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儚い願いのメヌエット

翌日、私は舞台に立った。

市民で作る、チャリティーコンサートのようなものである。

演奏曲は、モーツァルト『デュポールのメヌエットによる九つの変奏曲』と、リスト『愛の夢』。そして、最後に出演者全員でリストの『愛の挨拶』を演奏することになっている。

初めに弾くモーツァルトの曲は、平成に戻ってから知った曲だ。

市民会館の大ホールには、たくさんの人がいた。

今日は、バイオリン、チェロ、ピアノの順番で演奏が行われた。

各楽器一人ずつなのだが、こうして自分が選ばれたということが素直に嬉しい。

ステージの真ん中に置かれたスタインウェイのピアノとともにスポットライトを浴びる。

最初のメッゾフォルテが会場に響いて、鹿鳴館の夜が蘇る。

目を閉じてみれば、あの日の景色がまぶたの裏に鮮明に浮かぶから、どきどきした。

「ふふ」

懐かしくなって笑みと涙が零れる。

そう思うと、この華やかなメロディーさえ、切なく感じられてくる。

少しだけテンポを落とした。ひとつひとつの音を大切にするために。

四つ目のバリュエーションに入ったあたりから、舞台の上にいる気分から外れた。

私が今いるのは鹿鳴館の舞踏室。明治時代に行ってしまった日のように、ダンスのためにピアノを弾いている。あの時はみんながみんな楽しんでいるものと思ったいたけれど、もしかしたら一夜限りの輝きかもしれない。その一瞬のために人々は強く輝く。いつか終わりを迎えた時、後悔がなくなるように、と。

私は、それを身をもって知っている。なぜなら、私もそうだったから。

儚い願いたちに祈りを込めて、『デュポールのメヌエットによる九つの変奏曲』を弾き終えた。





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