第68話 都雇圏3600万人の東京(本物)を33個に分割すれば1つ110万人ゆえ過密問題は無く幸福は最大化する(130点)
第68章 ~百貨店個人店群徒歩4分総美イベ会歩10分新築70㎡も都雇圏110万人なら4800万円になる~
1.
リキは朝の光に目を細めながら、静かな住宅街の窓を開けた。空気は澄んでいて、遠くに緑の丘陵が見える。
この街に引っ越してきてから十年以上が経つが、まだ時折、信じられない思いに駆られることがある。かつて東京(本物)で暮らしていた頃には考えられなかったほど広々としたリビングルーム、そして小さいながらも庭のあるこの家——それが今や自分の居場所なのだ。
東京(本物)にいた頃、六畳一間のアパートに高額な家賃を支払っていた自分を思い出す。あの狭く薄暗い部屋では身動きもままならなかった。今では同じような支出で、家族とともに庭で朝食をとれる生活を手に入れている。
リビングには朝日が差し込み、子どもたちの笑い声が台所から聞こえてきた。かつての息苦しい都会生活がまるで遠い昔の夢のように感じられる。
2.
キッチンでは、妻の麻紀が湯気の立つ味噌汁の鍋を火から下ろした。
「おはよう。いい天気ね。」麻紀は笑顔で振り返る。リキは「おはよう」と返し、テーブルに運ばれた朝食に目を落とした。焼き魚に納豆、新鮮なサラダ——どれもこの地域でとれた食材ばかりだ。
このあたりでは地元の農家から直接野菜を買うことができ、季節ごとの味わいが食卓に並ぶ。
東京(本物)にいた頃はスーパーで全国から集まった高価な野菜を買っていたものだが、今は出費もずっと少なく、何より味が違う。
生活費の基礎も昔に比べればぐっと抑えられている。この街での暮らしは経済的なゆとりをもたらし、リキはそれを噛みしめるように味噌汁をすすった。
3.
食後、リキは自宅の玄関を出た。空には高い雲が一筋伸び、朝日を受けて黄金色に輝いている。庭先では近所の老夫婦が花壇の手入れをしており、「おはようございます」と穏やかに挨拶を交わした。
東京(本物)で暮らしていた頃、隣に誰が住んでいるのかさえ知らなかった自分が、今では地域の人々と顔見知りになっている。不思議な安心感が胸に広がった。
このコミュニティには人と人との距離の近さがある。大都市の雑踏の中では希薄だった繋がりが、ここでは日常の一部になっていた。リキは軽く頭を下げ、玄関先に置いてあった自転車にまたがる。通勤は自転車で15分。満員電車に揉まれていた日々が嘘のようだ。
4.
ペダルを漕ぎ出すと、ひんやりとした朝の空気が肌を撫でた。通りに車は少なく、ゆったりとしたペースで車道脇を進む。
道路は広く整備され、見渡す限り渋滞の兆しもない。かつて東京(本物)へ向かう幹線道路は朝からどこもかしこも車で溢れていたが、この街では通勤ラッシュという言葉すら聞かなくなった。
信号待ちでふと立ち止まったとき、リキは周囲の景色に目をやった。低層のビルが点在し、その合間に公園や広場が配置されている。緑地が多く取り入れられた街並みは、住民の憩いの場となっていた。
都市計画により、住宅地と商業地、オフィス街がバランスよく配置されているのが見て取れる。10年前の大改革以降、この地域は一から設計し直されたのだということを改めて実感する。
5.
リキが暮らすこの街は、かつての東京(本物)圏の外縁部に位置していた関東の都市の一つだ。
人口約110万人の都市圏に成長し、今では関東地方の複数(十数~)ある新たな拠点都市の一端を担っている。
日本全体で見ると、こうした地域拠点が85か所存在しており、そのうち半分は関東地方と山梨県内に、残り半分は北海道から九州・沖縄まで全国に点在(40km間隔。それぞれが20kmの直径故,農村部と都市的地域が丁度半々の頻度で来る国土となっている)している。
かつて3600万人以上が集中していた旧東京圏は、今や約16の小さな都市圏に分散された。東京23区に相当するエリアですら、ひとつの「都市圏」として人口約110万程度に抑えられている(他都市における開発権(TDR)と引替えに、全域市街化調整区域とされて縮小したのである)。
残りの人々は、それぞれの故郷や新天地へ散らばり、新しい、享受できる人・物・コミュニティは元の東京(本物)と同等なまま、以下の過密問題がない街々で生活の基盤を築いているのだ。
☆かつて都市雇用圏人口3600万人だった東京(本物)都市圏にあった過密問題☆:
(110万人都雇圏と比較して)
②住宅費4倍,
③移動時間2倍
④現業者家族都市圏内居住不能
⑤合流式下水95%
⑥年間本社転出超過1128社(1都3県で650社転出超過、関東で284社転出超過) https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2506/04/news007.html
⑦噴火被害予想
⑧熱帯夜10倍(年50日) これも過密問題 https://www.seikei.ac.jp/gakuen/esd/obs/research/heat_island.html 人口50~110万人だと10日未満
⑨ナニー代4倍
⑩乗車率136%
⑪公共交通頻度3~4分に1本(110万人の1/4~1/10の頻度)
⑫スマホ格安carrier激遅
⑬共働き率が全国平均より高い https://www.tokyo-np.co.jp/article/295820
6.
自転車を走らせながら、リキは十五年前を思い返していた。東京(本物)という巨人のような都市がいくつもの小さな街に生まれ変わるなんて、当時は想像もしていなかった。
だが国策として進められた「都市機能分散化計画」は、確実に現実のものとなったのである。当初は多くの困難や反対もあったと聞く。企業の本社を地方に移す施策、行政機関の分散、そして何より、人々の生活拠点を移す決断。簡単な道のりではなかった。
しかし結果として、人々は新しい土地で腰を落ち着け始めた。リキ自身も当時勤めていた会社の地方拠点への異動を機に、この街に移り住んだのだった。
最初こそ不安もあったが、子どもたちにとって広い庭や自然の近さは何よりの贈り物になったし、自分たち夫婦も時間や心のゆとりを取り戻せた気がする。それに、あの東京(本物)での地震や停電の不安から解放されたことも大きかった。
7.
リキはオフィスビルの前に自転車を止めた。かつて東京(本物)の高層ビル街で働いていた頃とは景色が違う。周囲にそびえるビルは10階建て程度のものがほとんどで、空は広く開けていた。
ビルの屋上には太陽光パネルがずらりと並び、朝日に反射してきらめいているのが見える。この都市圏では、エネルギー需要の大部分を再生可能エネルギーで賄っているという話だった。各家庭の屋根にもソーラーパネルが設置され、余剰電力は街のグリッドに供給される。街全体がひとつの発電所のように機能しているのだ。
東京(本物)にいた頃、夏場の電力需要が逼迫するとテレビで節電を呼びかけていたことを思い出す。ここ数年、この街で電力不足の話など聞いたこともない。地域ごとに電力消費のピークが分散され、大規模停電のリスクも低下したとニュースで報じていた。
リキは腕時計型の端末で時刻を確認しながら、オフィスの自動ドアをくぐった。すると、受付ロビーに設けられた大型ディスプレイが目に入った。「本日のエネルギー自給率:98%」と表示され、隅にはこの都市圏の天気予報が映っている。晴天の日は太陽光発電が潤沢であることを示すかのように、その数字は高かった。リキはそれを横目で見つつエレベーターに乗り込んだ。
8.
自席につきパソコンを起動すると、早速オンライン会議の通知が表示された。リモートワークが定着した現在でも、オフィスに出社する人々は少なくない。ただし、それはかつてのように「出社しないと仕事にならない」からではなく、人との直接の交流や創造的なディスカッションを求めての出社だった。
リキの勤める会社は、本社機能をかつての東京(本物)からこの地方都市に全面移転した企業の一つだ。東京(本物)一極集中を是正する流れの中、大企業の多くが主要拠点を全国各地に分散させたのだった。
移転先の自治体には手厚い優遇策が取られ、税制面でも地方移転企業に対する減税や補助金が設けられた。その代わり、企業が納める法人税の一部は国を通じて全国の都市に再分配される仕組みに変わった。
巨大都市に税収が偏らず、どの地域でもインフラや公共サービスを維持できるようにする狙いだという。実際、この街でも新たな図書館や文化ホールの建設、病院の高度医療設備の導入などが引き続き次々と実現している。
リキは画面越しに映る同僚たちの顔を見渡しながら、ふと、この変化の恩恵を改めて感じていた。かつて東京(本物)都市雇用圏では、東京(本物)中心部に集積していた富と活力が、今では周辺たるこの地域中にも行き渡っているのだ。
9.
昼休み、リキは社屋の食堂で簡単に昼食を済ませた後、外に出て近くの公園まで散歩に出かけた。緑に囲まれた広場では、子どもを遊ばせる親子連れや、ベンチで談笑する高齢者たちの姿が目につく。
小鳥のさえずりと水辺のせせらぎが耳に心地よいBGMを提供していた。リキはベンチに腰掛け、そよ吹く風を感じながら空を仰いだ。澄んだ青空に浮かぶ雲を眺めていると、不意にポケットの端末が震えた。
画面を見ると、旧友の健二からメッセージが届いていた。「出張で君の街に来ている。もし時間があれば久々に会えないか」とある。健二は東京(本物)時代の同期で、今は東北地方の仙台都市圏に移り住んでいる。リキは懐かしさで胸を温かくしながら返信を打った。「もちろんだ。何年ぶりだろう?夕方に駅前で会おう。」
10.
その日の仕事を終え、リキは会社のロビーを出た。夕暮れに染まる街並みを眺めながら、自転車で駅へと向かう。駅前には、かつて東京(本物)のベッドタウンだった頃の古びた駅舎に代わり、近代的なターミナルビルが建っている。
周辺には商業施設や飲食店が立ち並び、仕事帰りの人々や買い物客で程よい賑わいを見せていた。人は多いが、東京(本物)のラッシュ時のような押し合いへし合いの混雑ではない。
広場ではストリートミュージシャンがギターを奏で、数人が足を止めて耳を傾けている。リキはそのメロディに足を緩めながら、約束した場所へと歩いて行った。
11.
「リキ!」と声がして、振り向くと健二が手を振っていた。スーツ姿は昔と変わらないが、日焼けした顔が健康的に見える。互いに軽く抱き合うように肩を叩き、再会を喜んだ。
「久しぶりだな、本当に。」リキが笑うと、健二もうなずいた。「君がそっちに移った直後に一度会ったきりだから…もう十年になるかな」「そうか、もうそんなになるのか。」時の流れを噛みしめながら、二人は駅前の通りを歩き出した。
夕陽に照らされた歩道を行き交う人々の表情は穏やかで、どこか楽しげだ。健二がふと周囲を見回して言った。「ここ、ずいぶん変わったな。前に来たときは再開発中だったけど、立派になったじゃないか。」リキは誇らしげに頷いた。
「ああ、街の再整備が完了してからは、暮らしやすさが一段と増したよ。図書館も新しくできたし、劇場もある。美術館だって開館したんだ。この街の昔の規模だったら、これだけ文化施設が整うなんて昔は考えられなかったよ。」
12.
二人は商店街を抜け、やがて閑静な通りへと入った。予約していた小さなビストロに到着し、中に入ると、地元の食材を使った料理が評判の店らしく温かな照明と食欲をそそる香りに包まれた。「こんなおしゃれな店までできたのか。」健二が感心したように店内を見渡す。
テーブル席に案内され腰を下ろすと、木目の温もりが感じられるテーブルにほっとする。「ここは移住してきた若い夫婦が始めた店でね、すぐ人気になったんだ。」とリキが説明すると、健二は「いいなあ、僕の住む街にもこういう店がもっと増えてほしいよ。」と笑った。
健二の住む仙台都市圏もまた、以前よりは文化的な充実を見せている。元から仙台都市圏は都市雇用圏人口50万人以上故,施設の充実度、洗練度は東京(本物)と同じだった。
「東京には東京の良さがあったけど…」健二が言いかけて、言葉を探すように沈黙した。リキはグラスに注がれた水を一口飲み、「正直、僕もときどきは恋しくなるよ」と静かに答えた。「でも——」と続ける。
「家族で暮らすには、今の環境の方がずっといい。それに東京(本物)も最適な都市雇用圏人口110万人になるべく縮小中だ。君だってこっちに来てから顔つきが穏やかになったんじゃないか?」冗談めかして言うと、健二は照れくさそうに頭をかいた。
「それはまあ、あるかもな。通勤地獄から解放されたのが一番大きいよ。満員電車に押し潰されてた頃に比べれば、ずっと健全な生活だ。」そう笑う彼の表情には嘘はなかった。
「東京(本物)も早く都雇圏110万人に近づいて、そのような環境から脱することを心から願うよ」
13.
二人は料理を味わいながら、次々に話題を移していった。住まいのこと、仕事のこと、家族のこと——話は尽きない。
リキはグラスのビールを傾けつつ、ふとかつての東京(本物)での暮らしぶりを思い返していた。狭いマンションで子どもたちを遊ばせるにも窮屈だったこと、終電間際の電車で疲れ切って何十分もかけて帰宅していたこと、週末に公園を探して遠出しなければならなかったこと…。今では信じられないほどだ。
こちらでは子どもたちは放課後、歩いて行ける範囲にある自然豊かな公園で伸び伸びと遊んでいる。家の前の道路でキャッチボールをする姿にヒヤヒヤしなくて済む。車通りが少なく安全が確保されているからだ。
14.
健二はビールを一口飲み、「最近さ、新聞で読んだんだけど、全国の平均通勤時間がすごく短くなったらしいな。幸福度指数も上がっているとか。」と話し始めた。
「ああ、見たよ。国連の世界幸福度報告でも、日本は順位をずいぶん上げたってね。」とリキも相槌を打った。
健二は目を細めて続けた。「実感としても、昔よりずっとみんな穏やかに見えるよな。隣近所との付き合いができたのも大きいんじゃないか。孤独を感じにくくなったというか。」
リキも同意した。「東京(本物)にいた頃は近所どころか同じマンションの住人ともほとんど会話しなかったもんな。それに比べると、今は地域のコミュニティが息づいている感じがするよ。地域祭りの準備でこの前なんて若い人からお年寄りまで総出で集まってさ、みんなで神輿を担いだんだ。ああいう光景、東京(本物)でもあったけど、町内会に入ってる人は少なかった。」
健二は懐かしむように笑った。「祭りか…子どもの頃以来やってないな。いいな、そういうの。」
15.
話はさらに弾み、二人はデザートとコーヒーを頼んでゆっくりと食後の時間を楽しんだ。店を出て駅に向かう道すがら、大通り沿いに新設された市立総合病院の建物が見えた。その窓にはいくつもの灯りがともり、夜の闇に浮かび上がっている。
「あの病院、かなり大きいな。最新設備が整ってるって聞いたよ」と健二が建物を指さした。リキは頷く。「うん、都内の有名病院にも引けを取らないくらいさ。先月ね、近所のおばあさんが心臓の手術を受けたんだけど、ここで無事成功したんだ。昔なら東京(都市雇用圏人口50万人以上)まで行かなくちゃならなかっただろうに。」
健二は「母が去年入院したときも、地元の仙台でかなりいい治療を受けられて助かったよ。まあ、これは元々だけどな。本当にありがたいよな」としみじみと言った。二人は病院の明かりを仰ぎ見た後、再び足を進めた。
16.
夜空を見上げると、この街では星がよく見える。東京(本物)で過ごした頃は、空にこんなに星が瞬くのを忘れていたとリキは思う。
駅へ向かって歩く途中、街灯に照らされた商店街のシャッターには地域の子どもたちが描いた色鮮やかな壁画が施されているのに気づいた。「これ、いいだろう?街のプロジェクトで子どもたちに絵を描いてもらったんだ」とリキが言うと、健二は「アートで街おこしか、面白い試みだね」と感心していた。小さなアイデアかもしれないが、こうした試みが住民の愛着と誇りを育んでいるのだろう。そう話しているうちに駅に着いた。
17.
改札の前で、リキと健二は名残惜しそうに握手を交わした。「また近いうちに、今度は家族も一緒に集まろう。」健二の提案に、リキは笑顔でうなずいた。「ぜひ。次はそっちの仙台にも行ってみたいよ。新幹線であっという間だからね。」
全国各地を結ぶ新幹線網や高速交通のおかげで、距離はかつてほどの障害ではなくなっている。健二が改札を通りホームへ向かう背中に手を振り、リキはその姿が見えなくなるまで見送った。
18.
自宅への帰り道、リキは自転車を漕ぎながら静かな夜道を進んだ。昼間と同じ道とは思えないほど、夜の住宅街はしんと静まり返っている。聞こえるのは虫の声と、かすかな風の音だけだった。空には満天の星が広がり、天の川さえもうっすらと見える。
東京(本物)では街明かりが明るすぎて、星などほとんど見えなかったものだ。立ち止まって夜空を見上げ、リキはゆっくりと息を吐いた。新鮮な空気が肺に満ちる。その瞬間、彼の心には満ち足りた想いが広がっていった。
便利になった暮らし、ゆとりある時間、そして安心できる地域のつながり。それらは目に見えない形で彼らの人生を豊かにしている。まるでSFの世界のミノフスキー粒子のような見えない『便利粉』が空中に撒かれたかのように、いつの間にか世の中は滑らかに回り始めていた。
リキは微笑みながら自転車を漕ぎ出す。静かな闇の中、家々の窓からこぼれる暖かな光を横目に、自宅へと急いだ。遠くから聞こえる虫の音が子守唄のように街を包み、リキの胸には確かな安らぎが宿っていた。




