序幕
俺が今までの生涯で会った……いや、遭った人物の中で、一番の災厄は誰かと問われれば、間違いなく『先生』を挙げるだろう。
先生は俺がかつて生意気盛りの中学生だった頃に、家庭教師をしてくれていた人で、確か本名は赤塚 彼岸と言っただろうか? どの道、俺が先生と呼ぶ人物は学校の教師を含めなければ、あの人だけなので、名前に特に意味は無いだろう。こんなことを言えば、先生は、
「いや、鈴木君。名前というのは、君が思っているよりももっと大切な物なんですよ。なにせ、親から命の次に貰うものですからね。ゴールデンプリンと肩を並べるほどの価値があります」
などと感情の篭っていない笑顔で、適当な事を答えるのだろうが。
ちなみにゴールデンプリンはコンビニで356円(税込)で売られているプリンである。超美味いが、値段もそれなりである。あので、学生である俺は週に一回、自分のご褒美に買うぐらいしか出来ないのだ。それに比べて、現在、それなりに売れっ子作家である先生はなんと、週に三回も…………と、話がかなりそれでしまった。コースアウトで、危うくクラッシュしてしまいそうだった。
ともかく、この随分わき道に逸れてしまった話で伝えたい、先生の特徴は、かなりの甘味好きということだ。何か頼みたい事があるのなら、ちょっと豪勢な菓子折りを持っていくだけで、大抵のことは引き受けてくれる。わりとちょろい人なのだ。
ただし、身内に限る、が。
なんにせよ、先生はこれから俺が語る怪異録の中で、中々重要な役割を持っていることだけは確かだ。俺が巻き込まれる事件の原因を引き連れたり、あるいは先生自体が原因であったり、あるいは取り返しの付かない何かを呼び寄せてしまったりなど。大抵の場合、先生が悪い。先生が何か不吉な物を背負って、俺を巻き込んできやがるのだ。
いくら俺が『語り部』であり、物語が記されるまで死なない体質を持っているからとはいえ、あの人から俺に対する巻き添え回数は、決して笑顔で許せるものではない。
しかし、笑顔でなくとも、俺はきっと、あの人に請われてしまえば、きっと全てを許してしまうのだろう。
怪しく、妖しい。
美麗で、非礼な。
非凡で、非行な。
愛しく、親しい。
そんな先生の頼みは、残念ながら断れない。
巻き込まれた怨みがある以上に、受けた恩もあるのだから。
「でもそれって、女が駄目な男に引っ掛かるパターンに似ているよなぁ」
と、俺の幼馴染はさりげなく先生と手を切るように進めてくるのだが、大きなお世話だ。
つか、先生と手を切るのなら、真っ先に貴様と手を切りたいと思う。
…………というか、よく考えれば、こんな事を書き連ねてしまうと、いかにも俺が先生に恋をしているように誤解されてしまうだろうが、残念。
俺は男であり、先生もれっきとした男性だ。まぁ、先生は外見的にどっちか疑う時もあるが。
……更に誤解を生まないように念入り伝えておこう、俺も先生も同性愛者ではない。なぜか、俺と先生の話をするとき、クラスメイトが濁った目で俺を見ながら、涎を垂れ流していたので、予防線として、ここにきっちりと宣言する。
さて、ここまで長々と、だらだらと書き連ねてしまったが、要するにこれから語る物語は、俺と先生が理不尽な怪異に振り回されるだけのものだと理解してくれれば、それでいい。ただそれだけの事を説明するだけに、ここまで無駄に言葉を飾り、横に逸れてしまうのが、俺の悪癖だ。
語り部としての、呪いかもしれない。
あるいは、俺が語る怪異録の中でも、この悪癖こそが、俺にとっての何よりの不思議かもしれないな。




