20足目 ゲームセンターと靴下
「よ。おはよう!」
校門前で見かけた口切に挨拶し、隣に並んで歩いてみる。
「...おはよう。」
返事をしてくれるとは。
「少し感動した...。」
「何言ってるの?朝から気持ち悪いわね...。」
なんだかこの悪態にも慣れてきたな。
「ところで今日からどこでわた――」
「バカ。こんなところでそんな話しないでよ!」
肘でつつかれ、小声で怒られた。
こんな場所で話す内容じゃないか。
「あとでKINEすればいいか?」
「私のタイミングで連絡するから待ってて。」
「わかった。」
「じゃ。またあとで」
小走りで去っていく。あくまで仕事上のつきあい...といった感じだな。
その何秒か後、口切のいた空間に大きめの影がヌッとあらわれる。
「じゃ。またあとで♡」
「気持ち悪い裏声を使うんじゃないよ。」
「ええ〜何?お前口切さんから嫌われてたんじゃないのかよぉ?」
「嫌われてたには違いないさ。でもな、口切も好きでやっていたわけじゃないみたいなんだ。」
「...聞こう」
とはいえ今は登校中の生徒も多い。耳を貸せと小声で合図する。
「犯人は別にいた。俺も口止めされてる以上詳しく言えないけど。」
嘘ではない。真実を少し混ぜることで話に厚みをもたせる作戦だ。
「そうか...じゃあ今度はその親玉?みたいなのをどうにかしないといけないわけだ。」
親玉と言われ、ふと店長さんの顔が浮かんだ。どちらかというと問題はテリコプロトスとかいう木なのだが、話が転がったのでよしとしよう。
「そうなる。だが、すぐに行動に移すと口切もどんな危害を加えられるか分からないんだ。だからしばらくは協力することにした。」
「というと?」
「靴下を潔く渡すことにした。」
「協力は分かるが...なんで靴下なんだ?」
「すまん、俺にもわからん。それに関しては口切も知らないみたいなんだ。」
「そうか...。ところで俺にそんな大事なこと話していいのか?」
「何言ってんだ、俺とお前の仲だろ?」
「くっ、嬉しいぞ俺は...!」
ずずっ、と鼻をすする甘太郎。
心が痛くなってきたが、これも地底人という大きな秘密を守るためだと自分に言い聞かせた。すまない親友。
放課後、帰る準備をしているとKINEに通知。口切だ。
「屋上に来て」
屋上?施錠されていたはずだが...とりあえず行ってみるか。
了解、と返信して席を立つ。
「甘太郎、校門あたりで待っててくれ!」
「おお?わかった。」
ゲーセンに行く予定だったので断りを入れてから教室を出る。
念のため人がいないタイミングを計らい、屋上への階段を上がる。
踊り場を回ったところで、屋上への扉に寄りかかる口切の姿を見つけた。どうやら既にトングと袋はスタンバイ済みのようだ。
登ってくる足音を聞いていたのか、すぐに目が合った。
「よ。きたぞ。」
「ねぇ、なんで屋上って開放されてないの?」
納得いかないといった表情で聞いてきたが、俺もよく知らないのでそれっぽく答えよう。
「危ないから...っていうのが大きいんじゃないか。教師の目もほとんど届かないだろうし。」
「ふーん...」
聞いてきた割に反応が薄いな。あまりピンとこなかったのだろうか。
まぁいい、さっさと終わらせてしまおうと靴下を脱ぎ始める。
その様子を見た口切もトングを構えて階段をゆっくりと降りてきた。
「ほら、ちゃんとフローマに渡してやってくれよ」
差し出した靴下をつまみ取ると素早くしまう口切。
「当たり前でしょ。ほらこれ」
ずい、とポケットから出した新しそうな靴下を差し出される。
なんだか少し生温かい、口切の体温だろうか。
「タグは切っておいたから感謝してね。」
「お〜、ありがとう。」
「う」
お礼を言うとたじろぐ口切。なんだか口がふにゃふにゃになっている。
「どうした?」
「なんでもない!」
そっか、と返事をしながら貰った靴下をはき終える。
「よし、じゃあ今日はこれで終わりだな。」
「うん。明日もここでいい?」
「いいぞ、じゃあ明日の放課後またここで」
口切に手を振って屋上階段を後にした。手は振り返してくれなかった。
校門の傍に座り込み、スマホをいじる甘太郎の姿を見つけた。
「よお、またせたな」
「例のやつだろ?いいってことよ」
「勘がよくて助かる。」
甘太郎の行きつけは、この前小春と行った商店街の中にある。
小さい頃から一緒に行っているが、古いゲームセンターの割に今でも客足はそこそこ多い。
「それにしてもカプセルトイをここまで導入するとは」
「すげぇよな、この量!昔から流行りに敏感なんだよなぁここのオーナー。」
店に入ると綺麗に並んだ大量のカプセルトイマシンが目に入る。
「小春が好きなんだよな。何か新しいのあるかな」
「俺もたまには片っ端から見ていくかな」
上から下へと順繰り目を通していると、ある台紙が目についた。
「パンのぬいぐるみストラップか」
こういうフワフワしたもの好きなんだよな、あいつ。
早速硬貨を入れてレバーを回すと、カプセルがコロリと転がってくる。
ミチミチに詰まっているためか、外から見ても何が出たのか分からないのでカプセルを開けてみる。
「なんだ?コッペパン?」
ミニブックをみてみると、ジャリパンと書いてあった。
「コッペパンとは違うのか?これ」
「ふふ、多分中にクリームみたいなのが入ってるんじゃないかな?」
そう言われてぬいぐるみの側面に指を当てると、なるほど上下に開くようだ。
「あ、ホントだ。すごいなぁ!」
...ん?ナチュラルに話したが俺は誰と会話してたんだ?
すぐ隣を見るとニコニコ顔で間木さんがこちらをみていた。
「うお!お疲れ様です!」
ついビクッとしてしまった。
「あはは、ビックリさせちゃった。ごめんごめん!」
悪びれもなくそういうと、両手をスイっと出してきた。
「ちょ~っとだけそのパン触らせてくれない?」
「いいですよ。」
差し出された手の上にそっとぬいぐるみを乗せると、握ったり開いたりして感触を楽しんでいるようだ。
「今日は1人で来てるんですか?」
「ううん、友達と一緒だよ~。」
「そうだったんですね。」
違うコーナーでも回っているのだろうか。
「えへへ、中身のクリームは触り心地がまた違うんだね~。じゃりじゃりでなんか面白い。」
ひとしきり触った後、ポンと返される。
「百束くんもこういうの好きなの?」
「どっちかというと好きですね。あ、これは弟のお土産にと思っていたんですが...。」
「へぇ~弟さんに!ねね、私もこれ引こうかな。」
よっぽど気に入ったんだなぁ。
「いいと思います!...決め手は何ですか?」
「デザインと触り心地かな!あとボールチェーンだから、バッグにもつけやすそうだしね!」
そういうと財布を取り出し、お目当てのマシンに硬貨を入れ始めた間木さん。
「狙いは何ですか?」
「バターロール以外かなぁ」
「間木さん、そういうこと言うと…」
「ふふふ、私は運がいいからそういう迷信は効かないんだよ」
そういいながら出てきたカプセルを早速あける。
モコッと膨らんで出てきたそのパンは、まぎれもなくバターロールだった。ほらいわんこっちゃない。
「え~!なんで!!」
「フラグ立てるからですよ。」
「も、もう1回!6種類もあるんだから連続はしないよね?」
「間木さん、それも言ってしまったらフラグですよ。」
「そんな~。どうしたらいいの?」
「俺が引けばいいんです。もしバターロールが出たらそのまま引き取りますから」
場所を代わり、再び硬貨を入れてレバーを回す。
「お願い!こうなったらクロワッサンか!エピか!メロンパンで!」
出てきたカプセルを手に取ると、間木さんがカプセルに向かって小さく話しかける。
「ホットドッグかジャリパンでもいいよ」
ま、間木さん!ダメですって!!
カパリと開くと中から出てきたのは案の定バターロールだった。
「どうして...どうして...?」
よろめく間木さん。ここまで見事にフラグを回収できるとは思わなかった。
「こ、これは俺がこのままいただいておきますから!」
「ううう...ごめんね~。」
「なずなー!お待たせー!」
声の聞こえた方を向くと、奥のコーナーから2人の女子が歩いて来るところだった。制服を着崩していてあまり真面目そうには見えないが...。
「遅いよ~。おかげでバターロールになっちゃったじゃん!」
そう言ってぬいぐるみを前に突き出す。
「え、かわいいぬいぐるみじゃん。」
「バターロールおいしいよね。なずなも好きっしょ?」
「好きだけど~。」
うるうるとした表情で友人に訴える間木さん。なんだ、バターロール嫌いなわけじゃないんだ。
「隣にいるのは?」
「あ、園芸部1年の百束です。こんにちは。」
「あ~、あなたが後輩くんねぇ!」
「へぇ~~~」
初対面の先輩2人にジロジロと見られてたじろいでしまう。
「こら2人とも!百束くん困ってるでしょ!」
「だって~、ねぇ?」
「ね。後輩くん、それなずなとおんなじの引けたん?」
俺が手に持っていたバターロールを指さして言う。
「そうなんですよ、まさかの2連続で出てきて...」
「連続で引くとかどんな確率?もしかしてぇ、なずな持ち前の運で狙った~?」
「おそろじゃ~ん、大事にしてあげてね~?」
「そ、そんなこと言ったらメイワクでしょ!ごめんね百束くんっ。気にしないでね!」
わたわたする間木さんをみて思わず笑ってしまう。
「大丈夫ですよ。先輩方、すごく仲良さそうですね。」
「お〜分かるぅ?」
「ほら次!百束くんごめんね、また部活で!」
そういって友人2人を引っ張り、店の外へと向かう間木さん。
「後輩くんばいばぁい!」
「またねぇ〜!」
ずるずると引きずられている側は呑気に手を振っていた。
ぺこりと頭を下げたが、あっという間にいなくなってしまった。
...さて、こちらの賑やか担当はどこに行ったんだろうか。ジャリパンとバターロールをカバンにしまい、スマホを取り出した。




