表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月が繋ぐ  作者:
8/8

第八話 誰がための徹夜勉強会

 「…それマジ?」


 月曜日の放課後、降雪から聞いた話に俺は唖然とした。


「うん、マジマジ。三毛君HRの時ずっと寝てるんだから……ちゃんと大事な話は聞かないとダメだよ?」

「うげぇ……このタイミングでの『テスト』は勘弁してくれよ」


 テスト……そう、それは混乱と恐怖、絶望と懊悩のシンフォニー……なんてカッコ良く言ってみたら少しは気が紛れるかと思えば全くそんなことはない。


「三毛君の場合、自分の勉強だけじゃないもんね?」

「ああ……自分よりずっと手のかかるバカがいるもんで。ホント見捨ててぇ……」


 そうなのだ。わが三毛家にはとんでもない厄介者がいるのである。その名も三毛輪廻、言わずと知れた学年きってのバカ脳の持ち主である。

 そんな妹の面倒を見てやってくれって親から言われてるもんだから、俺は自分の勉強に加え、輪廻の世話までしなくちゃならない。よって、俺のテストに対する憂鬱度は常人の二倍、いや三倍にも膨らむのだ。

 ……ってか、三毛家って言いづらいな。


「そうだ! ほら、前みたいにお泊まり会しない? みんなでテスト前に徹夜で勉強したよね?」

「ああ、あの時はさすがの輪廻も覚悟決めて勉強してたな……」


 つい一月半ほど前に行われた学年末テストの時である。これで赤点取ったら留年確定、という輪廻の泣き落としにあい、急遽企画されたのが徹夜勉強会であった。

 他の3人はそこまで無理をする必要も無かったのだが、1人だと勉強出来ないという輪廻のわがままに付き合う形で結局朝5時近くまで机に向かった。それから二時間近く仮眠を取って、朝飯は全員揃ってのカロリーメイトと眠眠打破。何とか一日乗り切った後は家に帰って死んだように眠ったものだった。


「うん! コウちゃんにも手伝ってもらってさ! リンちゃんの勉強も3人で交代して見ればきっとうまく行くよ!」


 あの時の苦労を思い出し早くも頭が痛み出した俺とは対照的に、なぜか意気揚々とする降雪。


「あれ、実は結構楽しかったんだ〜。やってることはただの勉強でも、ああやって皆で遅くまでワイワイできるのって、なんか修学旅行にでも行ったみたいで」

「……そうだな」


 はしゃぐ降雪に水を差しちゃ悪いと思い、俺は適当な相槌を打つ。しかし、そこでふと別の心配が頭をよぎった。


「あ、でも夜は……」


 このところ毎晩日付が変わる頃には美山へ出向いている俺である。徹夜で勉強となると、やはりその時間もみんなと一緒にいるわけで……。


「え……もしかして都合悪い? 門限とか出来ちゃった感じ?」


 俺が難色を示すと、降雪は途端に表情を暗くした。


「いや、そういうわけじゃないんだけど……」


『毎日会いに行く』と柚木に公言したのはつい昨日のことである。さすがに365日本当に毎日通うことまでは考えてなかったが、ちょっとこの日は……などとはまだ言いづらいタイミングである。


「まあ大丈夫か……」


 あれこれ悩んだ末、結局はなんとかなるだろうという希望的観測の下結論を出す。勉強会の方はなんか適当な理由をでっち上げて、その時だけ抜ければ良い。


「OK。悪いけど輪廻のことも面倒見てもらっていい?」


 降雪は学年でもかなり優秀な方だ。俺も落ちぶれてるわけじゃないが、輪廻の勉強を見るなら降雪の方がずっと適任である。


「うん、任せて! えっと……来週の月曜日がテストだから……」


 降雪は嬉しそうに頷くと、早速ケータイでスケジュールを確認し始めた。


 ********


「ツーグニャン♪」

「何だよ……気持ち悪い声出すなって」


 その日の夜。昨日あんなことを言ってしまった手前、俺は柚木と顔を合わせるのが気恥ずかしかったのだが……。


「うふふ、ツグニャンは私のこと助けてくれるんだもんね? カッコイイー」


 口に手をやり、わざとらしくプププと音を立てて笑う柚木。彼女の方はすっかりいつもの調子である。

 くそっ……あんなこと言うんじゃなかった。俺は柄にもなく恥ずかしいことを口走ってしまったことを後悔した。


「それより……大丈夫だったか?」


 今日は柚木が美術準備室の机を調べることになっていた。ただ、一つ心配だったのは柚木の校内での人間関係である。もし美術準備室なんかで一人コソコソやっているところをクラスメイトに見つかりでもしたら、また変な噂が立ちかねない。


「あ、うん。平気だった。元々美術室なんて放課後はほとんど人来ないから」


 だが幸い今回は何事もなかったようだ。柚木は安堵の息と共に穏やかな笑みを見せた。


「……それで、何か見つかったのか?」

「うん、それがね……準備室にあった机の一つに文字が彫られてあったの」


 文字……。柚木の言葉に俺は自分の机に彫られた文字のことを思い出す。

『ミヤマノカガミイワ』。一週間前の始業式の日に見つけたその文字こそが全ての始まりだった。


「それで? 何て書いてあったんだ?」


 俺は固唾を飲んで柚木の言葉を待つ。次なるキーワードは一体どんな言葉なのだろうか? またどこか別の場所を指示するものなのか? それとも直接『世界の真理』を綴ったメッセージなのだろうか?

 しかし、柚木の口から語られた言葉はそのどちらとも異なるものだった。


「『エルムンド・フィン』」

「……は?」


 エルムンド……? なんだそれ? 


「いや、だからその、ね……机には『エルムンド・フィン』って、そう彫られてあったの」


『ミヤマノカガミイワ』の時と異なり全く思い当たる節がない。俺は首を傾げ、柚木に問い返す。


「どういう意味なんだ……?」

「私にもわからない。ちょっとネットで調べてみたんだけど何もわからなくて……」


 俺がこういう反応を示すことも柚木は想像していたのだろう。彼女なりに色々と事前調査はしてくれたようである。しかし、二人して何もわからないとなると、一つ可能性として思い浮かぶのが……。


「……そもそも本当にそれが次のメッセージなのか?」

「で、でもっ、それしか無かったんだもん!」


 怪訝な表情を浮かべる俺に、柚木はムキになって反論する。まあここで柚木を疑っても仕方ない。向こうの世界のことは彼女に頼らざるを得ないのだ。


「……わかった。こっちでも調べてみる」

「うん、お願い」


 クラスメイトに会うのが怖くて学校にも行けない彼女が、無理をして探してくれた机の落書きである。ここは柚木の努力に免じて、この言葉が次の手がかりだと信じるしかない。

 一通り報告を終えると、柚木は残りの時間を確認し、他愛もない世間話を始めた。


「あ、それよりさぁ……聞いてよ、今日駅前でさ--」


 最近柚木はこうして、日常生活(学校に行かずに街をブラブラしてること)の出来事を俺に話すようになった。


 ********


「うーん、わかんねぇな……」


 ノートにペン。並べ替えたり、英字にしてみたり。それでも結局何も浮かばず俺は頭を抱える。


「だよねぇ……この時期にテストなんて、学校ってマジ何考えてんのかわからない……」


 すると、ソファの隣で輪廻も同じように頭を抱えていた。


「いや、別にそうじゃなくてな……まあそれもだけど……」


 俺が頭を悩ませていたのは、もちろん柚木が見つけた『エルムンド・フィン』という言葉についてである。

 あれから数日、毎晩彼女と二人であれこれ意見を出し合ってはいるのだが、どうにもまだそれらしい答えが見つからない。そうして特に進展の無い日がしばらく続いていた。


「あーもうっ!! なんで新学期早々からこんな憂鬱な気分にならなくちゃいけないかなっ!?」

「うおっ!?」


 隣で輪廻が急に立ち上がり、ソファが大きく揺れる。


「春だよ!? 春、スプリングだよ!? あぁ〜なんかもっと、湧き上がる泉のような!? 心がぴょんぴょんする感じにならないかなぁ!?」


 ……なるかよ。なんだよ心がぴょんぴょんって、うさぎでも注文してろ。

 輪廻の騒がしさに何を考えていたのかすっかり忘れてしまった。俺は仕方なく思考を中断すると、ふと先日の降雪との会話を思い出した。


「そういや降雪が週末にまた勉強会しようって言ってたぞ。リン、大丈夫か?」


 あれから降雪や千畳とは何度か会話したのだが、よくよく考えてみれば輪廻にその話は伝わっているのだろうか?


「あ、聞いた聞いたー。まあ私としては是非お願いします、って感じだけど」


 まだテストに対し納得のいかないという表情を浮かべながらも、輪廻はペコリと頭を下げる。さすがにもう現実から逃れられないことを悟ったらしい。


「ってか大岡のやつ私だけ土日の練習来なくていいって……ますます逃げ場ないし」


 そして、この世の終わりみたいな顔をして深いため息を吐いたかと思えば……。


「うがー!! こうなったら体だけでもぴょんぴょんしてやる!」

「やめろ! バカ! ソファが壊れる!」


 突如ソファの上でうさぎ跳びを始めた輪廻。隣に座る俺の身体も上下に揺れる揺れる。

 ……頼むからもうコイツとは兄妹の縁切らせてもらえませんかね?


 ********


「リンちゃん? また同じミスしてるよ? だからグラフを平行移動させる時はx軸方向に動かしたい分を引かな(・・・)きゃダメなんだって」

「うぎゃー!! なんで!? もう意味不明! +方向に動かしたいのに何で引かなくちゃいけないの!? もうヤダ!!」


 勉強会当日の土曜日。千畳と降雪にも三毛家に来てもらって、昼13時頃から勉強を開始。単純な暗記科目の社会、理科なんかの間は良かったのだが、晩飯を食ってからの数学タイムに突入した途端これだ。


「リンちゃん、ここもほら? さっき言ったのと同じ。xの範囲があるから必ず二次関数の頂点が最小値とは限らないの」

「ふんがー!! ぬんがー!! わぎゃー!!」


 数学は輪廻の一番の不得意科目。さっきから降雪に見てもらってるのだが、もうてんで駄目らしい。ストレスの余り獣のように頭をかきむしり、咆哮をあげる輪廻はまるで山月記のごとく。いや、正直お前より、教える降雪の方がよっぽど大変なんだぞ。


「こら輪廻。あんまり騒ぐとまた継流に怒鳴られるぞ。……なあ継流?」

「……」


 そんな騒々しいやり取りをどこか別世界の出来事のように聞き流しながら、俺はぼうっと壁にかかった時計の針を眺めていた。


「おい、継流……?」

「……22時半か……」


 今日は両親が気を利かして旅行に出かけたため、家には俺達4人だけである。だからこんな夜遅い時間にも俺達は気兼ねなく、リビングでわいわいやりながら勉強していたのだが……。


「どうしたの、ツグ? さっきから時間ばっか気にして?」

「ん? ああ、いや……ちょっとな」


 輪廻の呼びかけにふと我に返る俺。

 夜になると時間が気になり始めるのは最近の俺の習慣のせいである。そう、俺はこのあと勉強会を抜けて美山に向かうつもりでいた。

 まあ、まだ時間はあるか……。

 美山へは自転車を飛ばせば30分で着く。せっかく降雪と千畳が協力してくれた機会だ。もう少し勉強に集中しよう。


「……あぁーこれどう訳すんだっけ? 千畳わかる?」


 俺は手元のノートに目を戻し、ちょうど英語の問題で詰まっていたことを思い出した。


「ああ、それか? ちょっとペン貸してみろ」

「え、どこどこ? あ、それ私もわかんないやつだ、教えてー!」


 俺が隣の千畳にノートとペンを渡すと、向かいから輪廻も身を乗り出してきた。


「だーめっ! リンちゃんはまずこの問題解いてからだよ! 数学の方がずっと大変なんだから!」

「あうっ!」


 しかし降雪にペシッと背中を叩かれ、輪廻は泣く泣く腰を下ろす。


「ううう……オリのいけず。もう数字がゲシュタルト崩壊してきたよー。ほらこの辺とか……」

「それはお前の字が汚いだけだ」


 最後は輪廻の言い訳を封殺し兄としての仕事を果たした俺は、千畳に教えを乞いながらもう一度問題に向かった。


 ********


「……あ! やべっ! もうこんな時間!」

「ん? どうした? なんか用か?」


 それからしばらく問題に集中していた俺は、ふうと一息ついた拍子に視界に入った時計にハッと息を飲んだ。時計の針は既に23時30分を過ぎていた。


「ごめん! 一時間くらいしたら戻る!」


 慌てて身支度を整え始める俺を見て、千畳達は目を丸くする。


「三毛君、こんな時間に……おでかけ?」

「えっ! ツグ今日も出かけるの!? みんな来てるのに!?」


 降雪は不思議そうに首を傾げ、ある程度事情を知っている輪廻もまさか今日も出かけるとは思っていなかったようだ。


「悪い! ちょっとやっといて!」


 ほんの少しでも時間があれば、まだ上手い言い訳も出来たかもしれない。しかし、生憎そんな時間は残されていなかった。ソファの背にかけてあった上着を手に家を飛び出すと、俺は全速力で夜道を自転車で駆け抜けた。


 ********

「悪い! 遅くなった!」

「あ……」


 ふもとに着くなり自転車を投げ出し、後は息を切らしてがむしゃらに走った。そしてたどり着いた鏡岩がまだ光り輝いているのを見て、俺はなんとか間に合ったことを知る。

 時刻は0時7分。柚木は鏡岩の前に膝を抱えて座っていた。


「よかった……もう来ないかと思った」

「お前、その顔……」


 俺の声に顔を上げた柚木を見て、俺は罪悪感に胸を締め付けられた。ぐしゃぐしゃに歪んだ顔は鼻の先まで真っ赤に染まり、泣き腫らした目は彼女の綺麗な顔を台無しにしてしまっていた。


「あ……ご、ごめん!」


 柚木は慌てて服の袖でごしごしと顔を拭う。しかしその程度で元に戻るはずもなく、結局彼女は表情があまり見えないよううつむき気味で話し始めた。


「ごめんね……こんなの初めてだったからもう見捨てられちゃったかと思って……」


 無理に明るい声を出そうとする柚木だが、間に混じる嗚咽は隠せない。


「……違う、そんな簡単に見捨てるわけあるか」


 柚木が俺を責めようとしないのがかえって辛かった。学校のこともあって彼女が今とてもナーバスになっていることくらいわかっていたのに、俺は一番やってはいけないことをしてしまった。


「悪かった。今日ちょっと友達がウチに来てて……」

「そうなんだ。そんなの言ってくれたら……ってそっか、携帯通じないんだね」


 柚木は少し顔を上げて哀しそうに笑った。もちろん、携帯が使えるかどうかなんかとっくに試してみている。まあ結果は予想通り、こっちの世界と向こうの世界の電波が繋がるはずなんてない。


「友達……大丈夫なの?」


 そう言って柚木は気遣うように俺の顔を覗き込んだ。ホント、なんてお人好しなやつだ。こんな時ですら自分より相手の心配をするなんて……。

 そんな彼女に少し腹立たしさを覚えた俺は、少しムキになって言ってやった。


「『毎日会いにくる』って……約束(・・)したからな」

「そっか……うん、嬉しい」


 ぶっきらぼうな俺の言葉だったが、それでも柚木は愛おしそうに目を閉じると、慈しむような静かな笑みを浮かべて言った。


「ありがと」


 彼女の言葉が美山の静寂に小さくこだまする。その心地よい余韻に浸って俺は残りのわずかな時間、彼女の話にゆっくりと耳を傾けた。


 ********


「ただいまー……っと」


 出来るだけ静かに、目立たぬように、そーっとリビングに戻るつもり……だったのだが。


「三毛君!」

「うわっ!」


 扉を開けた途端、そこには仁王立ちの降雪が待ち構えていた。


「どういうことか説明してもらえるかな?」


 静かな怒りをはらんだ凄みのある声。


「せ、説明?」

「リンちゃんから聞いたよ。ここんとこ毎日こんな真夜中にどこかに出かけてるらしいね」


 輪廻のやつ余計なこと言ったな……。

 俺が奥の方に目を向けると、輪廻はさっと視線を逸らし我関せずといった風に突然口笛なんか吹き始めた。

 くそっ……しらばっくれやがって。


「そりゃ寝不足にもなるよ。新学期に入ってからずっと眠そうにして、どうしたのかな? って心配してたら……」


 そこからはもうグチグチ……。完全に説教モードに入ってしまった降雪。


「ああ……始まったな」

「うん、こりゃツグもう逃げらんないね」


 千畳達に助けを求めようにも、彼らは完全に他人事。なんて薄情な奴だ。


「……で? 一体こんな時間に何してたの?」


 そして眼前には眉を吊り上げた降雪の顔。これはもう全てを話すまで納得してもらえそうにないな……。


「実は……」


 俺は腹をくくると、『ミヤマノカガミイワ』にまつわるその後の出来事を話し始めた。


 ********


「「「岩の中に女の子ぉ!?」」」

「しっ……声がでかいって」


 俺を除く全員が口をあんぐりと開け、同じ顔をしていた。


「……おいおい、いくらなんでも正気で言ってるとは思えんぞ」


 みんなで美山に登ったあの晩、携帯を取りに美山に戻った俺が偶然鏡岩を見つけたところまでは皆黙って聞いていた。しかし、その鏡岩が午前0時になった途端急に眩い光を放ち、一人の少女が映り込んだという話をすると、彼らはもう居ても立っても居られなくなったらしい。


「うん、でも三毛君がそんな冗談言うとも思えないし……」


 俺がそんな意味のない嘘をつくキャラじゃないことくらい、他の2人もたぶんわかってくれている。ただ事実があまりに非現実的で、信じようにもきっとそう簡単に受け入れられないのだ。無論、俺だって実際に身をもって体験するまで、そんな話聞かされても信じなかっただろう。

 さて、どう説明したものか……そう俺が考えあぐねていると、ふと輪廻の鋭い声が耳に突き刺さった。


「会わせて」

「え?」


 あまりにストレートな言葉に、俺は思わず聞き返す。


「私達もその子に会わせて。じゃないと、そんなこと信じられない」


 輪廻は大真面目な表情をしてそう言った。


「ツグの話がホントだったら私達もその子の姿が見えるんでしょ?」

「あ、ああ……多分」


 確かに皆に信じてもらうには実際に体験してもらうのが一番効果的だ。もし俺が逆の立場でも同じことを考えたかもしれない。


「決まりだね。ツグ、どうせ明日も会いに行くんでしょ?」

「ん……まあそのつもりだったけど……」


 だが、柚木に会わせていいのか? 突然他の人を連れて行って彼女は驚きはしないだろうか? しかし、そんな俺のためらいはお構いなしに、輪廻は強引に話を進めてしまう。


「コウ、オリ、二人とも明日の夜都合つけれる? 親には私とツグの名前出して適当に理由つけちゃっていいから」

「俺は問題無いけど……葉織、行けるか?」

「う、うん……リンちゃんと、って言ったらきっと大丈夫」


 千畳と降雪は若干戸惑い気味だったが、輪廻の案に賛同した。二人の返事を確認した輪廻は一つ頷くと、再び俺の方に向き直った。


「ツグ、それでいいね?」

「あ、ああ……」


 ここまで話を固められてしまったら、もう今更ノーだなんて言えないだろう。


「よしっ、じゃあ勉強再開するよ! オリ、さっきの続き。解いたところ見て」

「う、うん……!」


 話がまとまると輪廻達は再び机に向かい始めた。まだ扉のところから動けないでいる俺が近くにいた千畳に目を遣ると、彼は何も言わずただ黙って肩を竦めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ