第15話 戦場における恐怖
「…………」
「…………」
大型トラックの荷台に載せられ、目的地となる前線へと送り込まれる。近づくにつれ少しずつ増していく火薬の臭いが鼻をくすぐり、魔法による爆撃の音、そして兵士の怒号と悲鳴が大きくなってくる。
「…………」
「……めちゃくちゃ睨まれていませんか?」
「こいつらは国の為に命を捧げた軍人。それに引き換え俺達はこうしたところで日銭を稼ぐだけの戦争屋。相容れるはずもない」
しかもここにいる軍の兵は全員男。唯一の助成であるミラーは奇異の目で見られてもおかしくはないだろう。
そんなことを考えながら、俺は面倒ごとを避ける為に両腕を組んで目を閉じて周囲との関係を遮断しようとする。しかし先程から対面にいる男が気になってしょうがない。
「……っ……っ……!」
初めて戦場に出るのであろう、ヘルメットを深くかぶった若い男が唯一持たされたライフル銃を必死に抱きしめている。
「……怖いのか?」
「っ! 何を言っている! 俺の命は、とうに国父に捧げている!」
「そうか……」
俺の問いかけに強がりを言っているようだが、その震えが全てを否定している。
「お前の方こそ、怖くないのか!?」
「怖いに決まっている」
「なっ、なんでそんな平然と――」
「嘘を言っているつもりはない。俺だって怖いさ」
確かに何度もこのような戦場を渡り歩いてきたせいで慣れが来ているのかもしれない。だがいつだって恐怖を忘れはしない。初めて戦地に立ったときなど、まさにこの男のように足の震えが止まらないまま、半泣きで味方にバフをかけていたあの時の恐怖を。
だが俺はずっとあの時から、覚悟と信念を持っている。とにかく生き延びる。泣き叫びながら逃げ出そうとも、味方が死にそうになっていようとも、とにかく自分の身を守る。何人敵を殺したとしても、最後に自分が死んでしまえば金も名誉も残らない。
「だ、だったらどうやって生き残って――」
「危ないっ!!」
突如として宙を舞う感覚が車両を襲う。死が間近にあるかのごとく、ゆっくりと全ての人員が宙に放り出されていくのを俺は目にする。
「っ! ミラー!」
俺はとっさに隣にいたミラーをかばうように覆い被さり、そのまま一緒になって荷台から振り落とされる。地面に体を強くぶつけたものの、動けない程ではないとすぐに起き上がる。
「大丈夫か!?」
「私は大丈夫です……あ、ありがとうございます」
そういえばさっきの男は――
「……死んだか」
最初に車両に襲いかかった魔法か何かの当たり所でも悪かったのだろう。大切そうにライフル銃を握ったまま、男は既に事切れていた。
「急ぐぞミラー。どうせ奴らとは別行動になる」
「ええ、そうですね」
戦場でいちいち葬儀など開けるはずもない。だがせめてこいつが使うはずだった得物で一人は屠り去ってやろうと、俺はその手からライフル銃を抜き取ってその場を後にすることにした。
◆◆◆
「――ちぃっ、この場所さえ抜ければ合流できる筈なんだが!」
「困りましたね……私だけ先に行っても何の意味もないでしょうし」
「見知らぬ人間から増援だが手を貸して欲しいだなんて言われても、誰が信用するんだろうな!?」
何とか味方軍が掘っていた塹壕を利用して合流を狙うが、それでも飛び交う魔法や弾丸がそう簡単に通してくれない。
「ここらにいるのは全員歩兵……せめて一人くらい魔法使いがいれば、そいつにバフをかけて敵陣を吹っ飛ばす手段もとれるというのに」
それだけエーニアには魔法を使える人材少ないというのだろうか。それともヴァヌシュデアとはまた運用方法が違うのか?
「とにかく何とかして合流しなければ……」
「伝令!! もうすぐ魔導砲充填が完了する! それまで前線を維持せよ!!」
「魔導砲だと……? っ! これは使えるぞ!」
伝令を耳にした俺は、急いで魔導砲を扱う部隊がいる後方へと向かうことにした。




