1話 勇者、もう戦いたくないんだってさ
初めて書いた小説です。
ゆるーく読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
「ねえニコル…。勇者様、もう戦いたくないんだってさ」
「は?」
ローズの疲れたような言葉に、思わず私は間の抜けた声を出した。
私たちは魔王討伐勇者遠征隊の後方支援兼援護班として教会から派遣された下っ端神官だ。
魔王討伐を掲げる勇者一行の助けとして…なんてご立派な理由で、ちょっとした回復魔法しか使えないのに勇者たちの旅に同行している。
今だって「隠者の森」なんて言われる魔物だらけの深い森のど真ん中の川辺で洗濯中だ。
ちょっと離れたところにある立派なテントでは「聖女ジェシカ」「賢者ルカ」「大魔導士ルル」そして「勇者アーデルハイド」が作戦会議中。のはず。
その間に野営の食事の準備だの洗濯だの、現在進行形でせっせとやっているわけである。
で…。
「もう戦いたくないって、なにそれ。もう魔王城はすぐそこじゃない。この森にだって魔王を倒すために先読みの巫女に会いに来たんでしょ?で、無事に会えて帰って来たんだよね?」
先読みの巫女。未来を覗き見る異能を持った「隠者」と呼ばれる女性。聖職者の私たちから見れば魔女と言ってもおかしくない存在だが、魔王討伐には欠かせない重要人物だ。
彼女の特殊な異能。ひと月に一人にだけ、可能性の未来を見せる事ができる能力――。
この能力により、より確実な魔王討伐ができるはずなのだ。
つい昨日勇者様がみなを代表して隠者から未来をみせてもらったはず……。
「なのになんで戦いたくないなんて話になるの?本当のことなの?」
「わからないよ。騎士団の人がテントから漏れてきた会話を聞いたって言ってたけど…。本当ならタイミング的に隠者さまの見せてくれた未来が関係してるのかもね。…あまりよくない未来だったのかな…」
ローズの洗濯ものをもみこむ手が止まった。
ぼーっと洗濯桶の水の濁った水面を見ている。
「…何か勇者様のたちお力になれればいいのに」
「…」
ローズの純粋な言葉に、私は何も返せなかった。というより「力になれれば」なんて高い志を持ち合わせていない。というか、持つ資格がないほど私は弱い。
ガタリと音がしたかと思うと、勇者たちのテントの方が少し騒がしくなってきた。
どうやら会議が終わったらしい。
うつむき加減にテントから出てきた勇者――アーデルハイドを賢者であるルカが追いかけているのが見えた。
「アーデルハイド!待ってください!まだ話は終わってません!」
勇者の肩に手かかった賢者の手を、勇者アーデルハイドはそっと、だがしっかりとした手つきではずした。
いつも冷静で歪むことのないアーデルハイドの丹精な顔が、何かを耐えるように歪んでいるのが見えた。鋭い剃刀のような瞳も、どこか曇りを感じさせた。
「…しばらく一人にしてくれ」
絞り出すようなアーデルハイドの声に、みな衝撃を受けたようだった。
いつだって彼は堂々と、動じることなく皆を率いてここまで旅してきたのだから。
どうやらローズの話してた事は本当らしい。
正直私は驚いていた。
――アーデルハイドが勇者らしからぬ行動をとるなんて、今まで聞いたことも見たこともなかったから。




