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光のもとでⅠ 第六章 葛藤  作者: 葉野りるは
サイドストーリー
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33 Side Yui 01話

 栞さんに夕飯の詫びを入れ、すぐに秋斗さんの後を追う。

 スニーカーを引っかけた状態でポーチに出ると、エレベーター待ちしている秋斗さんがいた。

 エレベーターホールで追いつき、秋斗さんに続いてエレベーターに乗り込む。

 ふと階数ボタンに目をやると、

「十階……?」

 俺の声に秋斗さんが振り返った。

「女漁りにでも行くと思ったわけ?」

「……思いました」

「……携帯壊れたから買いに行く。ノートパソコンがないと復旧作業無理」

 なんだよ、そうならそうと言ってくれればいいものを……。

 俺、どうやって引きとめようか、とかこれなんのミッションだよ、とかあれこれ考えるほどには焦ってたんですけどっ!?

 でも、携帯壊れたってなんですか? 何事ですか?

 秋斗さん、携帯ないと困るんじゃ……。

 俺は部屋には入らず、秋斗さんが出てくるのを通路で待っていた。

「雨、止まないかなー……」

 そしたら少しはリィの気持ちも体調も少しは落ち着くのかな。

 なぁ、セリ……。セリはどう思う? セリだったらこんなときどうしてほしい?

 俺はさ、やっぱりよくわからないんだよね……。

 してあげたいことはたくさんある。でも、それで本当に自分の気が晴れるのか、救われるのかわからなくなってきた。

 それに、俺がしたいことはたくさんあるけれど、それをされる側はどう思うんだろう。

 女、女の子、妹――ぜんぶ同じ性別なのに扱い方が全然違う気がする。

 俺にとっては全部同じだったんだけどな。

 リィを見てると全部違うものに思えてくる。リィの前では偉そうにわかったようなことを話していたけど、俺が思ってるよりももっと深く悩んでいる気がした。

 悩むっていうよりは戸惑い、かなぁ……。

 赤面してたけど、なんていうか好き好きオーラーが全然感じられないんだよなぁ……。

 俺の気のせいかな?

 ――ガチャ。

 秋斗さんが出てくると、手にボストンバッグを持っていた。

「なんですか、その荷物」

「しばらく泊めろよ」

「はっ!?」

「とりあえず、ショップ閉まる前に携帯買いに行くから」

 秋斗さんは止まることなくエレベータホールへ向かった。

 ボストンバッグのほかにはスーツ二着。まじでうちに泊まる気っ!?

 ちょっと、蔵元さん助けてっ。


 車に乗ると、いつもより数段荒い運転でホテルへの道を走り出した。

「ねぇ、なんでそんなにイラついてんですか? 部屋から閉め出したから?」

「……複雑な心境なんだよ」

 複雑、ねぇ……。俺の心境も複雑なんですが……。

 秋斗さんの複雑とリィの複雑。どっちが複雑極めてるのかな。

 そもそも、秋斗さんの複雑ってのは性欲の問題じゃなくて?

 リィのはなんだか色々と入り混じっていそうで想像もつかない。

 何もわからないところに色んなものを放り込まれて、分類ができていないうえで物事考えてるっていうか……。

 パソコンのハードに整理されてないデータをばかすか入れられて、どこになんの情報があるのかわからない状態、かな?

 しかも、それをやってるのが俺と秋斗さんな気がしてならないんだけど、すべて気のせいであってほしい……。

 隣で運転する秋斗さんは珍しく眉間にしわを寄せていた。

 相当我慢してるんだろうけど、リィ相手じゃもっと我慢しないといけないんじゃない?

 今押したらあの子は間違いなく引く。力技は通用しない子だ。それから駆け引きも……。

 リィの不思議なところは自分っていう基準がきちんとあるところ。

 わからないって悩んでいるように見えるけど、実際はわからないことに対してもしっかりと自分目線で物事を考えてる。

 そのうえで、自分に可能か可能じゃないかの振り分けをしている気がする。

 だから、今は押し時じゃない――。

 それを肌で感じるからイラつくのかな?


「俺、携帯買ってから上に上がるから、先にこれ持っていって」

 と、ホテルの駐車場で荷物を渡された。

 そこで別れ、俺は自分にあてがわれている部屋へと戻ってきたわけだけど……。

「まずしなくちゃいけないことは蔵元さんに連絡、だよね」

 ホウレンソウ――報告連絡相談は社会人の常識。

「蔵元さん、俺ですが……」

『どうかしたのか?』

「あー……俺がっていうか、秋斗さんが、ですかね。今携帯壊れてて連絡つくのパソコンのみなんで」

『……それなんの呪い?』

「えぇと……あるとすれば兄妹の呪いか、低気圧の呪いってことで……。ちょっと俺の手には余るんですが」

『……一時間は耐えてくれ。こっち片付けたらそっちに行くから』

「頼んます」

 こういうときに頼れるのは蔵元さんくらい。まったく困った人だよ……。

 でもま、女漁りじゃなくて良かったけどさ。

 ――ってか、あの人本当に帰ってくるのかな!?

 街に出てそのまま声かけられて成り行きで……とか、なくはないんじゃない?

 なんか一番あり得そうな線で怖くなってきた。

 お願いですから真っ直ぐ帰ってきてください。


 リィは泣き止んだだろうか。

 キス攻めにされただけであの有様だ。秋斗さん、しばらくキスもやめたほうがいいんじゃない? それこそ、手をつなぐところからの相手だと思うんだけど……。

 今じゃ園児だって手をつないでキスするご時世なのにな。実のところ、小学生どころか園児にすら負けている気がする。

 それを言うならセリは――セリはどうだったんだろう。

 家族を失ってから三年半か……。

 今でも時間さえあればセリを思い出す。きっと、どれだけ時間が過ぎようとそれは変わらない気がする。

 それに耐えられなくなると女を欲する自分に気づいた。

 気づいたところでどうしたらいいのかなんて知らない。

 何度探しても見つからなかった。どうして遺品の中にアレだけがなかったんだろう……。

 事故現場からも発見はされず、一緒に燃えたのではないか、と警察にあしらわれた。

 確かに、アレだけを手に持っていた、というのは否めなくもない。でも、それで納得ができるわけでもなかった。

 あれほど大切にしていたものを壊してしまうような場所へ道連れにしただろうか……。

 セリ、おまえは両親の思惑になんて気づいてたんだろ? そのうえでその計画に乗ったんだろ?

 なら、どうしてアレを持っていった?

 今でも俺のキーケースには開ける先のない鍵がひとつ――行き場なく、所在なさげにぶら下がっている。

 ベッドに寝転がり鍵を見ていると、秋斗さんが戻ってきた。

「……おかえり」

「……何、今の間」

「いや、帰ってきたな、と思って」

「ほほぉ……。俺がそこらの女の誘惑に負けて帰ってこないとでも思っていたわけか。それとも、俺から誘いをかけるとでも思っていたのか?」

「さぁ、どっち?」と言わんばかりに両腕を組み、性質の悪い笑顔を向けられる。

「やべ……俺一時間耐えられっかな?」

 ポツリと零すと、

「あぁ、蔵元はあと一時間で来るんだ?」

「……ハイ。あと一時間くらいだそうです」

「ふーん。俺、今日は飲むよ。後先考えずに飲む予定でいるからあとはよろしく」

 秋斗さんは買ってきたばかりであろう携帯を早速パソコンにつなぎ、

「一時間で復旧作業すませるから声かけないで」

 テーブルを占拠して作業を始めた。

 そうしてくれるに越したことはない。

 俺は少し寝るかなぁ……?

 っていうか、俺、秋斗さんが酔ったところって見たことないけど、この人どれだけ飲めば酔うの?

 いや、気にせず今は睡眠を取ろう。

 でも、明日朝にはやらなきゃいけない仕事があった気がする……。

 うーん……俺が酒に呑まれなければいいという話かな。

 寝る……今からきっちり一時間は寝るっ。




「唯、起きろ」

 蔵元さんの声……。

 もう一時間経ったの? もう少し、もう少し寝かせて――。

「起きろっ!」

 だから、もう少し……。

「蔵元甘い、こんなやつ蹴れば一発だろ?」

 え……えええっ!? 蹴ればっ!?

 ガツッ――。

「いってぇ……」

 信じらんない、この人俺のことベッドから蹴落としやがった。

「な?」

「な、って秋斗様……。微笑む場面じゃございません。唯、大丈夫か?」

「一応……」

 蔵元さんの手を借りて立ち上がりつつ、

「秋斗さん、携帯は?」

「復旧済み。これからこのホテルの二十七階に移るから」

「あ、ホテルで飲むんですか?」

 蔵元さんに尋ねると、

「一応、唯に気を遣ってくれてるみたいだ」

 蔵元さんの口調が若干変わった。ということは無礼講が始まったか。

 三人で飲むときの決まりごと。

 仕事における上下関係が取っ払われる。

「この部屋を酒臭くすると、明日、唯の仕事に影響するだろ? だから別の部屋。でもって、今晩はホテルの一室予約入れておいた。飲む部屋の隣だから秋斗さん潰したらそっちに運ぶ予定」

 はぁ、助かった……。

 自分、酒臭いところでの仕事って頭痛くなっちゃってダメなんだよね。酒自体もあまり飲めるほうじゃないし、誘われないと飲まない。

「秋斗さん、今日は飲む宣言してましたけど?」

「いったい何があったんだ?」

「いや、リィと折り合いがね――ハハハ。俺も詳しいことはちょっと……」

 と、濁す。

 飲んだくれて秋斗さんが吐いてくれるのが一番助かる。

 口が裂けても秋斗さんがリィに避けられてるかも、なんて言えない。

 なんだか歴史に残りそうな黒い飲み会になりそう。

 蔵元さん、あと頼みました。




 この日、最悪の飲み会が行われたわけだが、途中からオーナーが加わったことで惨状は免れた。

 けれども、一本の電話がその場の空気を一変させる。

 それは秋斗さんの従弟、楓さんからの電話だった。

 一言で通話が切られた内容とは――。

『翠葉ちゃんのことを思うのなら、しばらく彼女には近づくな』だったらしい。

 深夜遅くに楓さんが電話してきた意味を考えるのも束の間、秋斗さんはすぐに彼女のバイタルを確認する。

 バイタルの履歴をパソコンに表示させると、秋斗さんは絶句した。

 履歴には一気に上昇した血圧数値が表示されていた。

「痛み? 発作……? ……ストレス、か?」

 この場には医療の知識を持ち合わせた人間はひとりもいない。

「明日には私が裏を取ろう。栞か湊に聞けばわかるだろう」

 オーナーがそう言ったけど、秋斗さんは自分で確かめる旨を伝えた。

 ひどく狼狽した顔で。

「だが、楓がそんな電話をしてくるくらいだ。彼女には会わないほうがいいんじゃないか?」

 的を射た言葉に秋斗さんはしばし口を閉じていたものの、

「大丈夫、彼女には会いません。蒼樹か湊ちゃん、もしくは楓に訊きます」

「ならいいが……状況は報告するように」

 と、オーナーが釘を刺した。

 飲み会を続行できる雰囲気ではなくなり、その場でお開きになった。

 秋斗さんはパソコンをシャットダウンし、真っ青な顔をして部屋を出ていった。

「秋斗の相手をしてくれてありがとう」

 オーナーに言われ、

「秋斗様、大丈夫でしょうか……」

「大丈夫そうには見えないが、これで自殺をする人間ではないよ。とりあえず、一度寝てすっきりさせてから自分で状況確認に行くだろう」

 俺はこの期に及んで、リィの影響力ってすごいんだな、とか考えてた。

 でも、リィに何が起きたのか、自分も少し気になっていた。

 秋斗さんはこの世の終わりみたいな顔色で出ていったけど、状況確認したら俺たちにも教えてくれるのかな。

 そんなことを考えながら自分の部屋へと戻った。

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