ロマンス 第二番 op50
馬車に乗って数十分。眠くなってきた頃に、その馬車は止まった。
そこにあったのは大きな建物。門に立て掛けてある『森』という表札を除けば、ホテルとなんら変わりはない。その豪華すぎる佇まいに、不安をおぼえた。
売られてしまうのではないか、と。
だが、その不安はドアを開けた途端、裏切られた。
「ただいま帰ったよ。」
「おかえりなさい。」
女性と男性が出てきた。
「今日は客人がいるのだ。ミワさん、お茶を用意してくれないか?」
「わかりました。いただきものの和菓子があるのでそれもだしますね。」
ミワは台所へむかった。
そして、茜音は鴎外によって客間に案内された。
「はじめまして。僕は夜風旬。小説家を目指している書生だよ。ここに居候させてもらってるんだ。」
夜風旬。その名前を茜音は聞いたことがなかった。このどこにでも居そうな青年の、小説に込めた想いは私のいた時代に届かない。
「お茶持ってきました。」
ドアを開け、お盆を持ったミワが入ってきた。
「可愛い……!」
お盆の上にあった和菓子をみて、茜音は思わず声をあげた。それは、うさぎのような形をしていて、食べるのが少しもったいない。
「やっぱり、女学生は可愛いものが好きだなあ。」
そう言って笑ったのは鴎外。くしゃっと、目を細め、笑った姿は、家庭科の授業で習った彼とは程遠かった。
茜音は、旬、ミワ、鴎外の三人に、ここまで来てしまった成り行きを全て話した。
「帰れるまで、ここにいてくれればいい。」
こうして、茜音と彼との恋物語が始まった。




