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第57話 活気は憧れ?地方都市の底力(67点)

第57話 活気は憧れ?地方都市の底力



1. 東京への憧れを問い直す


教室では理翔と真雪、そして担当の先生たちが、毎日新聞のある社説について議論を始めていた。その社説には「最先端の技術やモノがあふれ、活気は憧れだ。」と東京を形容した一文があり、地方の現状を無視した東京中心の視点ではないかと話題になっている。



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理翔「『活気は憧れ』なんて、東京だけが元気みたいな書き方ですよ。地方には活気がないと言いたいんでしょうか?」


真雪「確かに、私たちの町だって負けてないですよね。ネットもあるし、新しいお店もできてる。先生、この社説って最近のものなんですか?」


先生「そうだ。京都在住の筆者が東京に出張した印象を書いた社説だよ。東京は最先端技術やモノであふれて活気がある。

しかし**『中心が全てを吸収し続ければ、周囲は崩壊を始める』**とも続けていて、東京一極集中への警鐘でもある。ただ、理翔の言う通り、その前提として“地方に活気がない”かのような記述が引っかかるね」



理翔「現代では本当に地方に活気や最先端技術がないのでしょうか?データで検証してみたいです」


先生「いい視点だ。では皆で地方都市の実力をデータで調べてみよう。都市雇用圏人口50~115万人程度の地方中核都市、例えば新潟市、静岡市、熊本市、鹿児島市、仙台市あたりを念頭に、東京と比べてどうか見てみよう」


こうして主人公たちは、東京中心のバイアスに挑むべくインターネットで統計データやニュースを集め始めた。



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2. 地方にも広がる最先端技術



まず理翔が情報通信の普及データを調べ、発表を始めた。


理翔「スマートフォンの普及率ですが、総務省の調査によれば全国平均で約73%、東京が81%程度で最も高いものの、最低の県でも55~57%ほどはあります。若者や働く世代に限れば、どの地域でも9割前後がスマホを使っています。つまり、スマホやインターネットは今や全国どこでも当たり前なんです」



先生「2010年代前半は都市と地方で差が大きかったが、今ではかなり縮まったということだね」


真雪「高齢者が多い県だと普及率が下がる傾向はあるみたいですけど、逆に佐賀県や群馬県など地方でも若い世代主体で東京並みに高い普及率を示す所もありましたよね」


理翔「ええ。それから面白いデータがありました。インターネット通販ネットショッピングの利用率です。eBay Japanの調査によると、『ネットショッピングを利用している人の割合』は全国平均で約8割にも達しているんです。そして注目すべきは、**その利用率が最も高かった都道府県が「熊本県」**だったことです!」


真雪「熊本!?東京じゃなくて?」


理翔「はい。2位は岐阜、3位滋賀で、東京は『利用頻度』ではトップでしたが『利用率』では熊本など地方が上位だったんです。つまり地方の人ほど幅広くネット通販を活用している可能性があります。ネットさえあれば、最新の家電もファッションもワンクリックで翌日には届く時代ですから、地方に居ても東京と同じモノを手に入れられるんです」



先生「熊本県が1位とは興味深いね。【ITインフラの普及】と【通販物流網】が地方でも十分発達している証拠だ。これなら“地方には最新のモノがない”とは言えないね」


真雪「5Gの携帯通信も、地方の主要都市ならだいたいサービスエリアに入っていますよね。自治体もデジタル化に積極的ですし、新潟市なんてスマートシティ実証で川辺の公共空間にWi-Fiと電源を用意して屋外オフィスに活用する試みもしていました。地方都市がICTを使ったまちづくりにどんどん取り組んでいます」


先生「新潟市は『スマートシティ協議会』を作って先端技術で街の課題解決を図っているね。他にも、自動運転バスの実験をする地方都市や、AIで観光案内する試みなんかも各地で出てきているよ。最先端技術の実証フィールドが地方になっている例も増えた」


理翔「地方は人も道路も混雑が少ないですから、新技術の実験には向いているんでしょうね。東京だけが最先端という時代ではなさそうです」




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3. ブランドも地方で満喫できる



次に真雪が、最新トレンドやブランド物が地方でも手に入るかを調べて発表する。


真雪「まず全国チェーン店の広がりですが、身近な例でスターバックスがあります。スタバは1996年に銀座に日本1号店ができましたが、2015年までに全47都道府県に出店を達成しています。今では全国約1600店舗もあり、どの県に行ってもおしゃれなカフェ体験ができます」


理翔「鳥取県にスタバができた時はニュースになりましたね。今では全県制覇か…僕らの町にも何軒もありますし、もはや珍しくない」



真雪「都道府県ごとの人口当たり店舗数を比べると、東京がダントツではあるのですが、2位が沖縄、3位愛知、4位栃木、5位香川というデータもあるんです。地方でも人口あたりのスタバ数が多い県が結構あるんですよね。

例えば栃木なんて宇都宮市(約52万人)を中心に東京並みの店舗密度ですし、沖縄も観光客需要もあってか高めです。一方、島根や山口などは少ないですが…」



eroyama「これも、東京都だけが都市圏の中心部だけを含み、都市の外縁部や農村部を含まない唯一の都道府県だから起こる統計的誤謬ごびゅうだね。スタバは都市圏の中心部に多く、都市圏の中心部だけを切り取った都道府県を作ればそこだけ密度が多くなるのは当然。ちゃんと他の道府県のように都市の最外縁やその外の農村部も含めた統計にすれば、つまり、1都3県での統計にすれば、東京圏のスタバ密度は他都市圏と変わらなくなる。」


先生「興味深いね。地方でも需要がある所にはちゃんとブランドショップが進出しているわけだ。東京にしかない店もゼロではないが、大抵の有名店は主要な地方都市やオンラインで利用できるようになった」



理翔「アップルストアの直営店は福岡以上と限られますけど、今は公式サイトで注文すれば全国どこでも発売日にiPhoneが届きますしね。ファッションもZARAやユニクロは地方でも当たり前。結局、モノやブランドの享受は通信と物流のおかげでほぼ地域差がなくなりつつあると思います」


真雪「私、この前どうしても欲しかった限定コスメをネットで買ったら翌日に届いて感動しました。東京の友達が行列した商品も、地方にいながら同じタイミングでゲットできちゃったりしますから、便利な世の中ですよね」


先生「地方在住の人が“欲しいモノは大抵ネットか近場で手に入る”と感じる時代になったということだね。憧れの最新グッズも今や地方に届かないものはないんじゃないかな」



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4. 地方都市の文化・イベントの充実



続いて、地方の文化的な活気について議論が移った。先生が大きな統計資料を広げてみせる。


先生「これはコンサートプロモーター協会のデータだけど、2023年に開催されたライブ・コンサートの公演数だ。東京は1万1千本以上と突出しているが、地方も例えば宮城県(仙台市)では1243本、広島県では721本、新潟県でも409本の公演が行われている。地方都市でも年間数百~千本規模のライブが開催されていて、音楽やエンタメを楽しむ機会がちゃんとある」


理翔「仙台で千本超えですか!有名アーティストも最近はツアーで地方を回りますしね。僕の地元のアリーナにも全国ツアー公演が来ましたよ。今年は地方開催のフェスも多かったですし」


真雪「地方の伝統的なお祭りなんかもすごいですよね。仙台の七夕祭りは毎年約200万人もの人出があるって聞きました。青森のねぶた祭りだってコロナ前は200万人以上来てましたし…東京のイベントに負けない熱気です!」



先生「そう、東北三大祭り(仙台七夕、青森ねぶた、秋田竿燈)はそれぞれ数百万規模の観客で賑わう。九州の博多祇園山笠や北海道の札幌雪まつりも国際的に有名だ。地方都市がそれぞれ固有の文化や祭りで大勢の人を引きつけている証拠だね」


理翔「スポーツでも、広島のカープが優勝したとき31万人の優勝パレードで街が真っ赤に染まりました。地方都市のファン熱もすごいもので、活気がありますよね。Jリーグの地方クラブなんかも地元一丸で応援しますし」


真雪「確かに!私の友達、地元のBリーグ(バスケ)の試合があると毎回家族で盛り上がってます。地方でも娯楽やスポーツ観戦を楽しむ場が増えてますよね。映画も全国同時公開だし、美術展の地方巡回展も多いし、文化に触れる機会もあると思います」


先生「統計を見ても、地方の文化・娯楽への支出は都市部と遜色ないところが多いんだよ。例えば世帯当たりの教養娯楽費は新潟市や岡山市などで全国平均を上回っていた。地方でも皆さん積極的に文化や趣味にお金を使っているということだね」



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5. 地方都市にみなぎる活気


議論の締めくくりに、先生が地方都市の最近の動向についてまとめに入った。


先生「コロナ禍以降、東京一極集中にも変化が出てきたと言われているね。2021年には東京23区で転出超過(出て行く人が多い)が起き、22年も戻りきらなかった。特に40代以降で東京から地方への移住が増えている傾向がある。“テレワークで地方に住んでも同じ仕事ができる”と実感した人が増えたんだろう。地方の生活インフラや活気があればこそ、人は移り住めるわけだ」


理翔「実際、僕の叔父もテレワークを機に東京から地方の拠点都市に引っ越しました。『ネットが速くて暮らしやすい、飲食店もいっぱいあって全然困らない』って言ってます」


真雪「地方都市って、混雑が少なくて家賃も安いし、それでいて便利さもある“おいしいとこ取り”ですよね。私も将来もずっと地元で働けたらいいな…」



先生「熊本市なんかは震災復興もあって中心街を再開発し、バスターミナルや商業施設、ホールが一体化した『サクラマチ熊本』ができてずいぶん賑わった。【国の新しいまちづくりモデル都市】にも選ばれて、グリーンスローモビリティ(電動カート)導入なんかも検討されている。地方都市も工夫次第で新たな活気を生み出しているんだ」


真雪「地方だからって侮れませんね。そう考えると、毎日新聞の『活気は憧れ』って表現はミスリードかも」


理翔「東京“だけ”が憧れの活気に満ちているわけじゃない、と。僕たちの町にも、最先端技術も文化もちゃんとある。データがそれを証明しましたね!」


先生は頷き、黒板に大きく「地方都市の実力」と書き加えた。そして3人は、誇らしげに自分たちの住む地方都市の風景を思い浮かべるのだった。東京中心では測れない豊かな地方の活気が、静かにしかし確実に、日本各地で息づいているのだ。





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