スマホ通知
親友にだけは、知られたくなかった
「葉月って、誰?」
美月の言葉に、私は一瞬で逃げたくなった。
何を見たの。
どこまで知ってるの。
いつから気づいてたの。
頭の中で、質問だけが増えていく。
美月は、私の向かいに座った。
いつものカフェ。
いつもの席。
いつもの美月。
でも、私はいつもの私ではいられなかった。
「ごめん。勝手に見ようとしたわけじゃない」
美月はスマホを伏せた。
「昨日の動画、紗奈が嫌そうだったから。消そうと思って確認してたら、コメントからそのアカウントに飛んじゃって」
私は何も言えなかった。
責めたい気持ちもあった。
でも、それ以上に怖かった。
美月に知られたかもしれない。
私がずっと、隠してきたこと。
「DMを見たわけじゃない。でも、投稿は少し見えた」
美月の声は慎重だった。
「紗奈がずっと、誰にも言えないことを書いてたんだって思った」
私はテーブルの下で手を握った。
言い訳しなきゃ。
違うって言わなきゃ。
ただの裏アカだって笑わなきゃ。
そう思うのに、声が出なかった。
美月は続けた。
「高校の時から、なんとなく分かってた」
私は息を止めた。
「紗奈が恋バナになると、いつも少しだけ遠くを見ること」
胸の奥が、ぎゅっと痛くなった。
「男の人の話になると、合わせて笑ってるのに、全然そこにいない感じがしてた」
美月は、知らないふりをしていたんじゃない。
ちゃんと見ていた。
でも、踏み込まなかった。
「私、聞いていいのか分からなかった。こっちから聞いたら、紗奈を追い詰める気がして」
その言葉で、目の奥が熱くなった。
美月は、待っていてくれたんだ。
私が、自分のタイミングで話せる日を。
「だから、ごめん。昨日、結果的に見ちゃったことは本当にごめん」
美月は頭を下げた。
「でも、これだけは言わせて」
美月はまっすぐ私を見た。
「紗奈がどんな話をしても、私は紗奈の味方でいたい」
その瞬間、涙が溢れた。
私はずっと、言ったら何かを失うと思っていた。
親友も。
普通に笑える時間も。
今までの私も。
でも本当は、言えないままの方が、少しずつ自分を失っていたのかもしれない。
言うなら今だ。
でも、声が出ない。
何年も隠してきた言葉は、喉の奥で固まっていた。
私はバッグの中でスマホを握った。
画面には、葉月からのDMが来ていた。
「無理に誰かへ言わなくていいよ」
「でも紗奈が自分のことを責めてるなら、それだけは違うと思う」
その一文を見た瞬間、何かが崩れた。
私は、責めていた。
ずっと自分を責めていた。
普通に話せないこと。
恋バナで嘘をつくこと。
親友に本当のことを言えないこと。
全部、私が悪いみたいに思っていた。
でも、本当に悪いことだった?
誰かを傷つけたわけじゃない。
誰かを裏切ったわけでもない。
ただ、好きになっただけ。
ただ、それを言うのが怖かっただけ。
私は震える声で言った。
「美月」
美月が私を見る。
私は、唇を開いた。
でもその瞬間、美月のスマホが鳴った。
画面に出た通知。
そこには、私の鍵アカの投稿が表示されていた。
しかも、誰かにスクショされて拡散されていた。
美月の表情が変わる。
私はスマホを奪うように見た。
投稿には、こう書かれていた。
「この子、表では普通の恋バナしてるのに、裏では全然違うこと書いてる」
心臓が冷たくなった。
そして、その投稿の下に並ぶコメントの中に、私は見つけてしまった。
高校の同級生の名前を。




