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アタシ(私)はひまわり(月)~反省会 特務隊の筋トレ部屋~  作者: 南馬一六三


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2/2

第二回 反省会

 特務隊詰所――トレーニングルーム。

 本日も鉄と汗と筋肉が支配する、極めて健全な職場である。


 バーベルがラックへ叩きつけられる金属音。

 限界まで追い込まれた隊員たちの野太いうめき声。

 汗と湿気と情気が混ざり合い、空気そのものに重量がある。

 爽やかさなど、一片たりとも存在しない。


 そんなトレーニングルームの片隅。


 個別指導や身体測定などに使われるミーティングルームでは、前回に引き続き、極めて不健全な会合が開かれようとしていた。

 ホワイトボードには、大きく一行。


【第十茶番 特務隊、出る】


 その前に立つのは、ユウカ・ツクヨミ。

 椅子に腰掛け、静かにコーヒーを飲んでいるのは、スバル・ホシ。

 そして。

 なぜ呼ばれたのかも分からぬまま、既に楽しそうなのが神道ゆかり。


「ゲハハハハハ!」


 まだ何も始まっていない。

 被告人席。

 もとい、床。

 ヒロ・アシハラは正座していた。


「陽主様ぁ」

「なんだ」

「少々、お話があります」

「嫌だ」

「まだ何も言っておりませんよ?」

「前回で学習した」


 人間には学習能力がある。

 素晴らしいことである。

 反省会から逃げられるかどうかは、また別の話だが。


「俺はトレーニングに戻る」

「お座り下さい」

「もう座ってるだろ」

「ゲハハハハハ!」


 だからまだ何も始まっていない。

 ホシは騒音など存在しないかのようにコーヒーを一口含み、静かにカップを置いた。


「俺も妹と同じ疑問がある」

「スバル、お前までなんだよ」

「貴様の答弁を聞こう」

「答弁?」


 もはや裁判である。


「ちょっと待て。カヨナはどうした」

「カヨナさんは第十一茶番から登場します」

「…………」

「ですので、この反省会には参加致しません」

「呼んでこい」

「却下します」

「なんでだ!」

「未登場ですから」

「ゲハハハハハ! ヒロ! 弁護人欠席じゃねぇか!」

「くっ……多勢に無勢」


 なお。

 被告人には黙秘権も、弁護人を選任する権利もない。

 反省会だからである。


「では、陽主様ぁ」

 ユウカがホワイトボードを指した。

「第十茶番について確認いたします」

「おう」

「なぜ刀を鞘に納めたのでしょうか?」

「…………」

「貴様は昔から、ここぞという時に刀を仕舞う」

「ゲハハハハハ! 脳筋肉ォ!」


「殴った方が強いからだ。何か問題でもあるのか?」

「…………」

「…………」


 ある。

 たくさんある。


 だが、本人があまりにも堂々としているため、一瞬こちらが間違っているような気分になる。

 脳筋とは恐ろしい。


「なるほど?」

 ユウカはこめかみに指を添えた。

「陽主様なら確かにそうかもしれません」

「だろ?」

「褒めておりません」

「そうか」

「ですが、感情素子回路の問題が解決しておりません」

 ユウカの指先が、ホワイトボードを軽く叩く。

「拳では理論上、堕転者を浄化することは不可能です」


「それは机の上で計算した結果だろう?」

「はい?」

「ユウカの言葉を借りるなら、現に実証しただろう?」

 ヒロは自分の拳を握った。


「俺が拳で堕転者を浄化した」

「…………」

「…………」

「ゲハハハハハ!」


 理論上、不可能。

 実証上、可能。


 科学というものは、時として非常に残酷である。

 特に、積み上げた計算式を筋肉一本で殴り壊された研究者に対して。


「……陽主様」

「なんだ」

「それを調べるために、貴方の身体を解剖しても宜しいでしょうか?」

「なんでそうなる」

「ご安心ください。麻酔はいたします」

「安心できる要素が麻酔しかねぇ!」

「うふふ」


 ユウカは口元に指を添えた。


「なお、解剖時は一糸纏わぬ姿でお越し下さいませ」

「じゃあ、ユウカも一糸纏わぬすが――ががっ……!」


 ヒロが瞬きをした、その一瞬。

 ホシの愛刀、数珠丸恒次の鞘が口の中へ滑り込んでいた。

 速い。

 抜刀ではない。

 納鞘でもない。

 兄である。


「貴様。俺の妹をそんな目で見ているのか?」

「ひがう!! うひほほはにはいほほあだ!!」

「売り言葉に買い言葉か」

「ゲハハハハハ! よく通訳できたなァ? 腐れ縁!」

「腐りきってる縁だがな」


 長い付き合いとは恐ろしい。

 もはや言語すら必要ない。

 ユウカはそんな二人を気にする様子もなく、壁に立てかけられた全身鏡の前へ移動した。

 そして。

 鏡に映る自分の姿を一度だけ確認する。


「私は構いませんが」


「なっ!?」

 ホシが立った。

「待て! それ以上は話がややこしくなる!」

 ヒロも立った。

「ひまわりと太陽の話ではなくなってしまうだろ!」


 止めた。

 本人が始めた話を、本人が全力で止めた。

 そして先ほどまでヒロの発言に殺意を向けていた兄も、妹の発言によって混乱している。


 誰が敵で。

 誰が味方なのか。

 私にも、もう分からない。


「うふふ。冗談です」

「…………」

「…………」

「たぶん」

「ユウカ!」

「ゲハハハハハハハ!」


 反省会は続く。

 どうして続いているのかは、誰にも分からない。


「とにかく」

 ユウカが何事もなかったかのようにホワイトボードへ戻った。

 強い女である。

「なぜ陽主様だけが、感情素子回路なしで堕転者を浄化できるのか――」

 ペン先が、ヒロの名を丸で囲む。

「現時点では、謎のままです」


「ふむ。俺もよく分かっていない」

「陽主様ご本人にも分からない、と」

「ああ」


 ヒロは腕を組んだ。

 考えた。

 それはもう、彼なりに一生懸命考えた。

 やがて。

 何かを思い出したように顔を上げる。


「敢えて言うなら――」

「はい」

「デウス・エクス・マキナ発動だ」

「…………」

「…………」

 ホシがコーヒーを置いた。


「覚えたふりをするな」


 一刀両断である。


「うふふ。陽主様」

「なんだ」

「昨日、SNSで覚えた言葉を、得意げに使わないで下さい」

「なぜ知っている」

「デウス・エクス・マキナとは、本来そのような意味では――」


「デウス・エクス・マキナァァァァ!!」

 ヒロは拳を天高く突き上げた。


「必殺技でもありません」


「ゲハハハハハ! いいじゃねぇか! なんか強そうだぞ!」

「だろ?」

「デウス・エクス・マキナァァァァ!!」

「おお! ゆかり、分かってるじゃねぇか!」

「ゲハハハハハ!」


 二人は拳を合わせた。

 新しい必殺技が誕生した。


 なお。

 新しく覚えた言葉は、使ってみたくなるものである。

 神の声にも、その気持ちだけはよく分かる。

 意味まで理解してから使っていただきたいものだが。


「それで、陽主様」

「なんだ?」

「まだまだあります」

「まだあるのか……?」

 ユウカはホワイトボードをめくった。

 次の議題が現れる。


【筋トレBig3対決】


「なぜ、Big3対決なのでしょうか?」

「…………」

「こちらについては――」


 ユウカは、にこりと微笑んだ。


「カヨナさんもお呼びしましょう」

「助かったー!!」


 心の底からの声だった。

 これまで存在すら許されなかった弁護人が、ついに法廷へやって来る。

 もっとも。


「はぁ……」

 ホシはコーヒーカップを片手に、小さく息を吐いた。

「問題が増えるだけだ」


「ゲハハハハハ! もーっとおもしれぇことになりそうだなァ!」


 ヒロだけが希望に満ちた顔をしている。


 かわいそうに。

 まだ分かっていない。

 マイナスにマイナスを足しても、負が積み重なるだけである。


 次回。

 第三回 反省会。

 議題――。


【なぜ、筋トレBig3対決なのか】


 そして、ようやく。

 カヨナ・ワダツミ。

 反省会、参加。


 私ですか?

 もちろん『無給』で参加します。

 地の文ですので、逃げられません。

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