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俺の靴下が片方ないっ...!!  作者: 三食咖哩
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26足目 番長と靴下③

無難すぎないか!?番長から見れば、俺は今カウンター下から突然湧いて出てきたわけだが。


「...バイトぉ?」


「ね〜百束くん?」


「は、はい。」


「これからちょうど着替えてもらうところだったの、少し待っててね〜。」


怪訝そうな顔をした番長にそう告げると、返事を待つより早く俺の背中を押して店の奥へ。

靴を脱いで上がると、どうやら民家になっているようだ。


北欧風の明るく温かみのある部屋に入ると、チェストをゴソゴソと漁り始める店長さん。


「えっとね、確かスカートとパンツで2種類作っておいたからサンプルが残ってるはずなんだけど...。」


制服のデザインは店長さん考案なのか。カフェだけでなく部屋の内装も綺麗だし、本当になんでもできる人なのだろう。


「あった!サイズは...Mなんだけど入るかな?」


「とりあえず着てみます。駄目だったら諦めますよ。」


「うん。じゃあ私は先にお店に戻ってるからね〜。」


店長さんが部屋を出ていったのでさっさと着替える――が、やはりMサイズでは小さかった。パツパツだ。

破れたら怖いのですぐに脱いでたたみ、店へと戻った。



「おっ戻ってきた...って学校制服のままじゃんか。」


「ちょっと小さかった?」


「はい、破れたりしたら怖かったのでたたんで置いておきました...。」


クックッと静かに笑っている番長。


「Lサイズなら大丈夫かな?次までには用意しておくからね〜。」


「はい。」


...このバイトの話って体裁を保つためだけの演技だよな?


「今日は初日だし、とりあえずメニューとか読んで、簡単なところから覚えてもらおうかな?」


「わかりました!」


「じゃあ私はそろそろお暇しようかな。邪魔しちゃ悪いし。」


「せっかく来たんだからもっとゆっくりしていけばいいのに。」


「急に誰目線なんだよ。」


「燕ちゃん、また来てね。」


何!?俺でさえまだ名前で呼ばれたことないのに!!


「ありがとうございます。それじゃあまた――」


会計を済ませ、番長が帰ろうとしたところで鈴の音が鳴った。


「ただいま戻りました。」


「めぐるちゃんおかえり〜。」


「口切...?」


「ん?...うわ。」


今の『うわ』は俺に言ったわけではないようだ。その視線は番長へと向かっている。


「口切、ここでバイトしてたのか?」


「そうだけど。問題ある?」


口切の言葉にトゲがある。ここまで強いトゲは懐かしさを感じるまであるなぁ。


「いや、問題はないけど...モモは知ってたのか?」


くるりとこちらを向き、なんだか真剣な目でこちらに問いかけてくる。


「知ってた、かな。」


「そうか。」


「ところで百束はなんでそこにいるの?」


空気を読め!今こっちに振るのは明らかにおかしいだろ!


「バイトだよバイト。」


「ふーん?...そういうこと。おつかれ。」


番長の方をちらりと見た。やっと気づいたようだが遅いだろ。


何事もなかったかのようにカウンターに向かってくる。そんな口切の前に番長が立ちふさがった。


「モモ相手にはそんな話し方もできるんだな。」


「悪い?」


「なんでかなーと思っただけだよ。クラスじゃ人を寄せ付けようとしないのに。」


「あなたには関係ないから。」


あぁ、空気が重くきしむ音さえしてくる...。

再び助けを乞うように店長さんに視線を送るが、ニコニコしながら二人を見ているだけだ。...どうして?


「口切がモモをバイトに誘ったのか?」


「好きに解釈したら?」


「...そうさせてもらう。」


あまりの空気の悪さに口切の態度を注意することもできず、ただ見守るだけになっていると、番長の視線が俺を捉えた。


「モモ、誰とつるもうと構わないが危ないことには手出すんじゃないぞ。」


「お。おう。」


狼狽えながらなんとか答えると、番長は頷いて店の入口へと向かっていく。


「店長さん、話聞いてもらってありがとうございました。また来ます。」


「はい、どういたしまして。いつでも待ってるわね~。」


再びチリンと音が鳴り、静寂が訪れた。


身体の緊張がほどけ、カウンターに片手をついて一呼吸おく。


「は~~~~。口切、お前番長と何があったんだよ?」


「少し前に学校で絡まれただけよ。」


それだけ言って、着替えるためか店の奥へと入っていった。

一方店長さんはというと、既に片付けを始めている。


「店長さん、何で止めなかったんですか?明らかに口切がケンカ売ってる風でしたけど。」


「う~ん百束くんが止めてくれるかなーと思って?」


「え?すみません...?」


つい謝ってしまったが、バイト初日にトラブル対応なんかさせられてたまるか。...それよりも番長は何の話をしていったのだろうか。


「番長は何の話していったんですか?」


「あ~!百束くんデリカシーないよ~?」


「あ。」


それもそうだ。ついダイレクトに聞いてしまったが、女性達の話を又聞きしようとしたのは軽率だった。


「すみません...。」


「気をつけないと彼女とかできないからね~?...と、イジるのはこれくらいにしておいて~。」


「イジりが少しねちっこくないですか?」


「...コホン。具体的な話はしてあげられないけど...そうね~。」


少し考え込む様子を見せた後、スッとこちらを向く店長さん。


「まぁいっか、ヒントだけなら。『思い出』なんだって。」


「思い出?何がですか?」


「もう、ヒントって言ったでしょ?そこは自分で考えてみてね~。」


抽象的過ぎて何もわからない。番長の思い出話を聞いていただけってことか?


「う~ん。」


唸りながら考えてみるが思い当たる節もない。


「とりあえず持ち帰って考えてみます。」


微笑む店長さん。あとは口切と番長の関係についてだが・・。



以前聞いた話から見るに、教室内でも口切のラフタラ嫌いが炸裂しているんだろう。番長は理由もなく誰かに突っかかることもしないと思うので、口切が何かしたと考えるのが妥当か。どうしてそこまで地上に住むヒトを嫌うのか。


「口切のラフタラ嫌いって不潔、汚い...みたいなイメージから来てるんでしたっけ?」


「う~ん、それもあるにはあるけど...やっぱり一番はめぐるちゃんの――」


「店長!」


その時、制服のままの口切が奥から飛び出してきて話を遮った。もしかして聞いていたのだろうか。


「あら、めぐるちゃん...」


「やめてください。」


「ごめんね、もう話してたのかと思ったんだけど...」


「こんなラフタラなんかに話しません。」


そういうと鋭い目つきで俺を睨む。


「茶番が終わったのなら帰りなさい、靴下だけ置いてね。」


「なんだよそれ。事情もよく知らないのに勝手にキレられても困る。それに靴下はフローマに渡した。」


「アンタまた地下に入ったの?!」


「めぐるちゃん。地下に入るのは私が許可したのよ。それに茶番も私の助け舟。」


「ぐっ。」


なだめるように店長さんが割って入ると、少し気まずそうに口をつむぐ口切。


「ごめんね百束くん。これ今日の分の靴下だから~。」


どこからともなく出てきた新品の靴下を渡される。お店にストックを置いておいたのだろうか?


「めぐるちゃんの部屋から取ってきておいたものだから気にしないで~。」


心を読まれたのかと思ってドキリとしたが、口切もおなじような反応を見せている。


「どうして!?施錠も3重にしてあるはずなのに...。」


フフフ、と笑うと口切に近づき頭をふんわり撫で始める。


「めぐるちゃん、あなたの事情は知ってるけど...。」


突然撫でていた手がガシリと開く。


「仲良く、友好的に。っていつも言ってるよ、ね~?」


口切のこめかみをメインに締め上げ始めた。これがアイアンクロー!


「いいいったあああああ!!!」


よほど痛いのだろう、店内に叫び声が響き渡る。


10秒ほどで手が離れると、へにゃりとしゃがみこんでしまった。


「痛い...。」


「郷に入っては郷に従え。いいことわざよね~。」


何も言えず黙り込む俺と口切。すると、そのまま店長が話始める。


「そうだ。もう百束くんホントにここでバイトしちゃえば?」


「「へ?」」


「エナトス的にも助かるし、めぐるちゃんの矯正もできそうだし。百束君は...燕ちゃんにウソついたことにならずに済むわね~!」


「「...鬼だ!」」





かくして俺は喫茶エナトスのバイトとして採用されてしまったのだった。

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