021:三人の元ウサギ狩人達1
猪鹿亭の入口に立つと普段とは違って食堂に多くの人が居るようだった。夕飯の時間帯だけ食堂として開けているらしい。
昨晩は疲れて早くに眠ってしまったのでお客がいる様子を見る事がなかったのだ。
(……思ってたより多い……獲物をさげて入るのは迷惑だよな)
僕がどうしようかと入口で突っ立っていると、トタトタと音がして僕に気がついたラナさんが、近づいてきた。
「あら、おかえりなさい……随分汚れたわね、そのままだと気持ち悪いでしょう」
そう言って浄化の魔法をかけてくれた。
「お土産ね、主人に処理して貰うわね……今日は無理だから明日の夕飯にしましょう」
僕から素早く獲物を受けとると一緒に浄化されてふんわり毛皮になり綺麗になったレッサーラビットを持って前を歩いて行く、すっかりラナさんのペースだったが、説明が省けてよかったので黙ってついていった。
(獲物の処理までして貰えるなんて、場所借りられるか心配だったけど……それにラナさん見かけより力あるんですね……)
その時、食堂の四人掛けのテーブルでエール酒らしきものをジョッキで飲みながら、煮込みスープを食べていた老人の一人が
「ラナちゃん、明日はウサギの煮込みかね?」と三人いる老人の中でも白髪で品のよさそうな老人が、ラナさんに声をかけてきた。
「カーッ! いいね! ボア肉の煮込みも悪かねえが、年取ると油が胃に堪えるぜ!」
となりの髭を綺麗に撫で揃えた丸坊主の老人が胃の辺りを押さえながら言う。
「何に言ってやがる、テメエのそれは酒の飲み過ぎだろ? 煮込みのせいにしてんじゃねえよ!」
こちらは髭も頭もボサボサの赤ら顔の老人で酔っぱらいだった。
三人のやり取りを少し困った顔で聞いていたラナさんが
「これユーリちゃんのお土産だからどうしようかしら? 一匹でもかなりの量だから、うちが一日で使う煮込みには十分なんだけど……」
ラナさんを困らせる事になっては申し訳ないので、
「お土産ですから好きにして頂いてかまいません、初めての獲物なので食べてみようかと思っただけですから」
僕がラナさんに言うのを聞いていた、白髪の老人が
「ほう、そのレッサーラビットは坊主が一人で狩ったのか?」と尋ねてきた。僕が返事する前に…….
丸坊主の老人が驚いたように合いの手を入れた。どうやら合いの手、担当らしい……
「なに! 坊主みたいなひょろっこいのが、やったってのかよ!なかなかやるじゃねえか! 俺の若い頃を見ているようだぜ!」
そして突っ込み担当らしい酔っぱらい老人が……
「何に言ってやがる、テメエの面のどこを見りゃあ坊主の面に似たところが見つかるってんだよ! このハゲッ!」
酔っぱらい老人は、さらに一言つけたした
「だがよくやった! 今日、新たなウサギ狩りが誕生した……今夜は飲むぞ乾杯!」
「そうだな乾杯!」白髪老人が、「記念すべき日だぜ! 乾杯!」丸坊主の老人が……みんな只の酔っぱらいだったのだ……
「坊主もボーッと突っ立ってんじゃねえ! そこの空いてる席に座りやがれ! 狩りの話きかせろ、さあ座れ!」
僕は無理やり席に着かされた、僕の長い一日はまだ終わらないようだった……




