第69話 旧東京(本物)特別区総人口 964 万人――面積 626 km² これを1都市圏=110万人 に“圧縮”する。――本当に 1 マスで済むか? 6 つの《小惑星都市》に散るか?(140点)
第69話 ――「23 区蜃気楼《カンタービレ分割戦》」
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0 プロローグ──夜明けの新宿ガーネット・スクエア
午前 4 時 55 分。
理翔はまだ灯りの残る歌舞伎町タワーの影に立ち、スマホをかざした。
「特別区の総人口 964 万 7,165 人――面積 626 km²」 画面に映る統計は、かつて巨大都市 Tokyo(本物) が抱えていた重みを思い出させる。
その数字を 1 都市圏=110 万人 に“圧縮”する。
――机上のプランは、果たして本当に 1 マスで済むのか? それとも 6 つの《小惑星都市》に散るのか?
不眠のビル街へ、黎明の風が吹き抜けた。
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1 先生の黒板――“110 万セル” シミュレーション
1.1 前提データ
指標 現状 (23 区)
常住人口 9,647,000 人
昼間人口 16,580,000 人
平均通勤時間(往復) 1 時間 42 分
平均人口密度 15,506 人/km²
黒板にチョークが走る。
> 先生「964 万 ÷ 110 万 ≒ 8.8 セル。端数を含めれば、最低 9、最大 11 の都市圏に分けるのが自然だ。しかし、旧23区外に分散したので、元々そこらから来ていた人は来なくなるため964万人の全員を留める必要はない。そもそも土地不足だし」
1.2 理論分割パターン
ブロック 構成区 総人口 (万人) 面積 (km²) 備考
湾岸セル 港・中央・江東 110 88 海洋産業・再生エネ特区
山手セル 新宿・渋谷・豊島 105 56 クリエイティブ産業核
世田谷セル 世田谷・目黒 97 84 低密住宅・農業ベルト
北東セル 台東・墨田・葛飾・江戸川 113 97 下町観光+物流
城北セル 板橋・北・足立 111 92 食品・医療機器
多摩島嶼セル 大田・品川+羽田島しょ 110 109 空港経済圏
> 玲於奈「6 ブロックでほぼ均質に 1.1 M。これが妥協値だね。」
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2 「単独 1 セル」案が瓦解した三つの壁
1. 人口濃度
新宿区だけで 35 万人・19,359 人/km²。
23 区全体を 110 万人に減圧するには 90 % の転出 が必要――政治的に不可能。
Eroyama「果たしてそうだろうか。数十年かければできようし、原理的に、各都市圏の都市的地域半径は10km, 中心間の間隔は40kmでないといけない。そうでないと別都雇圏とはならぬから」
2. 地価構造
山手線内側の地価は江東区外縁の 13 倍。
大量転居が起きると「誰が損を補填するのか」で利害が衝突。
Eroyama「それを避けるための仕組みがTransferable Developing Right. 売買できる他都市(都雇圏110万人以下)での開発権だ。つまり、もはや開発できなくなった111万人以上都雇圏での下がる地価とTDRを引き換えにする。」
3. 通勤流動
日中に 700 万人が 23 区へ流入する現状。
ミクロ 1 セル化は周辺県との Employment Flow を断ち切り、
逆にラッシュ悪化=平均 102 分→137 分と試算。
> 先生「だから“1 都市圏”シナリオは 都市生態系の大出血 だった。」
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3 〈臨界 6 セル〉へ至る政治ドラマ
3.1 湾岸 vs. 山手――「首都機能継承戦」
旧・中央官庁は 東京湾岸セルを首都継承地区に指名。
だが 山手セル連合(渋谷・新宿)は「人口 105 万・昼間 280 万人」を武器に“文化首都”を主張。
→ 結果:
- 行政中枢=湾岸セル(中央・港)、
- 金融・情報=山手セル(新宿・渋谷)
という二都モデルで折り合い。
3.2 世田谷セルの“農地防衛戦”
世田谷農家協議会が「グリーンバッファ保持」を条件に分割賛成。
- 市街化抑制で地価収益を捨て、都市農業 1,200ha を保全。
- 代わりに 固定資産税 70 % 減免。
3.3 下町セル「祭囃子自治権」
葛飾・墨田は人口流出を恐れつつ、文化税(観光消費 2 % 上乗せ)の独自課税で合意。
- 収益の 1/2 を神輿・伝統工芸に再投資。
> 理翔「“争い”は確かにあった。でも、それぞれが『110 万』の器を抱きしめた瞬間、交渉は文化と税の交換会になったんだ。」
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4 10 年後の実測データ──“ポスト分割”の光と影
指標 旧 23 区平均 (2030) 6 セル平均 (2040) 変化 出典
住民 1 人あたり住宅床 (m²) 19.4 30.1 +55 %
平均通勤時間 102 分 63 分 ▲39 分 自治体交通局年報
PM2.5 年平均 (µg/m³) 16 9 ▲44 % 東京都環境白書 2041
地域幸福度 (国連 WHR) 6.0 6.9 +0.9 国連 2042 WHR・日本版サブインデックス
地価指数 (山手) 100 73 ▲27 % MLIT 地価 LOOK 2040
> 真雪「地価は下がったけど、生活の質は跳ね上がった。
> ――“便利粉”が空気に混ざったってわけね。」
「元々の元から110万人都雇圏と同等の生活の質に向上したね」
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5 エピローグ――“6 つの鼓動、1 枚の都市譜”
深夜 0 時。
隅田川の水面に 6 色のネオンサインが映る。湾岸グリーン、山手ピンク、世田谷アース、下町アンバー、城北コバルト、多摩アイアン。
理翔は橋の上で耳を澄ました。
――どの色も、かつて 23 区を満たした雑踏の残響を持っている。
だが、重力は薄まり、星空が戻った。
「先生、結局“1 セル案”は夢物語だったんですね。」
「いや、いいたたき台だったんだ。【極端 を描いたからこそ】、6 つの都市がそれぞれの 鼓動 (ビート) を奏でる余白が生まれた。」
遠くでスカイツリーが 6 色に瞬き、夜空を貫いた。
――23 区蜃気楼《カンタービレ分割戦》、ここに終幕。
でも物語はまだ続く。いつか 110 万の鼓動がもう一度ユニゾンする夜を夢見て。
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(了)