くまた魅了された。


 女はそんな俺を大層気に入り、傍に置いた。耐性が付くまでに、何度死んだことか分からない。気がついた時にはそれなりの時間が経過していたので、酷く驚いたのを覚えている。 


 『罪作りな人……アタシにこんなものを覚えさせて、それで捨てるんだ。ふーん……ふーーん……!』


 もう随分と前のことだ。彼女と別れるのは、かなり大変だった。まさか、一国の王を籠絡して、軍隊を差し向けられるとは思わなかった。


 あの時ほど、女性に恨まれたことは無い。彼女はありとあらゆる方法で俺を追い詰め、精神を折り、屈服させた。逃げ出せたのは奇跡に近く、今でも夢に見るほどだ。


 タツミはあの女に比べれば、なんと可愛らしい少女だったことか! まぁ、そのせいで必要以上に甘やかしてしまったので、俺はやはりクズなのだろう。少しへこむ。


 「っと……建造物発見。あれは……社、か?」


 そこにあったのは、ボロボロの御社殿だった。灰が積もり、既に朽ち果てているようにも見えるが、その扉は閉ざされ、至る所ぶ御札が貼り付けられていた。まるで、中に居る何かを封じ込めるように。


 「一応、中を見てく──」


 社に近付いた時だった。不意に、目の前が真っ暗になった。この感覚、俺は知っている。コレは、そう……死亡した時の、目眩だ。


 「お、おぉ……! マジか、この場所に居ると、めっちゃ死ぬ!」


 何度か死んだことで、俺はその正体を見ることに成功した。あの社から、黒い瘴気のようなものが溢れていて、それがここら一帯に溢れているのだ。それが俺の身体を突き刺す度、俺の命が失われる。一瞬で即死させられているのだ。


 何度も瞬きをするように、目の前がチカチカと暗転する。凄まじい力だ。漏れ出す黒い何かでこれほどの効力なら、中に居るものは、どれほどの力を有しているのか。


 久方振りに、俺は歓喜していた。もしかしたら、この中の存在は、俺を殺し得るかもしれないのだ! この永遠の旅に、ついに終止符を打ってくれるかもしれない。心沸き立つに決まっていた。


 「頼もー!!! どうか、俺を殺してくれないか!?」


 ──今にも朽ち果てそうな扉を開いた先は、漆黒だった。一片の光も通さない。全てを飲み込んでしまう、純粋な暗闇だった。


 「誰ぞ? 儂の眠りを、妨げる者は?」


 気がつけば、俺の身体が沈んでいた。この間にも、数え切れないほどの死が襲ってくる。何かをしようとする度に死ぬので、何も出来ない。ただ、飲み込まれていく。


 「喰ろうてやる。貴様の存在も、魂も、何もかもを」


 素晴らしい。意識が、ゆっくりと混濁していくのが分かった。これは、単なる死ではない。もっと奥深く、全てを抹消してしまうかのような、そういった終わり方だ。


 これなら、イケる……! 死ねる……!


 俺は段々と解けていく意識と同時に、その生涯に幕を……


 「……………………」


 幕、を…………


 「……はぇ? ななな、何故消えんのじゃ!? ど、どうして!? 何で!?!?」


 …………駄目だった。確かに、一度意識は消えた。だが、数秒と持たずにまた戻ってきてしまった。俺は真っ暗の中、水のようにプカプカ浮きながら、慌てふためく何かへ声をかけた。


 「なぁ、君はなんだ?」


 「儂のセリフ!!! それは儂のセリフじゃ! お主、一体何なのじゃ!!!」


 「俺はどこにでも居る、ただの不死だ。ほら、次は君の番だ」


 「は……? 不死じゃと……? いやしかし、それならこの現象も──」


 黒い何かは戸惑ったように、数分の間思案し始めた。その間も、黒い何かは俺を殺し続けている。だが、先ほどのように意識を失うことは無くなっていた。そして死んだ回数が二百を超えた辺りで、ようやく何かは言葉を発した。


 「すまん。実のところ、儂にも儂が何者なのか、分からんのじゃ。ただ、気付いた時にはこの空間に閉じ込められ、ひたすら世界を覗いておった」


 「この灰色の世界をか?」


 「300年ほど前はそうでは無かった。気がつけば、あれよあれよと戦争が始まり、この世界は終わってしもうた。もはや、この世界に住める者はおらん。そんな状況でも儂は消えられ無かったので、ずっと眠っておったのじゃ」


 「ほーん。なるほどなぁ……」


 道理で、文明レベルが高い割に妖術チックな訳だ。つまりは、この暗闇はこの世界における触れてはいけないナニカ。世界を滅ぼしかねない、危険な存在だったのだ。


 だが、世界はそんなことをせずとも滅亡した。灰が降り積もり、植物は死に絶え、生物は全て絶滅したのだ。なんとも皮肉なことである。


 「なぁ、頼みがある。俺は不死だが、死ねるなら死にたいんだ。君になら、それが出来るとかもしれない。どうか、俺を殺してくれないか?」

 

 「……おかしな男じゃ。何故、死を望む? お主は儂と違って、自由ではないか。誰に迷惑をかける訳でも無い」


 「ははっ……君に言われると耳が痛いが、まぁ色々あるんだよ。強いて理由を言うとすれば……そうだな」


 死にたい理由か。そんなものは、決まっていた。


 「それが摂理だからだ。人は死ぬ。いつか必ず終わる。それを曲げて良い道理は無いし、不滅なんてものは、全くもって嘘っぱちなんだよ」


 昔、俺にこんなこと言った男が居た。人は、その肉体が無くなろうとも、決して死にはしない。その精神は生き続け、それを受け継ぎ続ける。そうやって、死して尚生き続けるのだと。


 そんなのは嘘だ。人は、何千年も経てば全てを忘れる。過去は歪められ、全ては都合の良い解釈に塗り潰される。誰も、永劫に生きることは叶わないのだ。


 だから、俺もそうなるべきだ。死ねるのなら、死ぬべきだ。理由なんて、それだけで十分だろう。


 「ふむ……分かった、お主に手を貸そう。少し待っておれ」


 「……? おう」


 しばらくの沈黙の後、暗闇が歪みを生じさせた。それは段々と人の形になっていき、どこか見覚えのある姿、に……


 「どうじゃ! お主が思う、最も美しいと思う女の姿を模してみたが――」


 「ぎゃあぁあああ!!! な”ん”で”リ”リ”ス”が”ぁあああああっぁ!?!?」


 「…………取り乱し過ぎじゃろ、お主」


 髪色が眩い黄金のような金髪から黒髪になっている以外、その容姿は全くもって変わらない俺のトラウマ……『魅了の悪魔』リリスが、そこには立っていた。  

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