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アザランの花  作者: 神山 りお


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38/38

*38 アザランの花



 ―――5年後。




 アザラン侯爵家、跡地は……今もそのままであった。

 血族である王家に返還される事もなく、他の誰かの手に渡る事もなかった。ここは、ファクタールに住むすべての住人の憩いの場であり、貴族達の戒めの象徴となっていたのである。



 あんなにも激しく燃えたハズなのに延焼もなく、屋敷があった跡地には、今は花が一面に咲き誇っていた。



 それはシュレミナが愛した、白い花びらと蒼い花びらを持つ不思議な花。

 毎年、春先になると、屋敷の跡地だけでなく庭一面にも咲いていた。敷地全体に咲くその花は風が緩やかに吹けば、まるで大海原の様な波を打つ美しく可愛らしい花だった。

 シュレミナがたくさん咲かせたいと、願った花。いたらきっと、喜んでいたに違いない。


 サワサワと波を打つ花々を見た領民達は、シュレミナが笑っている様だと、懐かしんだ様に言っていた。




「あなた。また、ここに来ていたのね?」

 咲き誇る花を見ていた夫の姿を見つけ、傍に歩み寄ると困った様に言った。

 彼が家にいない時は、酒場や友人宅ではなく、必ずここにいたのだ。何をする訳でもなく、ただただ、ぼんやりと花々を穏やかな表情をして見ているのである。

「……ライナ、家にいなくて大丈夫なのか?」

 そう言って、妻であるライナのお腹を見た。そう、彼女のお腹には2人目がいるのだ。

 以前医者には、2度と赤子は無理だと言われた筈だった。だが、あの日の奇跡から、ライナのお腹には再び、子を授かる事が出来たのである。

「大丈夫よ。レミの時より、なんだか大人しいくらいなの」

 ライナは優しく優しくお腹を撫でていた。

 レミが産まれるまでは、やたら元気にお腹を蹴る感触かあった。でも、2人目となるこの子は逆に、大人しかったのだ。ちゃんと育っているのかと、心配になる程に。

 だが、そんな母親の気持ちを察してか、大丈夫だよと言っているかの様にトントンと腹を叩いてくれる。

 今度は優しく穏やかな子供が、産まれてくるに違いないと笑みが溢れた。

「そうか」

 ガイドは、嬉しそうに笑っていた。

 突然起きた悲劇では、ガイド達は復讐を糧として生きていた。だが今は違った。アザラン侯爵が残してくれた、この花々と我が子がいる。




 ―――そして、あの日。




 突然の悲劇での別れを埋める様に、穏やかな別れが出来た。そのおかげで、ガイド達の心はゆっくりとではあったが、癒され始めていたのだ。



「レミは?」

 ライナはキョロキョロと辺りを見渡した。

 大病もせず、すくすくと育った我が子の姿を捜した。アザラン侯爵が言っていた様に、レミはジッとしている子ではなく、元気に遊び回るお転婆なところがあったのだ。

 少しでも目を離すと、すぐ何処かに行ってしまう元気な子だった。それが、また楽しくて愛おしい。

「あそこにいる」

 ガイドが楽しそうに笑うと、レミは花の中に埋もれる様に遊んでいた。

 しゃがんで、一生懸命に何かをしている様だった。そんな可愛い我が子が、ガイド達の心をさらに穏やかにさせてくれていたのである。

「レミ~」

 母になったライナは、幸せを噛み締めながら娘の名を呼んだ。

 2度と産めないと知った時は絶望だった。何度死にたいと思ったか分からない。だけど、愛娘の遊ぶ姿を見ると、生きていて良かったと心から思えた。

 あの時、亡くなってしまった筈の娘の名を、呼べる日が来るとは想像もしなかった。名を呼べるだけで、こんなにも幸せだとは思わなかったのである。

「あっ! ママ~っ!」

 ライナに気付き、嬉しそうにパタパタと走り出すレミ。

 手には一生懸命摘んだと思われる花が、ギュッと握られていた。



「あら、可愛い。お花を摘んでたの?」

 ライナは大きくなってきたお腹を抱え、ゆっくりとしゃがんだ。

 レミが摘んだ花を見ながら、優しく頭を撫でていた。この可愛い小さな頭を撫でるのも、ライナは好きだった。

「うん! かわいいからすき!」

 レミは何処か懐かしさを感じる笑顔を、ガイド達に見せてくれた。

 レミもあの姫同様に、この小さく可愛い花が大好きだったのだ。

「そうか……」

 ガイドは知らず知らずに、目頭が熱くなっていた。

 なんだか、懐かしくて温かくて、胸がいっぱいになっていたのだ。

「可愛いお花売りさん。お花を下さいな。おいくらですか?」

 だから、思わず懐かしい言葉が口からスルッと出ていた。

 アザラン侯爵達といた時にシュレミナとした、あの楽しかった想い出。

「う~ん?」

 この小首を傾げる仕草までが愛おしい。

 ガイドは優しく微笑みながら、レミの前にしゃがんで見ていた。

「おいくらですか?」

 今度はライナが、クスクスと笑いながら訊くと、レミは屈託のない笑顔でこう言った。




   「きんか1まいです!!」

 









 このアザランの地に住む人々は、この名もなき小さな花を愛し、とてもとても大切にした。

 そして、いつの日か―――




 ――――敬意と愛情をもって、こう名を付けたという。






 【アザラン】と。













◇アザラン侯爵家に幸あらん事を祈って、↓から評価など頂けると嬉しく思います。


 お付き合い、ありがとうございました。

 (⌒∇⌒)ノ""またね



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― 新着の感想 ―
[良い点] めっちゃ泣けました。 愛の形がなんたるかを今一度噛み締めました。
[一言] 泣いてしまいました!!! 一人で地下室に閉じ込められていたなんて、、、。 残された人に希望が芽生えて良かった
[良い点]  だ、だって、マリアに花渡して、うわぁぁぁぁ!!!  忠臣蔵みてたら、気が付いたら、洋画のホラーになってた気分!  でも、素敵なお話でした……。 [一言]  きっとクリスくんも生まれ変…
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