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プロローグ

 ゲリラ豪雨という言葉が、普通に使われるようになってしばらくなるが、その日もまさに、突然襲ってきたゲリラ豪雨に、町中大慌てで逃げ回っていた。

 という俺も、学校からの帰り、最寄駅を出てしばらくしたところで、それに巻き込まれた。

 俺の名前は、草葉くさば昇太しょうた。いま高校3年。

今日は部活がなくって、まだ日が高いうちに変えれて喜んでたんだが、お蔭でこんな目に合った。


 目もろくに開けられないほどの土砂降りで、このままこの雨の中を、20分も歩いて家までなど御免だと、家への最短コースからちょっと離れ、バイパスのガード下で雨宿りすることにした。


 あれ?


 ほとんど人通りのない郊外のバイパスのガード下、人などいるはずもないと思っていたそこには先客がいた。


 初めは俺と同じようなことを考えたんだろうと思っていたけれど、雨で薄暗くなってなかなか見えにくかったが、良く見たらその人はしゃがみこんでいた。


 ……肩で息をしている


 雨宿りというだけではなさそうだった。

俺はどうしようかと迷ったが、元々こういうシチュで、どうしても知らぬ振りが出来ない性分の俺なのだが、最近は親切するのにも、周りに色々な目で見られたり、色々と面倒でちょっと消極的になっていた。

 でも今は、上手いことに二人だけで、人の好奇の目も憚ることはない。ということで行動を開始した。


 「あの、大丈夫ですか?」

「え?」


 驚きとともにこちらに向けられた顔はすっかり泥だらけ、良く見ると服装もただ濡れているだけではなく、びりびりに敗れたボロのようだった。


 ……そ、そっか、そう言う感じの人なのか?


 向けられた少し血走った眼には、警戒心があらわに見て取れた。俺はヒヤッとして、一瞬たじろぐも、そのオジサンの姿に、何か懐かしいものを思い出した。


 そう、シローだよ。


 俺の昔の親友、って言っても犬だけど、名前はシロー。

 しばらく家出して、いなくなってた時があった。俺は今でもあの時の寂しかった気持ちを覚えている。

 でもそのシローが何週間もしてから、ちょうど今日みたいな土砂降りの時、フラッと帰って来た。

 人間と犬とを一緒のするのもなんだが、俺は何故か、子の目の前のずぶ濡れ泥まみれのオジサンから、あの時のシローを連想してしまったのだ。お蔭で急に親近感がわいた。

 それにだ、もしこの人が普通に家に暮らしていない人だとしても、一旦声をかけ期待させといて、顔見て妙な人だからと、じゃあバイバイってあまりに身勝手すぎるよ。


「あ、あの、調子悪いんですか?」

「い、いや、……大丈夫だ」


 低い思ったよりずっと響く声でそう答えながらも、その人は顔は微妙に歪め、苦しそうに眉間にしわを寄せた。


「じゃあ、ちょっと待っててください」

「なんだ?」

「タクシー連れてきます」

「タクシーって」

「で、病院行きましょ」

「お、おい!」


 正直、慌てていただけかもしれない。俺の口は勝手にそんなことを口走って、そのオジサンが何か言おうとしているのをスルーし、ガード下から飛び出していた。

 大雨の中、デカい交差点の方に走る。あそこなら、タクシー沢山走ってるのを知っていたからだ。



  

 「お客さん、どこっすか?」

「え? どこだろ」


 土砂降りの中、なかなか空車のタクシーが通りかからなかった。やっとのことで捕まえたころには、もう雨もほとんど止んでいたが、兎に角、あの苦しんでいるオッサンをどうにかしないととテンパっていたので、俺がそれに乗り込んで、夢中でここに帰ってきたのだ。

 しかし、そこにはもう人影はない。

 きょろきょろして、俺がは予め話していた「困っている人」を探すタクシーの運ちゃんに、じゃあここで下してくださいと車を止めた。

 目的は全く達せられなかったが仕様がない、なけなしの小遣いから初乗り料金を払い、俺は車を降りた。

 見ると放り出してあったはずの俺のカバンが、道のきちんと立てて置かれていた。


「なんだあ、行っちゃったのか……」


 タクシーが行ってしまった後、俺はそこに突っ立って、がっかりしたようなちょっとホッとしたような気分に浸っていた。

 もしあの人がここで待っていて、タクシーで病院に行くことになったとしても、一体俺は何が出来たんだろうか。

 病院に連れて行っても、そもそも身寄りがないとかなると、医者代とかどうしたらいいんだろう。親に払ってもらうってのもなんだし、かといって自分ではなあ。

きっと困り果てたに違いないなどと、変な話だたが、今頃になって、そんなことを考えていた。

 

 まあ、歩けるぐらいにまで良くなったんだったら、大丈夫だろうという事にして、家に向かって歩き始めた。 


「うぉ、夕焼けが綺麗だあ」


 思わず感嘆の声。


 まあ色々有ったけど、この夕焼けでチャラだな。


俺は胸いっぱいにに、雨がホコリを洗い流し、綺麗にした空気を吸い込んだ。


 しかし俺はこの時、リュックの肩ベルトの端に、小さな赤い糸が取り付けられていたこと、

 そしてその小さな糸の端切れが、俺の人生を大きく変えてしまうという事など、

 知っているはずもない……。

     

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