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第二話 個性的な家族がいたよ、はい

「はちみつ味と恋の香り」

 前世の私がどハマりした乙女ゲームのタイトル。


 舞台は、レティリーヤという名の王国。主人公兼ヒロインのフレアが、王立学園で攻略対象とあれやこれやする恋愛ゲーム。一見すると定番の内容なんだけど、少し面白いことがあって。二股……じゃなくて、途中で乗り替えることもできる。ま、殆どの人はやらないけど。


 設定もなかなか。魔法がメインなんだけど、ドラゴンもいることに驚き。なんならドラゴン使いという職業もある。


 あと、もう一つ驚いたことがある。それはタイトルの「はちみつ」の意味。全クリした身で言うと、はちみつ要素なんてなかった。もしかしたら、裏設定になんかあるのかもしれないけど。一応、背景まで隅々まで見たつもりなのにな……と多分、当時の私は考えたんだと思う。


 はっきりと言おう。理由は、主人公兼ヒロインのフレアの好物がはちみつだからだ。


 SNSで知った。製作者さんの投稿を見ていたら、ちょーびっくり。そんな単純だったのね……。確かに、最初の主人公紹介にあったわ。見落としていたことに愕然。タイトルの考察民からは、賛否両論だったけどね。


 それよりも、私の推しはフレアだ。前世の記憶は殆どないけど、このゲームの内容なら一から百以上まで覚えている自信がある。だからこそ!


「フレアに会いたいなーと願うばかりです」

「ネリー、どうしたのですか?急に」

「なんでもありませんわ、お姉様!」


 あ……。心の中で言ったつもりだったのに。感情が余って漏れてしまったみたい。オーノー!

 心の声が漏れるのは少し恥ずかしいなぁ。

 今朝までは他人だった人に聞かれるのは尚更です。


 ……はい。今、私は朝食を家族と共にとっています。


 




 時計の長針を遡ること、約十五分前。

 

 ミヤが狐さんのような悲鳴を上げた。


『——って、もう9時ィ⁈朝食のお時間が迫っています、お嬢様!』

 

 え、そうなの?ごめん、私には朝食の時間というものはわからないな……。


『最後の確認をいたしますね!お嬢様、服良し。お嬢様、髪良し。お嬢様、可愛い。……すみません、省略しますね!』


 慌てた様子でミヤは指を一つ一つ曲げる。

 なんだ、なんだ。どういう確認なんだ。本当にネリーはミヤに何をしたの?なんにもしていない、とか言わないでほしいんだけど。

 それとも普通にミヤが個性的なのかな。……後者の可能性が浮上してきたぞ。


『悪羅悪羅‼︎さあ、行きましょう!」

 

 オラオラ?え、引くよ、コレは。言葉で会話をしているから漢字はわからない。けど、なんとなく……。てか、この世界に漢字なんてあったけ。


 拳を前に出したミヤは、私の方に振り返る。そして、私の手を取る。抵抗も虚しく、です。


 かくして、私とミヤは猛突進でダイニングルームに向かったのである。

 ほぼ、私はミヤに引っ張られて足が浮いていたよ。





 で、今に至る。すごいよ、ここ。豪華すぎる。なにあのシャンデリア。高級ホテル並に大きいじゃない。本当に男爵家?それとも男爵家でもコレがフツーなの?


 ……金持ちアピールとか……あったり?なかったり?


 理由はどうあれ。異世界の食事を楽しみたい。だから、お願いです。


「……お姉様、黙ってもらってもいいですか?」


 怒りですよ、これは。殴ってもいい?……殴っても大したダメージはなさそうだな。うん、悲しい。

 ほんと、やめてほしい。


「そのナルシスト発言をーーーーー!!!」


 発言をおおおぉぉぉぉおおおお!!!


 おっと。心の中でも叫んでしまった。


 ミヤ、私に双子の姉がいることぐらい、教えてくれたっていいじゃない!

 なんで、今朝、ミリアント男爵家の歴史を語ったんだよ!他に語るべきこと、が、ある、じゃん?ね?


 へへ、息が切れたよ。……へへ、じゃないね。落ち着こう、うん。


 双子の姉であるリアム・ミリアントはキョトンとしている。うんうん。「ナルシスト」という意味がわからないだよね。


 ふぅ。この場に両親がいないことに最初、驚いたけど、今はいなくてよかったと思える。私の叫びが耳に入らなくて。……メイド達は、ギリかな。両親だけには、変な娘とか絶対に思われたくない!まだ、会ったことはないけどね。


 誠実な願いです。


「ふふ、あはは。このスープ、美味しいですね。お姉様」

「そのスープよりわたくしのほうが美味しくてよ?ま、世界がわたくしを中心に動いているから当たり前でしょうけど」


 お姉様は、自慢げに手を口に添える。……意味わからん。


「それよりネリー。わたくし、髪切ったのよ!」


 ……へえー。そうなんだー。


「ど、どのくらい、ですの……?」

 

 なんか、感じる。この、その……。


「零点九㎜!」


 デジャブゥウウウ‼︎


 ゴーンと鈍い音が、鳴ったような。テーブルと私の額が被害者です。全部、あのデジャブが悪いんです、はい。

 お姉様は、あらら、という顔をしないで!なんか、さ。痛そうとか思ってほしかった!泣いちゃう。

 ああ。推しに会えるまで、生きていけるのかな。

 

 


 

 しょぼしょぼだけど、朝ご飯を食べてきた。リアムお姉様のせいで、私、味がわからなかった。ぐすん。


 ……ん。今思うと、顔が似ていたな。……このゲームの悪役令嬢とお姉様が。けど、髪の色は違うし。それに身分だって、雲泥の差。


 ええ……偶然だね、きっと。


 大好きなヒロインに会う前に、沢山の人に会いそう。ネリーの知り合いとか友人とかもいつか。その時は、私もネリーとして接したいな。

 

 ふふん。ゲームのおかけでフレアの住所は特定していますから。頑張ればいつでも会える!……頑張れば、の話だけど。


「では、お嬢様。そろそろお勉強の時間ですね」

「む!」


 勉強。ああ、頭が痛くなるやつね。


「今日は、リーリナ先生が急用でいらっしゃらないので、私が代わりにいたします」


 先生?つくづく思うんだけど、ミリアント男爵家は裕福ですなぁ。私の想像する男爵家ではなかったよ。

 言っちゃいけないね。貧乏のイメージだった、なんて。それともコレが当たり前なのかな。


 転生特典で、天才的才能とかないのかなー。……きっと、ないわ。

 前世の知識の代わりにゲームの知識があっても……勉強面で、役に立つ見込みはなし。そして、十歳でしょ?勉強も結構進んでいるハズ……。


 そうだ。私は十歳。


「王立学園の入学まであと、ニ年。しっかりと学びましょうね、お嬢様!」


「はちみつ味と恋の香り」の舞台である王立学園。入学まであと、少し。それまでにフレアにもし会うことになったら。


 シナリオが変わる?


 ゲームの内容が唯一の知識。もし変わることがあったら。私ができることが限られる可能性もありそう。


 惜しいけど。ヒロインが転入してくるまで待つしかないのかな……。


 勉強の内容が耳に入っても、すぐに抜けてしまう私は。

 唇を噛み締めることしか出来なかった。


 呆然とした私を見て、ミヤは慌てて講座を変えたけど。

 ミリアント男爵家の歴史なんていらないよ!今朝のアレで十分です。


 せめて、王家とかで……お願いしますぅ。


 

 後々になって考えてみたら。

 モブ令嬢に転生した身としては、自分がヒロインに会っても何かしらの影響を与えるかは見当があまりつかない。


 だからこそ。私が言った言葉がシナリオを大きく変えたら凄いことだよね。

 あと、ヒロインの好きなものが変わっていたら驚くことしかできないよね?


 私は、モブ令嬢に転生したからこそ、大好きなヒロインを応援したい。ヒロインであるフレアのリアルファン第1号になりたい。


 シナリオが変わらないように、そっと関われるなら。最高の推し活だと思います。

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