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第1話 内通者

「今回の戦争も俺達レッドフィールの活躍により、ヴァヌシュデア連合国側の勝利だ!」

「相変わらず凄いよなぁ! “ハングの”大火球魔法は」

「当然! “俺の”大火球魔法に、壊せぬものなど無いからな!」


 今回の祝勝会も、あいつは酒場の中心で自分気ままに雄弁を語っている。その影に俺のサポートがあるにも関わらず、奴はあくまで“自分の”力で戦っていると誇示している。


「…………」


 そして俺は酒場の隅にて一人、杯を傾けてその光景を遠くから眺めていた。

 理由は三つある。一つは俺自身がそもそもこういった場で他人と絡むのが苦手だということ。そして二つ目だが……これもまた大きな理由になるが、あのハングという男が原因だ。


「そんなに聞きたいのか!? 俺の武勇伝を!」

「ああ! 聞かせてくれよハング!」

「仕方ねーなー! また最初から話してやるよ!」


 ――俺と共に同期として戦争屋レッドフィールに入った際に、奴は俺の得意とする遠隔でも可能なバフ・デバフの術式に惚れたと言って、共に手を組んで戦おうと誘ってきた。年は奴の方が一つ上だった事もあってか、俺はそれを素直に褒め言葉として受け取り、言われるがままに奴の援護をすることも多かった。


「…………」

「それでよ、トリスタンの奴いっつも鈍いから昔から俺が助けてきたんだぜ!」


 ――少なくとも当時の俺達の間では大きな差別などない対等な関係だと、そう思っていた。だからこそ俺の魔法の性質上、強化魔法を撃つハングの方が目立つことも、内々の出世が早いことにも目をつぶってきた。

 しかし奴の立場が上になっていくにつれて、俺への対応は見事に様変わりした。上の立場であることを理由にして、共に戦う戦友としてではなく、俺のことを魔法強化に使える使い捨ての部下どうぐとして扱うようになった。


「……下らん」


 かつては故郷を失った者同士肩を並べていたものだったが、この戦争は心すらも汚していくというのだろうか。

 そう思って半ば自棄ヤケになってこの酒場の名産品であるシェリー酒の入った小さな酒瓶に口をつけていると――


「おやおや、こーんなところにいたんですかぁー?」

「うるさい……」

「ダメじゃないですかー。影の立役者がこんな隅っこで一人淋しく飲んでいるなんて、祝勝会を立ち上げた経理担当として許せません!」

「黙れ、ミラー。俺は静かに酒が飲みたい」

「えぇー……お酌してあげましょうか?」

「いらん」


 既に相当酔っているのか、顔が赤らみ表情も緩くなっている。ミラーについては前に一度悪酔いした日に介抱してやったこともあったが、このように絡み酒が非常にうっとうしい事この上ない。

 そしてこれこそが三つ目の理由。他の奴に絡めばいいものを、わざわざこうして俺を探し出してはあれやこれやと弄り倒してくる。


「……夜風に当たってくる」

「あっ、ちょっと待ってくださいよー」


 誰の目にもとまらぬよう、そっと素早く祝勝会を抜ける。ミラーが後ろで何か言っているようだが、それすらも無視して扉に手をかける。


「……馬鹿らしい」


 酒瓶を片手に寒空の下、遙か彼方の星を仰ぐ。

 ……この呟きも何度目だろうか。どれだけ頑張ろうが、貰える報酬もたかが知れている。かといって俺が得意なのはバフ・デバフだけで、攻撃魔法などそれこそそこらの一般魔法兵と何ら変わらない。


「このまま一生、奴の下で働くことになるのか……?」

「おやおや! 随分と今の雇用形態にご不満があるようですね!」


 とっさに声のする方をむき直すと、そこには今回の戦争における敵国の証、錆色十字の紋章ワッペンを肩に縫い付けたコートを身につけた男が立っている。


「っ! 貴様、エーニア帝国の――」

「わわわっ! ちょっとちょっとちょっと! しーっ! しーっ! ……今回我々は、貴方と交渉に来たのですよ」

「何……?」


 この眼鏡の男、名前をウーベルというらしいのだが、ある意味ではこの男の行動をきっかけにして、この後の戦争は大きく変わっていったのかもしれない。

 そして俺にとっても苦々しいものであるレッドフィールの有り様も、大きく変わっていくことになる。

 

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