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小堀純【5】

(1)


平和な生活が続いていると思っていたら、そうはいかなかった。ここのところ、立て続けに任務が入ってくる。例のごとく、カタンはシセツの中で留守番となり、彼女の訓練は他の先輩がつけてくれている。先輩方の話によると、カタンの成長は想像以上に早く皆が感心しているそうだ。そんな成長ぶりを教育係の私が見られないのは残念だが…今日も仕事だ。


制服に着替えた私はいつものように会議室に呼び出されていた。

中に入ると、そこには端野織子の姿もあった。

先日のこともあって、私はつい眉をひそめてしまう。

「あら、あんたも呼ばれたの。」

端野は振り返って私を見るなり、冷めた表情で声をかけて来た。

「あんたこそ…前回はいなかったじゃない。」

しかめっ面のまま私は呼びかけに答える。

「前回は謹慎。まあ、この間みたいなことはしないから安心してよ。」

そういうと端野は正面に向き直った。

わざとやったくせに、と言いかけて私は口をつぐんだ。カタンと相談して、前回の端野の不正行為はひとまず私たちの中にしまっておこうと決めたんだった。それに、武井さんにはきちんと謝罪している以上、彼に本当のことがバレたらそれこそ大事になってしまう。

そこまで考えて、私はキョロキョロと周りを見渡した。

武井さんの姿がない。

「ああ、武井さんなら、怪我で休養してるって。あんたがいない現場でね。」

端野が私の様子から察したのか、またチラリと私の方を見た。

「怪我って…あんた、まさか…」

「あたしが怪我させたっていうの?そんなわけないでしょ。」

「どの口がいうわけ?疑われても仕方ないと思えっての。」

「あたしが嫌いなのは、あんたとあの金髪だけ!他の人は巻き込まないし。」

そういうと、端野は舌を出して見せた。

ムカつくガキんちょめ…

「あの金髪って、もしかして僕のこと?」

突然私たちの言い争いに、柔らかい男性の声が割って入った。私が良く知っている声だ。

そちらを見ると、ゆるく波を打つブロンズの青年が立っていた。


挿絵(By みてみん)


「!…ヒューゴ!」

「やあ、純。久しぶりだね。」

美しい顔立ちのその青年は私ににっこりと微笑んだ。

彼はヒューゴ・ゲラ。現在はシセツのEU支部に所属するおそらくトップクラスの戦闘員だ。私の兄が亡くなるまでは、関東地方支部で兄とバディを組んでいた。

パッと見は線が細く、とても闘う人間には見えない。それに身長も高くて綺麗で…モデルや芸能人の方がよっぽどお似合いだ。

案の定、さっきまで私と軽口を叩いていた端野もほんのりと顔を紅潮させてポカンとヒューゴを見てる。

「久しぶり!え、何年ぶりかな?2年とか?元気にしてた?」

ヒューゴの登場に、さっきまでの喧騒も忘れて私は嬉しさでいっぱいになっていた。彼は兄と同様、家族同然に仲良くしてくれた。私にとっては、もう一人の兄のような存在だ。

「もちろん、元気だよ。EUは勝手が違うけど、なんとかやってる。…相変わらず厄介者扱いだけどね…」

最後の一言で彼の笑顔が少しかげりを見せる。

「…ヒューゴ・ゲラ…あ!サイコキネシストで有名な?あの、ヒューゴ・ゲラ!?」

それまで口を開いていただけの端野が、突然声を上げた。

「サイコキネシスト…あんまり好きな呼び方じゃないな。」

端野の言葉にヒューゴは残念そうに首を傾げた。

「ああ…ごめんなさい。ちょっと興奮しすぎてしまって…あたし、端野織子って言います。私は大したものじゃないけど…念視…みたいな能力を持っています。いつかゲラさんみたいにみんなの役に立てるようになりたいんです。」

端野はヒューゴの前ではやたらと素直だ。本当に憧れているのだろう。

緊張で震える右手をヒューゴに向かって差し出す。

「僕のはそんなに誇れるような能力じゃないけどね、素直に受け取るよ。」

ヒューゴは苦笑いをして、端野と握手を交わした。

私は握り合う二人の手を見ていた。ヒューゴの手袋、相変わらず指抜きがない。しっかりと手を覆い尽くしている。それがどんな意味を持つのか、端野はまだ知らないのかもしれない。


間も無くして、会議が始まった。

「今回はEUからヒューゴ・ゲラを派遣してもらった。」

開口一番、園江支部長がヒューゴを紹介した。にわかに会議室がざわつき始める。

「意味は、分かるな?今回の任務はそれだけ大規模かつ危険と言うことだ。」

前に立たされたヒューゴはあまりいい顔をしていない。何せ、彼自身自分の能力を忌み嫌っているのだ。

「大半の兵はゲラの後衛として勤めてもらう。巻き込まれないよう、気をつけるように。」

園江支部長の言葉を聞いて、端野がツンツンと私をつつく。

「巻き込まれないようにって…ゲラさんの能力ってそんなにやばいの?」

ははぁ、さてはこいつ噂で聞いて憧れているだけで、ヒューゴのこと何も分かってないんだな?

「まあ、見てれば分かるよ。」

私は園江支部長を見つめながら、短く答えた。

「以前薬物売買をしていた組織を潰したのは覚えているな?今回はその出元を叩くことになる。まあ、簡単に言えば海外マフィアだな。船が今夜来る事は割れている。港及び船内の大掃除だ。」

ああ、私がこの端野織子の『ミス』で二の腕を怪我したあの案件ね。はいはい、よーく覚えてます。

船と港か…確かに、抜け道を完全に塞ぐのは私達だけでは難しそう。

「いいか、かなり大規模な仕事になるが…誰一人欠ける事なくここに戻ってくるように。以上。」

園江支部長の言葉を聞き届け、隊員が一斉に動き始めた。

みんなが部屋を出た後から、ヒューゴが私の方へ歩いてくる。

「どうしたの、純。行こう?」

「…ヒューゴ、大丈夫なの?」

私はヒューゴを見上げた。さっきは元気だなんて言っていたけど、相当ストレスを抱えているように見える。良く見たら目の下にクマもあるし、少し痩せた気もする。多分、EU支部でうまくいってないんだ…

「大丈夫、元気だよ。隣の君も、早く行こう。怒られちゃうよ。」

ふと横を見ると、端野もまだそこにいた。

「…ゲラさん、あなた何者なんですか?」

「何者…?そうだな…」

端野の質問に、ヒューゴは一瞬考える素振りを見せて

「化け物、かな?」

とにっこりと笑って答えた。

それから「行くよ」と私達に声を掛けると、走り出した。私達も慌ててそれを追うように走った。


(2)


今回の任務では、班の括りではなくそれぞれ先鋭の戦闘員が駆り出されている。その先鋭に私が入っていることは、まあ誇るべき事なのかもしれない。

しかし、気になるのは端野織子の起用だ。彼女はこっちに来て早々やらかしているわけだし、なんで今回このメンバーに選出されたのか分からない。

「なんであんたみたいなペーペーがここにいる訳?」

この間のこともあり、端野の事は全く信用していない。怪訝な表情で端野に問いかける。

「そんなの、あたしだってよく分からないよ。多分、広い範囲に散らばる敵を把握出来るからじゃないの?」

私が突っかかり気味に尋ねたせいか、端野も眉間に皺を寄せている。

「それに、あたしペーペーじゃないから。関西地方支部で2年働いてますから。」

「ふーん、ペーペーじゃないのにあんなしょうもない『ミス』するんですねぇ。」

「あんたねえ!」

端野がグッと立ちあがろうとすると、私達の間にヒューゴが入ってきた。

「君たち仲が良いんだね?」

ヒューゴはくすくすと笑っている。何をどう見たらこれで仲良く見えるのだろうか。

「仲が良いのはいいけど、戦地に立つ前に喧嘩するもんじゃないよ。チームワークが大切だからね。」

はあ、つまり仲裁に入ってくれたと言う訳か。確かに、こんなところで小競り合いをしている場合ではないかも。端野もそっと腰を下ろした。

「ゲラさん、なんだかその女と仲良いみたいですけど、どういう関係なんですか?」

「ああ、純と僕かい?彼女のお兄さんがね、僕の元バーターなんだよ。公私共に仲が良くてね、良く一緒に遊んだりしてたんだ。」

ヒューゴの答えに、端野は驚いたように私を見る。

「あんた、お兄さんいるの?」

「正確には、いた。」

私は端的に答える。

「…死んだよ、2年前に任務中にね。兄って言っても血縁じゃなくて、シセツに入ってから私を育ててくれた人なんだけどね。」

「…そうなの…」

端野は初めて毒気のない表情をした。そういう顔をしていれば、まあ小学生らしいじゃん。

隣ではヒューゴが何度か手を強く握り込んで、

「悔しかったよ。僕のすぐそばで死んだんだ。彼の理解があったから、僕は今までやれてこれたのに…」

と呟くように言う。

ヒューゴは持っている能力が異質すぎるため、どこに行っても煙たがられたそうだ。そんな中、普通に接してくれたのが兄だけだったと聞く。

「ところで純…」

ヒューゴが不意に、私だけに聞こえる音量で話しかけてきた。

「…晴海の遺体は見つかったの?」

晴海、とは私の兄の名前だ。

ヒューゴの問いかけに私は、顔を左右に振った。

「…すまない、僕があの場に居ながらこんなことになるなんて…協力できることがあったら、なんでも言って?いいね?」

私はコクコクと頷いた。私達の会話が届かない向かいの端野はきょとんとしている。

そう。実は、兄である折笠晴海の遺体は見つかっていないのだ。死んだということだけが一人歩きをしている。体の一部だけでも見つかったのならば、納得がいく。しかし、指の一本も見つからないまま葬儀が行われた。このことは、私にとってもヒューゴにとっても、そして兄の婚約者だった女性にとっても未練が残る。

だから私は、こうして任務をこなしながら

兄の遺体の手がかりを探しているのだ。


(3)


到着した港は薄暗く、人影もない。おそらく周辺の住人の間にも悪い噂が広まっていて、夜間にここを訪れる物好きはいないのだろう。船の出入りがされるそこから死角になる場所に私達が乗るトラックが停められた。

今回、指揮を取るのは3班の班長である田島さんだ。前回の案件に繋がっているため、彼が選出された。

「船の到着は21時と推定される。地上班と船内班に分かれて行動してもらう。今回来てもらっているゲラくんには船内を担当してもらいたい。」

「かしこまりました。」

田島班長の指示を受けるヒューゴには、先ほどまでの和やかさは無い。氷のように冷たい表情のヒューゴの横顔を月明かりが照らしていた。

それから、田島班長は次々と役割を割り振っていく。地上班の人数が多い。取引相手や船から逃げ出す輩を一気に叩くつもりなのだろう。

「それと、小堀は今回ゲラくんのサポートにまわってくれ。折笠に育てられたお前だ、相性もいいだろう。」

「はい、分かりました。」

今回の私の任務はヒューゴに降りかかる攻撃をそらすこと。納得の采配だ。

「あと、端野。お前もゲラくんと小堀に着いて行きなさい。」

「えっ…!」

田島班長の言葉に、私と端野が同時に声を上げる。

「待ってください!こいつこの間、ミ、ミスしたばっかりですよ!?」

『ミス』と表現するのも腹が立つが、今はそれどころではない。オーラが見えたとしても、今のところわかっている端野の能力はそれだけだ。しかもまだ初等部のガキンチョ。完全に前衛向きではない。

「あたし、攻撃はたいしてできないんです!そりゃ訓練はたくさんしましたけど…足手纏いになると思います!」

これには端野も驚きを隠せない。しかし、プライドが高いのかと思いきや、意外と自分の力量を把握しているんだな…

「まあ、待て二人とも。船内は地上と比較して複雑だ。端野の能力は必ず役に立つ。それに端野も自分の身を守るくらいのことはでききるはずだ。それに…」

田島班長はチラリと月光に照らされるヒューゴを見た。

「…見てみたいんだろう?同じ超能力者として彼の力を。」

田島班長の言葉に、端野はぎゅっと口を結ぶ。その顔はわずかに赤みを帯びていた。これは…端野は行く選択しかないだろうな。はあ、面倒臭いことになった。守る対象がヒューゴだけでなく、端野にまで広がってしまった。

「…あんた、ちゃんと攻撃避けられるの?あんたに何があっても私は守らないからね。」

私は端野を見据えて念を押す。

「あ、あたしだって訓練はしてきてるって言ってるでしょ。邪魔だったら捨て置きなさいよ。」

端野も食ってかかってくる。

「やれやれ、お前たちはまだあのミスのことを引きずってるのか?小堀ももう大人になれ。」

田島さんに注意されてさらに何かムカついてきた。私だってまだ大人じゃないし、そもそもあれは『ミス』なんかじゃないんだってば。私と端野がいがみ合っていると、ふとヒューゴが声を上げた。

「あ…船が…」

窓の外を見ると、大きな貨物船が今まさに着港しようとしていた。


(4)


着港と共に作戦は決行された。

トラックから一斉に兵が走り降りる。

「一気に船に走り込む!地上班は見るな。」

インカムを通じてヒューゴの声が聞こえた。

「了解!」

私も走るのが早い自覚はあるけど、ヒューゴはそれに輪をかけて早い。ベテランの戦闘員ともなるとこれが当たり前みたいだ。チラリと後ろを見ると意外にも端野がピッタリとついて来ている。訓練したって話は嘘ではないみたいだね。

私達は一気に船内へと雪崩れ込んだ。

「聞いてほしい。できるだけ僕が全部片付けようと思う。取りこぼしがあったら、その時は頼む。あと、僕を護衛しようなんて考えなくていい。必要な時は撤退してくれ。」

インカムを通してまたヒューゴが船内班のみに伝えてきた。それは田島班長と真逆の指示だった。こればかりには「了解」の応答がない。

「…ヒューゴ、何言ってるの…」

真横に居た私は思わず声をかける。

「…みんなを傷つけたくない。頼む。」

私を無視してそれだけ言うと、彼はインカムをOFFにした。

「何って…言ったままだよ。僕はEUに移ってから、ずっとこうして一人で戦ってきたんだ。もちろん純も端野さんも、危険を感じたら無理せず逃げてほしい。」

…え?EUに移ってからずっと?

兄が死んだ後、ヒューゴはすぐにEU支部に異動させられた。それから2年、ずっとこうやって一人で戦ってたの?

そんなの…

「そんなの私が許さない!絶対にヒューゴを一人にさせないから!」

おそらく兄が死んでからヒューゴは自暴自棄になっていたんだ。いつ死んでもいいと思っていたのかもしれない。いつもの笑顔に安心しきって、彼の孤独にちっとも気付いてあげられなかった。

「あ、あた…あたしも、ゲラさんと一緒にいたいです…」

おずおずと端野も手を上げた。なんだ、素直なとこもあるじゃん。てかなんで私にだけあんな塩なんだよ。

私達を見てヒューゴは微笑んだ。

「ふふふ、君たちは本当に可愛いね。ありがとう。でも、くれぐれも無理はしないでね。ここからは…」

急にヒューゴの表情が殺戮者のそれになる。両手にはめていた手袋を、するりと外した。

「僕の戦場だ。」


ヒューゴの向かった先で、突然爆発が起こった。

血や肉塊が辺りに飛び散る。

「ゲラさん…!」

端野が驚いて飛び出そうとするのを、私が制する。

「あまり近づいちゃダメ。巻き込まれる。」

飛び散ったそれはヒューゴのものではない。

「よーく見ておくといいよ。これがあんたが見たかったっていう、ヒューゴの能力だ。」

私の言葉に端野は不安げに私とヒューゴを交互に見た。

「…とはいえ、私達も黙って見てるだけってわけには、行かないけどね!」

私は素早くナイフに手を伸ばすと、左右から挟み込んできた敵の首を次々と切り裂いた。

前を見ると、ヒューゴが敵の顔に自分の手を当てていた。にわかにそいつの顔が歪に膨れ上がる。それと同時に頭全体が爆発した。血飛沫と共に脳の破片や眼球が散らばる。


挿絵(By みてみん)


「ーッ!!」

端野が声にならない声を上げた。今度はバッチリ見えたようだ。

「驚いたでしょ。ヒューゴは触れた対象に念を送ることで爆発させることができるんだ。あんた、ああなりたい?」

憧れているばかりだった端野に冷たい目線を送る。端野はガタガタと震えていた。これは使い物にならないかもしれない。

「欠点は、敵に接触する必要があるってことくらいかな!」

とりあえず近くに敵はいない。端野を置いてヒューゴの隣へ走り込んだ。

ヒューゴの死角から飛び込もうとする敵の両膝の裏を切りつけ、倒れた後頭部にナイフを深く突き刺す。

「危ないよ。」

ヒューゴがひんやりとした声で私に注意する。

「言ったでしょ、一人にしないって。」

すると、さっきまで震えていた端野がこっちへ走ってきた。表情に恐怖は残っているものの、ヒューゴに向かってこう叫んだ。

「ゲラさん、手前から、2、4、4、5です!」

どうやら敵の配置を伝えにきたようだ。

「あと…他のルートから行ったと思われる奴らが、出入り口に固まってます。おそらくは他の隊員が応戦しているかと…」

半径50mは伊達じゃないみたいだね。この間のやる気の無さとは大違いだ。

「出入り口に固まってるのか…困ったね、怪我人が出ないといいけど…」

端野の報告を受けてヒューゴは血に塗れた手を口元にやり、表情を曇らせる。

「純、そっちに行ってくれないか?」

ほら、案の定すぐこんなこと言い出す。

「やーだーね!私は田島班長の言葉に従います!」

「あ、あたしも…」

私に続いて端野が口を開く。

「ごめんなさい、正直怖いと思いました…でも、邪魔にならないようにしますから、一緒に行かせてください。」

あれ。この子もしかして思っていたより真面目?しかも、根性あるじゃん。

「ありがとう、助かるよ二人とも。僕と一緒に行こうなんて人はなかなかいないからね。」

感謝を述べるヒューゴの表情は柔らかいものだった。ふと視線を上げ「晴海以来かな」とボソリと言ったのが私には聞こえた。

「行こう、早く終わらせて他のみんなを助けないと。」

ヒューゴの声に従い私達はさらに奥へと進んで行った。…私が想像している以上に、ヒューゴにとって兄ちゃんの存在は大きかったのかもしれない。


(5)


任務はなんとか完了した。全員無傷で、と言うわけには行かなかったが、それでも欠員は出ていない。負傷者も比較的軽く済んでいるようだ。

流石に規模が大きかったからか、おのおのが疲れを見せている。ヒューゴに付いていた私と端野が一番疲労していないのだから、皮肉な話だ。

端野は私が思っていたより体力があり、自分を守る術もしっかりしていた。元々司令塔向きの能力ゆえに、自分から攻撃することはなかったが。これで小学生なのだから、有望株かもしれない。

ヒューゴは疲れたのか、壁にもたれて寝息を立てている。

「あたし、ゲラさんのこと怖いって言ったけど…」

不意に端野が私に話しかけてきた。

「怖いって思う力を持ってみんなに見られるのって、どんな気持ちだろうって考えるの。」

まるで端野の独白のようだった。私は黙って彼女の言葉に耳を傾ける。

「あたしもそうだったから…親から気味悪がられて…」

なるほど、だからあんなひねくれた態度だったってわけか。

「でも、ゲラさんは…ずっとみんなの事を心配してた。最初から最後まで。あたしもそんな人間になれるかな…」

「なれるよ。」

私は間髪入れず答える。

「なろうと思った時を、始まりにすればいいんじゃない?」

寝静まるみんなを起こさないよう、静かに端野にそう伝えた。

すると端野は少し照れくさそうにニヤッと笑って

「まあ、あんたには優しくしないけどね?」

と毒づいて見せる。

「はいはい、あんたはほんと可愛くないガキンチョだね。もー、寝るから。おやすみ。」

私は大きくため息をついて、ゴロンと横になった。

そっと彼女の様子を覗き見ると、相変わらず物思いに耽っているようだった。窓から差し込む月明かりが照らす横顔は、ヒューゴのそれと少し似ていた。


シセツの寮のドアの前で、私は部屋に違和感を感じる。

もう、日付をまたいだというのに灯りがついていたのだ。

え。いつも先に寝てていいと言えば、きちんとカタンは寝ているはずなのに。電灯を消し忘れると言うことも、彼女の特性上考えにくい。

何かあったのか?

慌てて鍵を開けて、中に入る。

「カタン?何かあった?」

大急ぎでリビングに向かうと、カタンが床にへたり込んでいた。

こちらに向けた目からは、大粒の涙が溢れている。

「え、ええ!?どうしたの?なんかあったの?」

カタンに駆け寄ると、カタンは涙を流しながらも笑顔になった。

「純ちゃんに伝えたくて、起きてたの。」

「え、伝えるって、何を?」

私が尋ねると、カタンは満面の笑みでこう答えた。

「あのね、母が。私を迎えに来てくれるって!私、家に帰れるんだよ!」

カタンの言葉に私の頭は真っ白になった。

カタンがここに来て1ヶ月。たったの1ヶ月だ。

「純ちゃんにどうしても伝えたくて…」

カタンは、本当に嬉しそうに笑って泣いている。

「…そう…」

私はそれ以上の言葉が出なかった。

たったの1ヶ月。しかしそれは、私にとってかけがえのない1ヶ月だった。


第6話ができました。かなりチートな人が出てくる回ですw

絵がさして上手な私ではありませんが、イケメンに見えてますでしょうか…

それが気がかりでございます。

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