第八章 その絆は幾度でも②
――ドゴンッ!
跳躍した悠樹の『前蹴り』が、紅騎士の胸板に炸裂した!
体格で勝る紅騎士だが、竜人と化した悠樹の体格もまた人のサイズを軽く超える。紅騎士は大きく吹き飛ばされた。
が、即座にメイスを地に突き立てる。
ズザザザッと土煙を上げて、メイスと両足で勢いを殺す紅騎士。
悠樹はその隙を見逃さない。
無防備になった首を『剛腕薙ぎ』で刈り取った!
丸太のような剛腕による一撃だった。
グルングルン、と冗談のような勢いで縦に回転しながら、紅騎士の巨躯は近くの木に叩きつけられた。その木に背中を預けて棒立ちとなる。
悠樹は間髪入れずに跳躍した。
狙いは紅騎士のあご。砲弾のような速度の『膝蹴り』を繰り出した。
しかし、それは左手で受け止められる。
背中の木は衝撃で粉砕されるが、紅騎士自身に負傷はない。竜人の膝を握ったまま、片手で頭上へと抱え上げて地面に叩きつける!
地面には亀裂が奔り、背中から叩きつけられた悠樹の体が反動で宙に浮く。紅騎士は悠樹の左の足首を掴むと飛翔した。
黒い六翼を羽ばたかせて、凄まじい速度で移動する。
体感では音速に近いかもしれない。
景色が瞬く間に移り変わり、森からビル街へと移った。
すでに学校の裏山ではない。風倉市の市街区だ。
大きなビル群が並ぶオフィス街である。
(――くそッ! そういことか!)
敵に足首を掴まれた状態で、悠樹は舌打ちした。
今回は由良との分断を考えていないのかと思ったが、たった十数秒でこんなところまで移動できるのなら、わざわざスタート位置を変える必要はないということか。
余計だった力を温存した分、戦闘に力を割いているのである。
(やっぱり、こいつら考えて動いてる)
知性があるのかは分からないが、戦術を組めるのは厄介だ。
戦術や謀略をする敵が、どれほど恐ろしいかは妖鬼で思い知っている。
いずれにせよ、いつもまでもこの体制は不利だった。
――ボボボッ!
悠樹はアギトから炎を溢れ出させた。
そして、
――ゴウッ!
アギトから炎槍を撃ち出した!
それは悠樹を掴む紅騎士の左腕に直撃した。業火で燃え上がる左腕。流石に大きなダメージを受けたか、紅騎士は悠樹の足首を離した。
だが、それだけでは終わらない。宙空で手を離されて落下し始める悠樹に対し、紅騎士は黒翼を羽ばたかせて大きく旋回。接近と同時にメイスを振るった!
落下中では回避も出来ない。悠樹は両腕を交差して防御の構えを取った。
直後、
――ズシンッ!
重い衝撃が竜人の両腕に奔る!
悠樹はビルの一つへと弾き飛ばされた!
竜人の巨体がビルの窓を砕き、壁を砕き、ビルそのものを貫いていく。地上のアスファルトまで一直線だ。道路に叩きつけられ、飛び石のように竜人の体は跳ねる。
アスファルトに幾度も亀裂が奔る。
(………ぐッ!)
ようやく勢いが収まり、悠樹は片膝をついて体勢を整える。
空を見上げると、そこには黒い六翼を大きく広げた紅騎士の姿があった。炎槍の直撃によって左腕は損傷しているが、徐々に復元しつつある。
(やっぱり強い。というより)
――さらに強くなっている。
以前なら、至近距離からの炎槍の直撃ならば、左腕を吹き飛ばすことも出来たはずだ。
今の一撃も重い。完全に防御はしたのに、両腕が強く痺れていた。
頑強さも膂力も、以前よりも明らかに進化していた。
(こいつらが強くなる理屈は分らない。けど、出し惜しみしていたら、由良が合流してくれる前にやられてしまいかねない)
悠樹は、ギリと拳を強く固めた。
自分が倒れれば、由良もまた殺されるということだ。
それだけは断じて許容できなかった。
悠樹は大きく息を吐いた。
そうして、
『《黄金魄》招来……――《飛天黒竜》』
そう呟くと同時に黄金の勾玉が現れる。それが竜人の胸部へと消えると、膨大な銀霊布が現れた。銀霊布は竜人の体を覆うと、その姿を変化させていく。
長い尾と巨大な翼。そして鎌首を持つ黒竜の姿へと変化したのだ。
竜人を上回る巨躯に、自在に飛行する能力。
悠樹の切り札の一つである。
早々にこれを使わなければ、押し切られてしまうと悠樹は感じていた。
黒竜と化した悠樹は、翼を大きく広げた。
ゆっくりと羽ばたかせて、ひしゃげた脚が地から浮いていく。
紅騎士は何もしない。
黒竜が同じ高さに辿り着くまで静かに待っていた。
負傷した左腕が、完全に復元するのを待っているのかもしれない。
(感情らしきものが見えた方がやりやすいんだけどな)
こいつらと対峙するたび、悠樹はそう思う。
無機質な敵は本当に厄介だった。その上、自動で負傷を復元させていくのだから、攻撃が通じているのか全く分からない。
(復元が出来ないほどの大きなダメージを一気に与えるしかないか)
そこまでして、ようやく撃退できる。
それだけが悠樹たちが生き延びる唯一の方法だ。
黒竜は大きく息を吸った。
胸部が膨れ上がる。アギトからは炎が溢れ出した。
そして、
――ゴウッ!
竜人の時とは比にならない炎槍を撃ち出した!
流石に直撃はまずいと判断したか、紅騎士は飛翔して回避する。代わりに後方のビルが炎槍の直撃を受けて撃ち抜かれた。
ビルの壁面に、高熱で崩れる大きな穴が穿たれた。
黒竜はゴフウっと熱い息を吐いた。
そうして、
『……さて』
大きな翼を羽ばたかせて、黒竜は告げる。
『ここから先は、大火力で行かせてもらおうか』




