第8話 「乙女ゲーム開幕!?理想の恋人、出過ぎ問題」
「……やってしまいました……」
村の広場で、シルフィーナは頭を抱えていた。
目の前には10人のイケメン。全員、ちょっとずつ誠一に似ている。
しかも、全員が口を揃えてこう言ったのだ。
「君のことを、ずっと待っていた」
……なぜ、乙女ゲームが現実化してしまったのか。
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数時間前、俺は村の畑に新しく現れた**“マッスルドリーム”**(アーノルドの想像農業鍬)の叫び声で目を覚ました。
「オレが!耕す!夢を植える!筋肉で実るッ!!」
「うるせえ!朝6時から叫ぶな!!」
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そのあと、朝食を食べていると、
シルフィーナが静かにやってきて、言った。
「……私、ちょっと……想像してしまいました」
「……なにを?」
「“理想の恋人”を……つい、うっかり」
うっかりで出すな。
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そして今。広場にいる10人のイケメンが、なぜか肩に風を受けながらポージングしている。
「あなたの運命は僕だ」
「いや、彼女の魂に触れたのはこの俺だ」
「拙者、そなたを守りとうございます」
「はい、全員うるさい!!」
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「すみません……また、制御できませんでした……」
シルフィーナは俯いていた。
その顔は、笑ってごまかすいつもの彼女ではなかった。
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彼女の話によると、かつて「想像で遊んで」いたとき、
村の畑がプリンになったことがあるらしい。
村の老人が落ちて腰を強打した。それ以来、シルフィーナは「想像=災厄」だと思い込み、封印していたのだ。
「でも、最近……あなたたちを見ていたら、少しだけ……“楽しい”と思ってしまって」
その小さな気持ちが、抑えきれず“理想の恋人”を召喚してしまったと。
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「俺は、いいと思うけどな」
「え?」
「妄想って、もともとそういうもんじゃない? ちょっと恥ずかしくて、でもワクワクするもの。
誰かに迷惑かけちゃうこともあるけど、笑えるならオールOKでしょ」
「……でも……私は……」
「だったら、制御してやろうぜ」
俺はポケットからメガネを取り出し(意味はない)、グッと構えた。
「俺と一緒に、妄想の世界を制御するぞ!!」
「なんですかそのセリフ、ちょっとカッコイイと思ってしまったじゃないですか!」
「でしょ!」
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その瞬間、イケメンたちが一斉に光り出した。
「僕らの役目は終わった」
「さらばだ、シルフィーナ」
「君の心に、いつもいる(※物理的には消える)」
光とともに彼らは融合し――
一体の、理想の自分像となって立ち上がった。
「……これが……私の、理想……?」
シルフィーナはゆっくりと目を閉じた。
「いいえ。これからは、自分で理想を描き直します」
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その日から彼女は、自分の妄想を**“選んで、創る”**ようになった。
妄想の力を制御し、“守る力”へと昇華させたのだ。
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なお、後日。
マッスルドリームとイケメン融合体がバトルを始めて、村はまた半壊した。
妄想はまだまだ制御不能らしい。
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次回予告
「誠一さま! 夢の中にダイブしたら、マヨネーズが神になってました!!」
「神になったマヨ様、ドレッシング信仰を広めていますぅぅぅ!!」
次回『夢の中で会いましょう〜神マヨ降臨編〜』
次回はモフモフの過去と再覚醒、まさかの涙……!?