4 運命が動く、腹が立つ
音楽に興味があるかどうかと聞かれたら、あるという回答には、なる。
踏み込んだ言い方をするなら、興味が無い人はいない、というのが自分の持論だ。
鼻歌を歌ったことが無い人はいないだろう。
そうこうしているうちに、学校から進路希望を出すように言われた。
紙一枚に希望書いただけでボロクソ言われて、凹む作業。
最初から、スキマバイトしかお前無理って言えばいいのに。
将来、趣味でメシを食っていくつもりも無いし、ゲーム、釣り、音楽と、趣味で食べていける世の中とも思っていない。
今は、安全な進路なんてあるのかな?
名門大学入って辞める。
有名企業入って病んだ末に辞める。
そう思うと、高校出てすぐに就職。
スキルを身に着けて、一抜けという作戦がいいように思った。
この年で、もう老後のプランを立てる。
大学出より4年早いスタート。
可能な限り実家暮らし。
高校出たら、NISA口座を作ろう。
貯めることに集中して、ある程度の資金が出来たら、投資に切り替え。
40代でFIREを目指す。
これなら、以降は趣味を楽しみながら、暮らせそうだ。
幸い、世間は人手不足なので、就職には困らない。
卒業までは、当たり障りのない学力を維持して、あとは適当に楽しもう。
そう思うと、声高々に音楽が好きだと言うつもりはないが、なんとなく曲を作っては一人で聞いて、自己満足に浸っていた。
小さいころに流行ったヒューマンビートボックス。モノマネから入った。
やがてスマホを持ってからは、スマホのアプリでポチポチと遊び出す。
今は動画でノウハウの提供をしてくれるので、作業方法自体は少しずつ覚えていった。
作曲と言っても音を鳴らすだけなら難しくはない。
今どき鼻歌を変換するアプリなら簡単に作曲をこなす。ゲップが偶然入ってしまい、それも音源になるのは新鮮だった。
そうこうして、趣味の一つにDTMが加わる。
楽器ショップに行ったことがある。どれも、バイトでは手が出ない値段だ。
それが、画面から楽器を選んでマウスで動かして置くだけ。
基本的には、作ろうとして作ったものはだいたい仕上がりは悪く、適当にいじっていたら耳に良い曲に仕上がることがあって、むしろ偶然に出会うのが面白かった。
最初は音が重なるのが嬉しくて、いろんな楽器が鳴るのが楽しくて、重ねに重ねた。
人のマネをして、流行りだからとサビにアウフタクトを多用してみたりもした。
ところが、時間を置いて改めて聴いてみると、聴くに堪えない。
これでもかと盛ると、もうただ騒音だった。
今度は引き算で曲を仕上げた。
本格的に音楽を勉強したこともないので、楽譜は読めない。意味もわからない。
今は楽譜をスキャンすれば、楽曲演奏してくれる時代だ。
だんだんと周りの反応が見たくなり、SNSで晒してみる。
誉めてくれる人もいれば、出直せというアンチもいて、それはそれで楽しかった。
次第に動画配信にもチャレンジしてみる。
最初は閲覧数よりも、動画に慣れることを目的にした。
たった数人の閲覧数は、おそらく偶然通り掛かっただけだと思う。
が、百人を超えたときは、たぶん見たくて見ている人も中にはいるんだろうなと、嬉しく思った。
一方で、常連のアンチもコメントに住み着くようになった。
最初は無視して、なんとなく面白い楽曲が出来たら動画に上げていた。
@ぴよ太ぴよ吉
楽しかったです
@山羊温
面白い。この調子で!
@ハムスター1919
聴いたことあるな。俳句音楽。盗作ウザ
@犬好ワン
イヤなら来るな。種でも食ってろ
@ハムスター1919
よく吠えるね。小屋に帰って、ママに尻尾振ってろよ
@骨太チキン
ストレス?骨いる?
@ハムスター1919
なんだ、カネか?チキン野郎
毎回毎回、懲りもなく来るけどなんなん?
いい加減に鬱陶しくなって、ブロックしようとも思ったが、コイツの思う通りに動かされているのもシャクにさわるので、放置プレイにしておいた。
アンチコメを無視して、定期的に動画音楽を上げて半年くらい経つと、ヤツもだんだん毒が薄くなっていった。
ただの、かまってちゃんか⋯⋯メンドクサ。
ザコは無視して、わかる人達同士で楽しんでいると、またコメント入れてきやがった。
@ハムスター1919
似た者同士のキズの舐め合い民謡。
わからない人は放置。それでええんか、お前。
@骨太チキン
同じネズミでも世界的有名なミ●キーと大違いだな。
@ハムスター1919
あ? ミ●キーさんだろ。さん付けて言え。
@ミケア
牛丼の好き屋に混入してたね。ネズミ。
@J―NAS
失礼だろ。ネズミさんに謝れ
⋯⋯もう自分の動画はどうでもよくて、コメバトルを見たい人が集まるようになってきた。
@ハムスター1919
ここのBGM聴きながら、お前らと罵倒ゲーム最高
@馬よ鹿よ
お前ら様って、丁寧な言葉使いましょう。
タヒね
@ハムスター1919
こいつに成長してほしいから、嫌われ役を買ってるのに、わざわざ噛み付くお前らときたら。
本音は頭にきていた。
言われたくないことも書かれた。
一方で、薄々気付いてしまった。
喜びに来てくれる人しか、喜んでいないことに。
楽しく過ごしている人が、楽しんでいるだけ。
落ち込む人の顔を上げるような創作が出来たら、どんなにいいだろう。自信になるな。
もっともそんなこと、創作活動している人は、みんな百も承知のことだろ。
いい加減、アンチは人を怒らせる天才だから、たまらない。
よくよく考えてみれば、人を感動させるのは難しいのに、怒らせるのは簡単という、人間の感情の不思議さには、気付けた。
ある日にあげた動画で、アンチの態度が変わった。
欧州宇宙機関(ESA)は、ウィーン交響楽団で録音した音源を、2025年5月31日にセブレロス地上局から、47年間、249億キロ彼方の探査機へ送信。
クラシックの名曲『美しく青きドナウ』を、未だ旅を続ける『ボイジャー1号』へ捧げる。