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私だけの色が咲くまで  作者: 月光
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私だけの虹

第5話

私の言葉で、私を終わらせない


世界が、一瞬で遠くなった。


美月のスマホには、私の鍵アカの投稿が映っていた。


誰かがスクショして、勝手に広げていた。


そこに書かれていたのは、私が何年もかけて吐き出してきた本音だった。


「恋バナに合わせて笑うのがつらい」

「好きな人の話を聞かれるたびに、自分が嘘になる」

「親友にだけは、嫌われたくない」


それは、誰かに見せるための言葉じゃなかった。


私が一人で息をするために置いていた言葉だった。


なのに、知らない人たちのコメントがついていた。


「これ誰?」

「もしかして紗奈?」

「普通にしてたのに意外」

「葉月ってあの葉月?」


手が震えた。


息が浅くなる。


美月がすぐにスマホを伏せた。


「見なくていい」


でも、もう遅かった。


見てしまった。


私の一番見られたくなかった部分が、私の知らないところで話題になっていた。


私は声が出なかった。


怖い。

恥ずかしい。

消えたい。


そう思った瞬間、美月が私の手を握った。


「紗奈、こっち見て」


私は顔を上げた。


美月は泣きそうな顔をしていた。


でも、目は逸らさなかった。


「これ、紗奈が悪いんじゃない」


私は首を振った。


「でも、私があんな投稿してたから」


「違う」


美月の声が少し強くなった。


「勝手に見つけて、勝手に晒した人が悪い。紗奈が本音を書く場所を持ってたことは、悪いことじゃない」


その言葉に、涙が出た。


私はずっと、何かあるたびに自分のせいにしてきた。


言えない私が悪い。

隠してる私が悪い。

普通にできない私が悪い。


でも美月は、初めてはっきり否定してくれた。


「紗奈」


美月は、ゆっくり言った。


「言いたくなかったら、何も言わなくていい。消して逃げてもいい。私が一緒にいる」


その優しさに、胸が痛くなった。


逃げてもいい。


その言葉を聞いた瞬間、私は初めて、逃げたくないと思った。


私はスマホを開いた。


通知はまだ増えていた。


葉月からDMが来ていた。


「大丈夫?」

「今、誰か一緒にいる?」


私は返信した。


「美月がいる」


すぐに返事が来た。


「よかった」

「紗奈、一人で抱えないで」


その言葉で、私は深く息を吸った。


そして、美月に言った。


「私、自分の言葉で言いたい」


美月は少し驚いた顔をした。


「今?」


私は頷いた。


怖くないわけじゃない。


でも、誰かに勝手に決められたまま終わりたくなかった。


私は新しい動画を作った。


顔は映さなかった。


映したのは、机の上に置いた古いカイロケース。


高校二年の冬、葉月に渡したカイロのケース。

あの頃の私が、何も言えないまま握りしめていたもの。


テロップを入れた。


「勝手にアカウントを晒されました」


次のテロップ。


「でも、そこに書いていた気持ちは嘘じゃありません」


指が震える。


美月が隣で黙って頷いてくれた。


私は続けた。


「私は、女の子を好きになります」


その文字を打った瞬間、涙がこぼれた。


でも、消さなかった。


最後に、自分の声を入れた。


「言えなかったのは、嘘をつきたかったからじゃありません。ただ、大切な人を失うのが怖かったからです」


少し間を置いて、続けた。


「でも今日、親友が言ってくれました。私が悪いんじゃないって」


私は息を吸った。


「だから私も、昔の私に言ってあげたいです。好きになっただけで、自分を責めなくていいよって」


投稿ボタンを押した。


指は震えていた。


でも、不思議と後悔はなかった。


数分後、通知が鳴り始めた。


最初は怖くて見られなかった。


でも、美月が隣で言った。


「一緒に見る?」


私は頷いた。


コメント欄には、思っていたよりもずっと優しい言葉が並んでいた。


「晒した人が悪い」

「言ってくれてありがとう」

「私もまだ誰にも言えてない」

「自分のタイミングでいいって思えた」

「この動画に救われた人、絶対いる」


その中に、葉月のコメントがあった。


「あの頃の私にも、今のあなたの言葉を聞かせたかった」


私は泣いた。


悲しい涙じゃなかった。


やっと、自分のままでいていいと思えた涙だった。


次の日、美月が私の動画をシェアしてくれた。


コメントは一言だけ。


「私の親友は、昔からずっと最高です」


その投稿を見た瞬間、また泣いた。


全部の人に言えるわけじゃない。

家族に話すのは、もう少し先かもしれない。

怖さが全部なくなったわけでもない。


でも、私はもう、自分のことを隠しているだけの人間じゃない。


ちゃんと自分のタイミングで、自分の言葉を選べる人間だ。


6月の街は、今日も少し虹色だった。


前はその色を見るたびに、胸が苦しかった。


みんなが堂々としているように見えて、自分だけ置いていかれている気がした。


でも今は違う。


虹色は、私に「早く言いなよ」と急かしているんじゃない。


「言える日まで、ここにいるよ」と待ってくれている気がした。


私は美月にLINEを送った。


「来年の6月、一緒にプライドイベント行ってみたい」


すぐに返事が来た。


「来年じゃなくて、今年行こ」


私は笑った。


まだ怖い。


でも、楽しみの方が少しだけ大きい。


だから私は、初めて自分からこう返した。


「うん。行きたい」


その瞬間、私の世界に、やっと私だけの虹がかかった気がした。

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