記念SS(1-2) 紅蓮の騎士 その二
二万PV突破記念♪
記念SSをお送りします。
楽しんで頂けたら幸いです。
近衛騎士でもあり、騎士爵家の貴族でもある紅き髪の美女。
彼女の忠誠は聳え立つ山々より高い。
その忠誠は一人の少女へと注がれる事になる。
『アンジェラ・フォン・オヒューカス』
彼女の妹分であり、この世に生を受けた瞬間を目撃した相手でもある。
妹分とは、今代の王『サーストン・フォン・オヒューカス』を父に持ち、その王妃『ラニー・フォン・オヒューカス』を母に持つ王女である。
彼女の成長を誰よりも喜び、見守ってくれた存在が、そのサーストン王とラニー王妃である。
そのラニー王妃がアンジェラ王女を産んだ時に彼女に伝えた思い。
『貴方の新しい家族よ。』『仲良くしてやってね。』
その言葉を一度として忘れた事は無く、逆にそれを胸に抱きこれまで研鑽を積んできた。
『私がこの子の幸せを護る!』
その思いを胸に、これからも研鑽を積んでいくであろう事も間違いのない事であろう。
『研鑽』とは競える存在が大きく進歩させるのも事実である。
しかしながら、彼女の武は突出してしまった。
17歳を迎える時には既に国内に対抗できる存在は居なくなってしまったのだ。
更に、日々を訓練や教育に時間を費やしてきた彼女。
それも高位の存在から教えられる環境。
必然とそれらの事以外に目を向ける事や情報を耳にする機会を失ってきたのである。
子供から大人へと駆け上がる時期は多感な時期であり、色々な事を吸収し柔軟な考えを持てる様になる時期でもある。
そんな時期に剣を握りしめ、血を吐き。眠たい目を擦りながら本を読む。そんな事ばかりに時間を使ってきたのである。
その弊害が無いはずが無い。
そう、所謂『世間知らず』になっていたのだ。
『あのままではマズいのではないか?』
『不測の事態に対応できる柔軟な考え方を身につけさせねば。』
『しかし、今更何を言ってもどうにもならないのでは無いか?』
『だからと言って、彼女に何を求めるのだ?』
『彼女は国一番になったのだ、これかれは益々の研鑽より世間を知る方が良いのでは?』
『だが、どうする?』
彼女の周りの大人達は年相応な感じを全く見せない彼女を心配しだしたのである。
彼女が望んだからといって、やり過ぎた結果だ。
『誰か、何か無いか?』
その中でトップの人間が周りを見渡す。が誰も何も言えなかった。
そんな中、優雅にセ扇子を振っていた女性がパタンと扇子を閉じた。
『しかたありませんね。殿方というのは。』
『な、何か策があるのか?』
『ふ~。あるではありませんか。良い物が。』
『そ、それは?』
『冒険者です。』
『『『冒険者~!!』』』
『冒険者』とは危険の伴う仕事である。
人類の共通の敵になる魔物を討伐したり、商人などを護衛したり、更には街の掃除やちょっとした使いみたいな事など、ある意味で何でも屋である。
『しかし!』
『しかしも何もありません。』
ピシャリと言い放つその女性に誰も逆らえない。
『そんなに心配ならパーティーを組ませれば良いのです。ちょうど良いではありませんか?どのみち組織する予定でしわよね?』
『そうかもしれんが・・・。』
『まったく煮え切らないですわね。もう結構です。私が命令を出します!』
その一言により、誰も反論できる余地は無くなった。
一人で不安であれば、仲間を用意してやれば良いと言われれば、それ以上の案が出てこない男達は黙るしかなかった。
こうして、彼女を見守る師匠達の思いにより、彼女は冒険者をする事になったのである。
◇◇◇◆◇◇◇
『なぜですか?なぜ、私は冒険者をしなければいけないのですか?』
その気持ちをグッと心の奥へと追いやり彼女は承諾した。
そして彼女には仲間が与えられたのである。
キャス、パルル、シャル、ベスの四人が選抜されたのである。
キャスは素早さが特徴的な青髪の女性である。
しかも手先が器用な彼女は騎士としての教育を受けながらもシーフの適性を持っていた。
斥候任務が得意で選抜された。
パルルはキリっとした印象を与える大柄な金髪の女性である。
騎士らしい騎士という印象を持たれる存在であり、尚且つ剣の腕前も高い。
防御系の剣術を得意としており、基本的には盾を常用するタンクタイプだ。
シャルは人当たりの良い銀髪の女性である。
それは雰囲気もさることながら、神聖魔法や回復魔法にも精通している騎士である。
落ち着いた雰囲気で交渉を担当する。
ベスは基本的には無口な緑髪の女性である。
騎士としてはその無口な性格が信頼へとつながる。
魔法を得意としており、魔法担当である。
さて、これだけの人材を集めたわけだが、何故集めたのかである。
それは当時、女性だけの護衛隊は居なかったのである。
これは彼女の功績であろう。
女が男に負けるという常識を覆したおかげであった。
今では普通に貴族の子女を中心とした女性の近衛騎士は少なくない。
その先駆けであるのだ。
◇◇◇◆◇◇◇
『今日も薬草採取に行くわよ。』
『え~。今日も?』
彼女達は、そもそも武に対する実力は折り紙付きなのである。
つまり、最低ランクからのスタートにはなり得ないハズなのだ。
しかし、師匠達の意向は国としての意向でもあった。
そして師匠達の意向とは最低ランクからのスタートであったのだ。
その為に、実力に伴わないと見られる薬草採取にゴブリン等の低級の魔物を狩る事などする事からスタートになった。
彼女達は三年間の冒険者生活を指示された。
そしてその二年間で上級冒険者として見られるB級冒険者になる事を任務として与えられたのである。
騎士たる彼女は、任務を遂行するために真面目に取り組む以外の道はなかったのである。
元々真面目な彼女は忠実に依頼を受け、対応していく。
犬の散歩や、買い出しの手伝い。ドブ掃除に食器洗い。
この様な雑事もこなしていく。
それは貴族として教育されてきた『民の願いを聞く事。民の平穏な生活を護る事。』を擦れずに認識できていた結果であろう。選民意識を持ってない彼女はすんなりとやる事が出来た。そして人々の『感謝の言葉』が、報酬の金額よりも彼女にとって嬉しいモノであった。
そうして雑務をする事で、彼女は平民の生活や状況を知る事が出来たのである。
平民の生活。街の環境。国の施策。それらを平民目線で見て感じる事が出来る経験となる。
『平民は気楽で良いな~って思っていたけど、違うんだねぇ~。』
『当たり前でしょ?』
『貴族も貴族で大変だけど、平民も平民で大変だね。単純な比較は出来ないけど。』
彼女の仲間達の言う事はもっともだ。と彼女自身も思った。
平民は日々の生活を平穏に生きる為に日々を苦しんでいる。
貴族は平穏な生活を送る為に自制を怠らないし、気が抜けない。
それを互いに、一つの側面だけを見て『あいつ等良いなぁ~。』と思ってしまう。
立場によって見え方や考え方も変わる。一つの側面だけで全体を把握しようとする事の危険性を感じ取る事が出来たのである。
それは、彼女に思考の幅をもたらす事になった。
物事には色々な側面があり、多角的な見方をする必要がある事を知る機会になったのだ。
『人間はみな自分の見たいものしか見ようとしない。』という言葉がある。
かの有名なローマ時代の英雄の言葉である。
それ以外に注目する事が無く、本質を間違える事の危険性を指している事であるが、それを感覚的に知り、感じる事が出来るのは彼女が優秀な存在である事が大きいだろう。
それを知ってからは、より真剣に依頼を達成していく事に繋がった。
一年も経たずにC級冒険者となったのは決して自らの武を示しての昇級ではない。
地道に沢山の依頼を確実にこなして得た昇級である。
いつしか、彼女につられて、仲間の面々も真摯に依頼を受け、達成していく様になっていった。そして彼女と同じ様に、色々な事を吸収していったのである。
C級冒険者となった彼女達のパーティー名『K5(ケーファイブ)』は有名になっていた。
騎士五人という所と髪色が5人とも違う事からカラフル5人という安直な名付けであったが、気がつけば『K5親衛隊』が非公式ながら出来る程の人気を得ていた。
そのようなモノが市井に出来ていると知った師匠達はこぞって『親衛隊』のグッズを買い漁る事になるのだが、それはまた別の話である。
◇◇◇◆◇◇◇
C級冒険者としての活動の中心になったのは『護衛任務』である。
都市国家オヒューカスから他の都市へと跨ぐ護衛任務。しかし彼女らが休む間もない程の依頼が舞い込む。指名依頼である。何故か、彼女達が受けた護衛任務の達成先の都市には次の依頼が用意されているのだ。それにより彼女達はロックフェラ連合国内の都市国家を全て踏破する事になったのだ。これは一重に『K5親衛隊』の力が発揮された結果である。
『ロックフェラ連合国内の他の都市はどんな様子なんだろう?』
その『K5』が話している内容を聞いた『K5親衛隊』が、嬉々として彼女達に依頼を出す様子が思い浮かばないであろうか?実際その通りの結果が出ているのである。
彼女達にとっては只のただの会話も、『親衛隊』のメンバーにすれば、神からの啓示に他ならないのである。その為に『親衛隊』のメンバーは会合を何回も開き、決定し実行したのである。そして、『護衛される券』は『K5親衛隊』の隊員によって隊員だけの為のプレミアムチケットと化したのである。そして、そのチケット代を元に新たなグッズが製作される事になったのである。『オタク』『ファン』というのはどの世界でもある意味で『脅威』である。
さて、彼等のおかげでロックフェラ連合国内を護衛任務により回った彼女達は無事に護衛任務を完了して『都市国家オヒューカス』へと戻って来た。
ついに、彼女達の任務達成である『B級試験』が現実のものとなったのである。
いつもお読み頂きありがとうございます。
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