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第67話 『超新星 東京(本物) に詰まる!! ―星屑リロケーション計画―(もだめ隆起編)』~人々は楽園で働けることに気づいたんです~(94点)

1.

リキはラッシュアワーの混雑した東京(本物)駅の真ん中に立ち、周囲に押し寄せる人波を感じていた。


何年も東京(本物)に住んでいても、その密度の高さには圧倒された。3600万人が東京(本物)の首都圏の雇用エリアにひしめき合っている。身体を揺すられながら、その数字が頭の中で反響した。



空気は汗と焦燥感で充満していた。周りの顔は皆、疲れ切った様子だった。2時間の通勤でくしゃくしゃになったスーツ姿のサラリーマン、ドアに押し付けられている若いOL、鞄を胸に抱えた学生。リキの親友ケンがリキに寄り添って立っていた。ケンは人混みにもかかわらず、苦笑いを浮かべた。



「この街、本当に巨大だよね」ケンは駅の喧騒をものともせず叫んだ。リキは頷くことしかできなかった。東京(本物)の一極集中は、誰もが感じる重荷になっていた。長い通勤時間、高い住宅費、狭い住居空間。 ようやく夜の街に這い出ると、リキはネオンの街並みを見上げた。確かに眩しいが、同時に疲れも感じた。彼は自問した。「このままでいいのか?」






2.

その夜、リキと友人たちは小さなアパート(わずか30平方メートル、とてつもなく高い)に集まり、ある大胆なアイデアについて話し合った。



彼らは日本地図が散らばった低いテーブルを囲んで床に寝そべった。「東京(本物)の負担を軽減する必要がある」とリキは、東京(本物)のインクの染みが広がる地図を軽く叩きながら言った。「人口の半分、約1800万人を地方に分散させたらどうだろう?」大胆すぎる発言に、彼の声は震えていた。たちまち、ケンの目が輝いた。ケンは生まれながらのSFファンで、宇宙を舞台にした壮大な物語に生き、息づいていた。



「ガンダムの世界みたい!」と彼は叫んだ。 彼は彼らに伝承を思い出させた。ガンダムの未来では、地球にはかつて20億人の人間が住み、90億人がスペースコロニーに住んでいた。



この不均衡な人口過剰が壊滅的な紛争を引き起こしたのだ。「彼らは分散化、つまり人々を地球から移住させることでこの問題を解決したんだ」とケンは言った。彼は窓辺の鉢植えから一つまみの埃を拾い、地図に撒いた。


「ミノフスキーの便利粒子を撒けばいいのに」と、ガンダムに出てくる謎の粒子を例に挙げて笑った。「魔法の粉で、あらゆる場所を東京(都市雇用圏人口50万人以上都市のこと)みたいに便利にできるんだ」一同はくすくす笑ったが、その比喩は宙に漂い、地図上の小さな都市の上空に金色の塵が漂っていた。リキのアパートの薄暗い光の中で、それらの都市はまるで輝いているように見えた。





3.

グループの中で現実的なアヤは、黒髪を後ろにかき上げ、身を乗り出した。



「魔法の粉はないかもしれないけど、それとほぼ同じくらい素晴らしいものがある。インフラと計画力よ」と彼女は言った。

彼女は地図に赤い丸で印をつけたいくつかの都市を指差した。「日本にはすでに、発展の可能性のある地方都市圏があります。熊本、金沢、鹿児島、松山、などです。これらの拠点を強化し、雇用と交通網を広げれば、人々は喜んで移住するかもしれません」。



リキはそれらの都市名を見つめた。それぞれの都市は、現在人口65万人から110万人前後の都市雇用圏を表していた。これらの都市は既に、東京(本物)の慌ただしいペースとはかけ離れた、小規模ながらも質の高い生活を提供している。


もしこれらの都市で享受されているライフスタイルを、さらに何百万人もの人々に広げることができたらどうなるだろうか?そのアイデアは魅力的だった。





4.

理樹の師である佐藤老教授も会議に同席していた。彼は思案深く顎を撫でた。


「1970年代には人口再配分の議論があったが、完全に実現することはなかった。今こそその時なのかもしれない」と彼は考え込んだ。


膝をきしませながら佐藤教授は立ち上がり、日本地図を壁にピンで留めた。列島33カ所に小さな星を描き、それぞれの星は人口50万人以上の、将来的に繁栄する可能性のある大都市圏を表していた。「東京だけが超新星であってはいけない。都市の星座が必要だ」と彼は皆に微笑みかけながら言った。


理樹は胸が高鳴った。これが彼らの使命となるだろう。一つの巨大都市に支配されるのではなく、多くの都市が生活を分かち合う日本を想像し、そしていつかその実現に貢献すること。





5.

まさにその翌週、理樹と仲間たちはこれらのモデル都市を巡る旅に出た。現実世界でのシミュレーションだ。


最初の目的地は遥か南の地だった。 飛行機が降下を始めると、リキは窓の外に広がる青い海を見つめた。鹿児島湾は真昼の太陽にきらめいていた。


その中心には、鹿児島を象徴する火山、桜島の雄大なシルエットがそびえ立ち、頂上からは穏やかな煙が渦巻いていた。その光景にリキは息を呑んだ。まるで富士山が東京湾の中に埋め込まれたかのようだった。東京湾は自然の力を常に思い起こさせる場所だが、ここでは街と火山がゆったりとしたリズムで共存していた。





6.

鹿児島市内で大きな空港連絡バスを降りると、亜熱帯の暖かな空気が心地よい毛布のように彼らを包み込んだ。通りにはヤシの木が並んでいた。


「東洋のナポリへようこそ」とケンは鹿児島のニックネームを思い出しながら冗談を言った。確かに、イタリアのナポリのように、鹿児島には湾と気まぐれな火山がある。しかし、東京(本物)の熱狂的なエネルギーとは異なり、鹿児島はより穏やかなペースで動いていた。 リキは、人々が歩いている時に笑顔を浮かべていることに気づいた。


海風が潮の香りと、庭園からほのかに咲き誇る花々を運んできてくれた。





7.

彼らを案内してくれたのは、アヤの旧友で、3年前にこの地に引っ越してきたアオイだった。


ドルフィンポート(天文館通北東900m)のウォーターフロントで彼らは迎えられた。彼女の背後には、緑の丘を背に、街の控えめなスカイラインが広がっていた。


「アオイ、ほとんど見覚えがない!」アヤは笑いながら、友人を抱きしめた。東京(本物)では、アオイは満員電車と狭いアパートの間を駆け回って、常にストレスを感じていた。ここでは、太陽に照らされてリラックスした様子で、ビジネススーツではなくカジュアルなリネンの服を着ていた。





8.

水辺のオープンカフェで昼食をとりながら、アオイは自分の話をしてくれた。


「会社が鹿児島に支店を開くまで、東京(本物)で働いていました」とアイスティーをかき混ぜながら言った。「転勤を申し出ました。人生で最高の決断でした。」



彼女は新しいルーティンを説明した。朝は桜島が夜明けの光にピンク色に染まる湾岸沿いをジョギングし、路面電車で15分ほどかけてオフィスへ。


夕方には地元で獲れた魚と近くの農家から仕入れた有機野菜で夕食を作る。バイオリンの練習も再開した。リキとケンは感心したように顔を見合わせた。東京(本物)では、夜遅くまで続く会議と混雑した通勤の合間に、あおいはテイクアウトの弁当をやっと食べていた。






9.

昼食後、葵は二人を路面電車に乗せて街を案内した。広い大通りを走る路面電車は、レールの上をゆっくりと音を立てながら進んでいく。東京(本物)の電車とは違い、座るスペースはたっぷりあった。



理樹は窓に寄りかかり、街の景色を眺めていた。二人は、子供たちが店の間を走り回る商店街、家の外にある花壇の手入れをする老夫婦、新しくできたコワーキングスペースの外で笑い声を上げる若いプロフェッショナルたちのグループを通り過ぎた。


「起業家やリモートワーカーがどんどん増えています」と葵は説明した。「インターネット環境の改善とインセンティブのおかげで、人々は楽園で働けることに気づいたんです」。



彼女はモダンなガラス張りの建物を指差した。鹿児島の新しいテックインキュベーター拠点で、スタートアップ企業や東京(本物)企業のサテライトオフィスが集まっている。


鹿児島の温暖な気候と長い海岸線は、食品業界やハイテク企業を惹きつけている。

https://www.jetro.go.jp/en/invest/region/data/kagoshima.html



理樹は、広大な田園地帯を持つ伝統的農業県である鹿児島が、今や最先端の半導体企業や自動車企業を誘致し、九州の成長著しいハイテク産業の中心地となりつつあるという記事を読んだことを思い出した。

読むのも一興だが、実際にその様子を目にするのはまた別の話だ。緑の野原と青い湾を背景に、きらびやかな建物が立ち並ぶ光景は、まさに圧巻だった。







10.

その夜、葵は地元の居酒屋で二人を宴会に招待した。


畳に座り、次々と料理が運ばれてきた。鹿児島産の黒豚の煮込み、炭火焼きの鶏の串焼き、新鮮な刺身、薩摩揚げなど、どれも芋焼酎で口いっぱいに流し込んだ。



居酒屋は賑やかだったが、決して騒がしくはなく、地元の人々と、葵のような新参者で満員だった。皆、顔見知りのようで、その日の火山性地震のことや、もうすぐ開催される夏祭りのことなどを語り合っていた。



「ここの家賃は」と葵はパンをつまみながら打ち明けた。「東京(本物)で払っていた家賃の半分で、広さは倍。桜島が見える小さなバルコニーまでついているのよ」彼女は喜びのあまり笑った。


ケンは額を力強く叩いた。「家賃は半分…広さは倍…しかも火山が見える? リキ、一体どうしてまだ東京(本物)にいるんだ?」と半ば冗談めかして叫んだ。皆は笑ったが、リキはそれぞれの心に真剣な思いが芽生えているのを感じた。






11.

その夜遅く、リキは小さなホテルのバルコニーに立って、鹿児島湾を見渡していた。暗闇の中、桜島は巨大な影のようにぼんやりと見え、時折、頂上の赤い光がくすぶる溶岩を思わせた。


湾岸沿いに街が緩やかに広がり、街の明かりは、東京(本物)の光害でずっと前に消えてしまった本物の星々でそこそこ満たされた空の下で、小さな点のように点在していた。鹿児島は昔から星と関係が深かった。

https://www.nikkei.com/article/DGXDZO40132160T00C12A4EL1P01/



リキはガンダムの比喩を再び思い出した。 ガンダムの地球は人口過密で自滅寸前だったが、ここ日本ではもしかしたら違う道を選べるかもしれない。


1800万人の人口を数十の都市に分散させることは、まるで星屑を撒き散らすようなもので、一つのまばゆい超新星爆発ではなく、小さな星座をいくつも生み出す。彼はまるで、遠くでそれらの星座が形成されるのを目にしているようだった。明日は、この新たなネットワークの新たな星々を訪れることになる。



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