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俺の靴下が片方ないっ...!!  作者: 三食咖哩
22/29

22足目 番長と靴下

休み時間。3人で話していると、隣の教室から番長が俺を訪ねてきた。


「放課後、肥田さんが軽くミーティングしたいってさ。」


「了解。」


手を上げて返事をすると、同じくハンドサインだけ出して教室を去っていった。その様子を見かねたクララが口を開く。


「柿迫さんってどういう人なんでスか?」


「おー、俺も気になる。」


「番長は...面倒見がよくて人望があって、さっき見たと思うが身長も高いな。勉強も割とできるらしい。」


「モモの話を聞いてもあだ名と中身が全然一致しないんだよなぁ。」


「そうか?...あ。植物の世話してる時は目まん丸にしてて、いつもと全然違うな。」


「お前しか分からんって。クラス合同の授業くらいでしか見る機会もないし。」


「ワタシは一度体操マット運びを手伝ってもらいまシた。さりげなくてカッコよかったデす。」


「あー想像つくな。」


「分からないの俺だけじゃねえの!」


予鈴が鳴り、話は一時中断。



柿迫燕という名前から番長という呼び名がいかにしてうまれたか。それは中学生時代についたらしいのだが、諸説ある。


『クラス全員を舎弟にした』『応援団に所属していた』『不良を病院送りにした』なんて話をちらほら聞いたが真相は不明。


土いじりをしている時の番長の姿を知っているので、どの噂を聞いてもあまりしっくりこない。ルックスもよく人気があるので、背びれ尾びれがついて回っているのだろうか。


まだ知り合ってひと月ほど。これから3年近く部活で顔を合わせることになるし、色々番長のことを知っておくいい機会かもしれない。


ぼんやり考えているうちに黒板はどんどん白い文字で埋められていく。

置いていかれないように急いで要点の書き取りをはじめた。





「じゃあな!」


「またあシた!」


散らばっていく2人に挨拶を返し、屋上階段へと向かうため教室を出る。


「おーいモモ、どこ行くんだ?部活棟は逆だろ?」


隣の教室前を抜けたところで番長に見つかってしまった。


「あぁ、ちょっとトイレに...」


「トイレ?こっちにあったっけ?」


近づいてくる番長。これは誤魔化せないな。


「下の階のトイレに行こうと思ってさ、はは」


「そっか、なら行こうぜ?」


言われるまま一緒に階段を降りる。口切に連絡しておかないとなぁ。


「待ってるから早く行ってこいよ。一緒に部活行こうぜ」


そういってトイレに割と近い壁に寄りかかり、スマホをいじりはじめた。


「もうちょっとトイレから離れたほうがいいんじゃないか?...男子トイレだし。」


「ん?...あ〜。ごめん。」


きょとんとしていたが、分かってくれたようで横にスライドして入口そばから離れていく。


トイレに入って早速スマホを取り出し、30分くらい待ってくれと口切へ連絡を入れる。ついでに用も足しておこう。



「おまたせ、行こう。中庭でいいのか?」


「おう。ミーティングもすぐ終わるらしいからな。」


「そうか。ならさっさと済まして帰ろうか。」


「だな!」



中庭に着くと先輩2人が談笑していたので揃って声をかける。


「「お疲れ様です!」」


「あらぁ2人ともお疲れ様。」


「それじゃあ始めましょっか!」


よく見ると間木さんの鞄に件のバターロールがついていたが、

場が少し引き締まっていたので、肥田さんへと意識を向ける。

おほん、と喉を整えた肥田さんが話し始めた。


「顧問の紅葉先生からもらった話なんだけど、園芸部で商店街の緑化プロジェクトに参加しないかって話が来たのよ。」


「緑化?植物をたくさん植えましょうっていうことですか?」


「簡単に言うとそうねぇ。ほら、割と大きい商店街だけど、結構殺風景じゃない?」


「確かにただお店が並んでるだけでパッとはしないですね。」


番長も結構ズバッと言うなぁ。


「緑化を進めて最終的にはアーケードも撤去するって話も出ているらしいわ。」


「へぇ、結構大がかりなんですね!」


「ええ、一部造園なんかもして憩いの場を作るとか聞いたわ」


「素敵だよねー!私は賛成なんだけど2人はどうかな??」


「俺は賛成です。よく行く場所ですし、学外での部活にも興味がありますから。」


「私は...まぁいいと思います。肥田さんはどうなんですか?」


なんとなく番長の歯切れが悪い。あまり賛成って感じでもないのだろうか。


「ワタシはウチの事務所にこの依頼が来ちゃってるから、部活じゃなくても強制的に参加なのよぉ。」


さっき造園って言ったもんなぁ。おそらく大がかりな仕事の大半は肥田さんのところで受け持つのだろう。


「もし番長ちゃんが嫌なら反対でもいいんだよ?」


先ほどの様子を察したのか、間木さんが声をかけた。


「い、イヤなわけじゃないんです!モモもやりたいって言ってますからやりましょうよ!」


言い訳が苦しいな。対してう~んと顔をしかめる間木さん。


「もしイヤだったら無理に参加しなくてもいいから、その時は言うんだよ?」


「あはは、大丈夫ですって!勘違いさせたならすみません。」


「じゃあ決定で問題ないって伝えちゃっていいかしらぁ?」


肥田さんもどことなく心配そうに聞いているようだ。


「はい。お願いします!」


その返答を聞いてにこりと笑うと、パチンと手を叩く。


「じゃあ今日のミーティング終わり。各自畑と花壇のチェックだけはこまめにお願いね。」


はーい、とみんな一様に返事をすると、肥田さんは報告のためか職員室へと向かっていった。


「モモ、アタシらの畑軽く見ておこうぜ。」


「オッケー。」


歩き始める番長を尻目に、チラリと間木さんの方を見ると目が合った。番長をよろしく!とでも言いたげな顔だったので、とりあえず頷いて番長の後を追った。



畑につくとまだ芽も生えていない土をじっと見つめ始める番長。


「何かあったか?」


「...雑草だ。」


まだ生えたばかりの小さな雑草に手を伸ばして手早く引き抜いていく。


「雑草だけは出てくるのが早いなぁ。芽が出てほしいんだけど。」


「焦らなくてももうすぐ出てくるよ、むしろ出てからの方が大変だしな!」


「それもそうか。俺は反対側から見てくるよ。」


「おう、よろしく。」




畑のチェックを手早く終えたので顔を上げると、番長はもう作業を終えていたようだ。ボーッとしているようなので、近づいて声をかける。


「すまん、待たせた。」


「ああ、大丈夫大丈夫...。」


「どうした?」


「う~ん...ちょっとね。」


話してくれるつもりも無いらしい。間木さんには悪いが今話しても進展はなさそうだ。


「番長はもう帰るか?」


「ん。そうしようかな。」


「じゃあ俺も帰るわ。また部活で。」


「ああ。」


鞄を持ち、本校舎へと向かう。後ろから「あ」と聞こえた気がしたが空耳だったのだろうか。



口切にメッセージを飛ばしてみると、まだ屋上階段にいるらしいので急ぎ足で向かう。


軽く息を切らしながら階段を3階分上がっていく。


「あー、しんど...。」


念のため生徒が近くにいないことを確認して最後の階段を上がると、ここ数日と同じポーズで口切が待っていた。


「もう、うまくやりなさいよね。待つ身にもなりなさい。」


「悪い。何も言い訳とか思いつかなくて。」


今日は不満を表すようにトングをカシャカシャと鳴らしながら降りてきた。


「この後バイトなの。早く済ませましょ」


脱いで前に突き出すと、いつも通りにつまんで袋へと入れる。


「なぁ、これ俺が直接その袋に入れても同じじゃないか?」


「あんたに任せたら袋の口とかにくっつけるでしょ。間接的にでも触りたくないから。」


「そうか...。」


効くなぁ。


「でも別にあなたのだから触りたくない、とかじゃないから。」


「はぁ。」


フォローを入れたつもりなのだろうか?嫌がってるのはどのみち一緒なので、悲しいことには変わらない。


「ほら。これはいて帰りなさい。」


またポケットから靴下がでてきた。

温かいとか言ったら口を聞いてくれなくなりそうなので黙っておこう。


口切の手から靴下を受け取るが、やはり温かい。

冬はいいかもしれないが、夏はちょっと勘弁してほしいなぁ。



靴をはき終わると同じくして、口切が鞄を持ってまた降りてきた。


「途中まで一緒に帰るか?」


「どっちでも。」


どっちでも。それは聞いた側が必ず困る魔法の呪文。できるだけ聞きたくない言葉だ。


「じゃあ一緒に帰ることにしよう。」


口切と並んで階段を降りていくと、廊下からドタドタと走る音が聞こえた。


廊下を覗いてみたが、既に誰の姿もなく、わずかに響いていた足音もすぐ消えてしまった。


「何?誰かいたの?」


「分からん。誰かが教室に忘れ物でもしたんじゃないかとは思うけど...。」


「ふーん、早く行きましょ。」


「そうだな。あ、折角だから気になってたこといくつか聞きたいんだけど。」


「答えられる範囲ならね。」


階段を降りながら、頭の中にいくつか思い浮かべる。


「じゃあまずは...俺って監視とかされてるの?」


「んー、時々?」


時々されてるのか...。


「なんでしてる側が疑問形なんだよ。理由は?」


「靴下を貰うチャンスを狙ってたのよ。」


「そうか...なら協力関係の今は、もう尾行とかもされる心配はないってことか?」


「店長次第ね。あの人から『行ってきて』ってお願いされることも多いから。」


「大したことしてないと思うんだけど...何を報告してるんだ?」


「それは店長から口止めされてるから。」


「そっかぁ〜。」


やっぱり少し怖いな、店長さん。


「あと、俺のポケットに入ってたハンカチは何だったんだ?」


「え?私が落としたのをアンタが持っていったんでしょ?」


「そんな...。あの時俺は確かに靴下を拾ったはずだ...?」


「暗かったからよく見えなかったんじゃないの?」


「いや、それにしても靴下とハンカチなんて見間違えるか...?」


「私が知るはずないでしょ。」


ハァ、とため息をつかれてしまう。じゃあ一体何だったんだよ。ハンカチは口切のもので間違いなかったみたいだけど。



その後も話しているうちに、いつの間にか喫茶店と自宅の別れ道まで来ていた。


「じゃあ、また明日学校で。」


「ええ。さようなら。」


しゃんと背筋を伸ばして歩いていく口切を少しだけ見送る。


少し歩いたところでチラリと後ろを向いたが、こちらを一瞥しただけだった。手くらい振ってくれれば可愛げがあるのになぁ。


「ま、いいや。俺も帰ろう。」


そうだ、今日は小春に緑化プロジェクトの話を教えてやろう。

小春もあの商店街には頻繁に行くし、聞いたら喜ぶかもなぁ。

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