12.王都での準備①
久しぶりの投稿となりました。
よろしくお願いいたします。
アーネストの長い告白の後、ウェリントン領では大急ぎで子ども達の王都行きの準備が進められた。思い出すと誰もが半目になりそうな半月を乗り越え、一行は何とか予定通り王都へと向かった。
「アーネスト、メルヴィン、こちらはエステル・ヘイウッド。隣国から来てもらったステラ嬢の親戚の令嬢だ」
王都に着いてアーネストに早々に紹介されたのは、自分と同年代の少女だった。
「あ…アーネスト・ウェリントンだ。よろしく頼む」
「テシー・ヘイウッドです」
父親は確かに『エステル』と言ったが、『テシー』と名乗った少女が綺麗なお辞儀の後に顔を上げるとアーネストは息を呑んだ。
「…」
「ステラ・ハーロウ嬢に似ているだろう?」
アーネストは返事ができなかった。彼女の髪はステラのそれと似て黒く艷やかで、何よりその瞳は青味がかった緑色だった。長い黒い睫毛に縁取られた、ステラに似た美しい瞳。いや、少しばかり色味は薄いが、力強い輝きを放っている。
「エステル…テシーはステラ嬢の母親のアグネス様とつながりがある」
「アグネス様の…」
「親戚だなんて。本当に遠いつながりですし、私はもう貴族ですらありませんから」
「えっ?」
エステルの言葉にアーネストは驚く。
「私から説明しよう。まあ座って、お茶でも飲もう。ウォーレンとメルヴィンも呼んでくれ」
父親がメイドに合図をするとお茶が運ばれてきた頃合いでメルヴィンたちも揃った。
ヴィクターによると、テシー、いやエステルの実家はステラの母親の遠戚で隣国の北に領地を持っている伯爵家だが、男子がいないため王家から養子をとるように言われたのだという。
「まだエステル嬢も10歳だし、これから先、まだ子ができる可能性もあるのだから決定は早すぎると反論したようだが王命となれば断れなかったそうだ。
結局、防衛に長けた家だから力を削ぎたかったというのが実のところなのだろう。
領主夫妻は今代限りの爵位となり、その後エステル嬢の身分は保障されないことになったんだ」
「そんな…」
聞いていたアーネスト達はエステルのあまりの扱われように青ざめた。
自分と同じくらいの少女がいきなり身分を失う未来を突きつけられるなんて、どれだけの傷ついたか。気持ちはついてきているのかとエステルを見た。
エステルは彼らの表情に苦笑して答えた。
「皆様、私は大丈夫です。
両親も私も、王家の考えに薄々気付いておりましたので、何があっても一人でもやっていけるよう数年前から準備をしてまいりました。
今の私は、貴族と平民、どちらの立場になっても生きていけるだけの力を身につけていると自信をもって言えます。
そして、あのままあの国にいては身が危ないと亡命を考えていた時に、ウェリントン辺境伯からお話をいただいたのです」
ヴィクター以外は、淡々と話す彼女の姿に内心呆気にとられたが、規格外のアーネストに慣れていただけに、黙って聞いていた。
ヴィクターが彼女の言葉を引き取って続ける。
「エステル嬢は父親の後継を外れたことを理由に、早くから平民の暮らしに慣れたほうが良いとして貴族籍を抜け、メイドとしてこちらに来ることになった。
…と届けを出してきた。
だが、エステル嬢は隣国からの道中賊に襲われて命を落とした、ことになっている」
「「ええっっっ?」」
さすがに三人の声が揃った。
ヴィクターは言った。
「相手は思惑のある王族だ。隣国に来ても安心はできないからね。一旦は、そういうことだ。
だがエステルは今後、男爵家に養子に入る。もちろんまた貴族としての身分が必要になると考えているからだよ。隣国との状況によって名前を変える可能性はあるが、エステルをこのまま平民にするつもりはない。
ただ、今はそれは公にはせず、この後、ハーロウ家でステラ嬢付きのメイドとして働くことになっている。テシーという名で。
そしてステラ嬢が成長し様々な危険がなくなるまで、対外的な場面などでは必要に応じてエステル嬢と入れ替わってもらう。ハーロウ家とは十分に話し合って決めた」
さすがにハーロウ家にはアーネストの話を伝えて共に対策を考えてきたのだという父親の言葉を聞きながら、アーネストはエステルを見つめた。
エステルは薄っすらと貴族的な微笑みを浮かべている。貴族として十分な教育を受けてきただろうその表情からは強い感情は読み取れない。
確かに、彼女の境遇を考えればここで新たな人生を始めるのは得策なのだろう。最終的には貴族としての身分も保障される。
しかし。
「父上、私は反対です」
アーネストは言った。
「エステル嬢が納得していると言っても、それは自分の境遇を鑑みてのことでしょう?
それを利用してステラのためになるように働いてもらうのでは、ステラを利用していた者たちと何ら変わりはない。
エステル嬢を犠牲にしたステラや国の幸せは、望むべきではないと私は思います。
父上、少ないけれどもまだ時間はある。他の方法を考えましょう」
アーネストの言葉に驚いたのはお膳立てをしたヴィクターだけではない。当事者であるエステルもまた大きな目を一層見開いていた。
「エステル嬢が安全のためにこれまでの身分を捨て、この国で新たな身分を得ることには賛成です。でも、そこに、ステラの身代わりになることは本当に必要ですか?
ステラを守ることは、確かに国にとって重要です。私にとっても。
でも、そのためにエステル嬢を利用するのは間違っている」
お読みくださりどうもありがとうございます。
続きも頑張りたいと思います。お付き合いいただければありがたいです。
アーネストたちの「思い出すと誰もが半目になりそうな半月」についてはいつか書ければいいなと思っています。




