053:浮遊精霊ディーネ1
ディーネと名付けた瞬間、僕とディーネの間に魔力の繋がりのような物を感じた。
フワフワと漂っていた浮遊精霊は僕に近ずくと、スッと消えてしまった。
僕にはそれが消滅したのではない事が分かっていたので「ディーネ!」と、あらためて精霊召喚を行った。
姿を現したのは、さっきまでいた妖魔の姿を残してはいたが、肌の色が褐色になり、水色の服を着ている。大きさも一回りくらい小さくなってしまっている。
そこに立っていると、初めて見た時の様な、真っ黒で見る者に不吉な印象を抱かせた雰囲気は鳴りを潜めており、健康的な良く日に焼けた子供にしか見えなかった。
「水の属精霊にしては、妙に色黒ね」シルフィーがディーネの周りをクルクル回りだした。
「弓が得意なのよね? 使って見せてくれる?」シルフィーが聞くとディーネはコクりと頷き、弓を呼び出した。
ディーネが呼び出した弓は真っ黒なショートボウだった。
それを見たシルフィーは、「肌の色といい、使う武器まで真っ黒なんてね……どうやら精霊樹を急成長させたから、浄化しきれなかった魔素がそのままディーネの元に戻ってしまったようね」
僕が少し心配して見ていると、ディーネは青い矢のような物を番えた。
「スプラッシュアロー!」ルナが驚いたように呟いた。
「ルナ、あの青い矢の事を知っているの?」僕にはあの矢が何なのか見当もつかなかったのだ。
「はい、私が水の属性に強い適正があると知った父が、水の初級魔法を幾つか覚えさせてくれたんです……私は覚えられたんですが、まだ使う事が出来ない魔法なんです」
どうやら魔法というのは属性適正があれば無条件に使える訳ではないらしい。何らかの能力が不足しているのかもしれない。
「初級魔法といってもそれぞれ難度に差があるからね。高度な魔法を使える能力を手にいれる為だけに、探索者を雇ってダンジョンで魔素吸収を行う、学者や貴族階級なんてのもいるわよ」シルフィーが補足説明をしてくれた。
(今のままだと、ルナもキャロも折角得た力を活かせないな……育成についても、何れ考えないといけないかな)
猪鹿亭には以前、エルフィーデ女王国のエルフが滞在していた事があるらしく、庭にはそのエルフ達の訓練用の的が、そのまま残っている。
ディーネはその的に向けてショートボウを構え発射した。
「パシュ」と軽い音がして青い矢が的に命中し、的に当たった矢は、当たると同時に只の水に戻ったようだ。
「普通のスプラッシュアローよりも射程は長いみたいだけど、弓での溜めが必要な分、速射性は劣るわね」
シルフィーの評価に、僕も概ね同意だった。接近してくる敵には普通の魔法が有効かもしれない。
しかし、僕の狩りでの用途を考えれば、狙撃用としてとても有効に思えた。
(僕はまた一体、頼もしい仲間を得たのかもしれない)
僕は、ディーネを見ながら、そう考えたのだった。




