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第2話 改革の第一歩(2-9:世界の一端を知る3)

 最後に、シロウは何かしらの縁によって導かれた村、アルビオン村について尋ねた。

 彼の表情は少し硬く、眉間に寄った皺は、村の現状を理解しようとする真剣さを表しており、興味と責任感が交錯しているのが見て取れた。

 そして、解決策を見つけたいという希望と決意が込められていた。


「この村についてももっと詳しく教えてくれないか?ここも物資の流れが重要な場所だろう?」


「そうね、アルビオン村は小さいけれど、北のリヴィオネ王国の鉱山地帯と、南に位置するカストリナ公国の大都市アルクレアを結ぶ交易路の要所なの。」


 レイラは少し前のめりになりながら答えた。

 その瞳には、この村の抱える課題に対する思いが感じられた。


「ここで取引された物資は、都市部へと運ばれるの。でも、村には物資を保管する倉庫がほとんどなく、商品が管理できずに腐ってしまうこともあるのよ。」


 レイラの声は次第に苛立ちからくる震えを帯び、感情を抑えようとしているようだった。

 彼女はテーブルの縁を指先でなぞりながら、瞳を伏せて一瞬考え込む仕草を見せ、目がかすかに曇り、声がわずかに低くなったのは、この問題への焦りと無力感が交錯していたからだろう。


「村の人たちは、物資の流れを効率的にする手段を持っていないから、日々の取引が滞りがちで、その度に苛立ちを募らせているの。特に、荷物が腐ったり破損したりするたびに、商人たちは頭を抱えているわ。その様子を見ると、この問題をどうにか解決しなければと感じずにはいられないの。」


「なるほど、村の課題も物資の管理にあるんですね。ここでも僕の知識が役立つかもしれない。」


 シロウは一瞬視線を伏せ、少しだけ眉をひそめた。

 内心では、この村の状況を自身の力で変えられるのかという不安と、挑戦への期待が入り混じっていた。

 (僕がここで何かを変えられるとしたら、それはこれまでの経験を活かせるかどうかにかかっている。でも、果たしてこの村の人々に受け入れられるだろうか?)


 彼はふっと息を吐き、顔を上げて軽く微笑みながらも、テーブルの縁を指先でトントンと叩く癖が思案の深さを物語っていた。

 「まずは一歩ずつだな」と心の中で自分に言い聞かせるように思った。

 その表情には、新たな挑戦への興奮と責任感が混ざり合っていた。


 レイラは微笑んで頷いた。

 

 「アルビオン村の村長、エドモンド・オルドリンはとても柔軟な人だから、シロウが提案する改善策にも興味を持つはずよ。」

 

 彼女の顔には希望の色が浮かんでいたが、その目はどこか慎重さを帯びていた。


 「でも、私の祖父のサラ・ウィンドレインみたいな古い商人は、昔ながらのやり方を好んでいて、新しい方法には少し懐疑的かもしれないわ。」


 シロウはレイラの祖父がキーパートンになる可能性があるのではないかと思い改めて尋ねた。


 「レイラさんの祖父って、どういう人なんですか?」


 レイラは一瞬驚いたように目を見開き、次いで微笑みを浮かべた。

 けれど、その笑顔の奥には少し複雑な感情が透けて見えた。

 彼女は指先でテーブルの縁をなぞりながら、少し低い声で答えた。


 「祖父のサラ・ウィンドレインは、アルビオン村でも一目置かれる商人よ。昔は村を出て、大きな都市で取引をしていたこともあったの。だからこそ、村の商売や物流に対して誰よりも経験豊富で自信を持っているの。」


 彼女はふっと息を吐き、少し間を置いて続けた。


 「でも、その分、祖父は昔ながらのやり方に固執しているところがあるの。変化を嫌がるというか、新しい方法を試すことには慎重なのよね。」


 彼女の声には、どこか諦めと、それでも変わってほしいという希望が混じっていた。


 シロウはレイラの話を聞きながら、小さく頷いた。

 (経験豊富な人だからこそ、成功体験が豊富で新しい提案には抵抗があるのかもしれない。でも、きっと彼が納得できる方法を探せば、協力してくれるはずだ。)

 彼はレイラを安心させるように、優しい声で答えた。


「なるほど、そういう方なんだね。経験豊富な人の意見を尊重しつつ、少しずつ新しい提案を受け入れてもらえるように工夫してみるよ。」


 その言葉に、レイラは少しだけ肩の力を抜き、再び微笑んだ。

 「ありがとう、シロウさん。祖父も、きっとあなたの真剣さを感じ取れば考えを変えると思うわ。」


 彼女のその言葉には、シロウへの期待と、祖父への信頼が入り混じっていた。

 二人の会話は、村に新たな風を吹き込むための重要な一歩となりつつあった。


 「伝統と新しいシステムの対立か……。でも、それを乗り越えれば、この村でも物資の流れを効率化できそうだな。」


 シロウは視線をテーブルに落とし、低く呟いた。

 その目には一瞬迷いの色が浮かんでいたが、すぐに眉を軽く寄せ、決意を秘めた鋭い眼差しへと変わった。

 (果たして僕がこの対立を解消する鍵になれるのだろうか?)

 彼は心の中で自問しながらも、自分に与えられた役割を受け止め、無意識に拳を軽く握り締め、深呼吸をしてから、静かに顔を上げた。

 その表情には、挑戦を前にした不安と、それを乗り越えようとする強い意志が共存していた。

 彼の瞳には、新たな挑戦への情熱が燃え始めていた。


 レイラはその言葉に勇気づけられたように微笑み、シロウの表情をじっと見つめた。

 

 「シロウさんならできる気がするわ。」

 

 その声には、シロウへの信頼と期待が込められていた。


 話がひと段落したのでシロウは、今まで疑問い思っていたことを質問してみた。


 「それにしても、レイラさんとこうして普通に会話ができているのが不思議なんですが。」


 彼の声には驚きと少しの疑問が混じっていた。

 その言葉を受けて、レイラは目を丸くし、一瞬考えるように眉を寄せた。


 「どういう意味かしら?」


 シロウは少し照れくさそうに笑いながら、続けた。


 「いや、僕はこの世界に来たばかりで、言葉が通じること自体が驚きで。おかげでこうして話せているけど、どうしてなんだろうと思って。」


 レイラは少し困ったように微笑み、シロウを見ながら、


 「それは……私にも正直、理由は分からないわ。でも、言葉が通じるのはきっと、この世界に満ちている魔力のおかげかもしれなわ。それともシロウさんがこの村で何かを成すべき人だからなんじゃないかしら。」


 彼女の声には少しの戸惑いと同時に、シロウへの信頼が込められていた。


 シロウはその言葉に一瞬言葉を詰まらせ、目線を炎へ落とした。彼の中で、言葉が通じる理由を考えるよりも、自分に与えられた使命を全うしなければという思いが強くなっていくのを感じた。


 「そうか……そうだとしたら、僕にできる限りのことをするしかないな。」


 シロウの声には、新たな決意が込められていた。

 それと同時に魔法というキーワードが気になって質問をした。


 「この世界には魔法ってあるのかい?」


 レイラは驚いたように一瞬目を見開いたが、すぐに微笑みながら少し考える仕草を見せた。


 「ええ、もちろん魔法は存在するわ。この世界では、魔法は生活の一部になっているもの。でも、誰もが使えるわけではないのよ。」


 「そうなのか。じゃあ、魔法を使うには何か特別な才能が必要なのか?」

 

 シロウは顔を少し上げ、レイラを見つめた。

 その目には期待と興味が入り混じっていた。


 「才能も必要だけれど、魔力と呼ばれるエネルギーが体内で生み出し、蓄えることが出来るかが一番大事なの。魔力を持つ人は訓練を積めば魔法を使えるようになるけど、その力の使い方には限界があるわ。無理をすると体に大きな負担がかかるの。」


 「なるほど……。」

 

 シロウは少し驚きつつも、納得したように頷いた。


 「じゃあ、レイラさんは魔法を使えるのか?」


 その質問に、レイラは少し困ったように笑みを浮かべ、肩をすくめた。


 「私は、使えないわ。でも、村には高度な魔法を使える人もいるの。」


 「へえ……。」

 とシロウはその答えに感心しながら、さらに質問を重ねた。


 「その魔法って、物流とかにも役立てられるのかな?」


 レイラは少し真剣な表情になり、目を伏せて考え込んだ。


 「それも可能だと思うわ。でも、物流の問題は魔法だけでは解決できないの。魔法には限界があるし、根本的には人の手と工夫が必要になるわね。」


 シロウはその言葉に深く頷きながら、思案を巡らした。

 

「魔法はこの世界の一つの要素に過ぎないんですね。それなら、僕の知識と経験もきっとこの村の役に立つはずですね。」

 

 彼の胸には、さらなる挑戦への意欲が湧き上がっていた。


 レイラはその様子を見て、少し安心したように微笑み、


 「シロウさんなら、きっと大丈夫よ。」

 

 と声をかけた。

 

 シロウは、エルディア全体の政治・経済構造や、各国が抱える問題について深く理解し始めた。

 そして、この世界で物資の管理や流れを改善することで、国々や村々の安定と発展に貢献できる可能性を強く感じた。

 彼は、レイラの話を聞きながら、自分の使命が少しずつ明確になっていくのを感じた。

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