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第12話 真人間至上主義

「ああ、丁度いいところでよく来てくれた中佐」


 ギルドレッドから中佐と呼ばれる小太りの男は、先ほどの貴族とは違って血を見た後でさえも招集を面倒がっている様子。


「私も忙しい身なんだが」

「まあそう言うな。例の強化弱体化魔法の名手である魔道士だ。君のところで面倒を見てもらいたい」

「何……?」


 怪訝な顔つきでこちらを値踏みするように睨み付けると、中佐と呼ばれた男は再びギルドレッドの方をむき直す。


「……本当にこんな男が、我が部隊を半壊にまで追い込んだ火球使いのバックアップをしたと言いたいのか?」

「事実私の目の前で身体強化のバフを使って巨人の頭を踏み抜いていたぞ」

「んん? それは本当か?」


 男は目を丸くして、再び俺の方をじろじろと見つめる。


「……臭う」

「は?」

「臭うぞ。獣のような臭いだ」


 そういうやいなや中佐と呼ばれた男は手に持っていた霧吹きのようなものを使って、いきなり俺に霧状の液体をかけてきた。


「っ!? なんだこれは!? ……水か?」

「おや? 効かなかったか? ……ということは正真正銘の人間か。紛らわしい」


 あってすぐの人間に霧吹きを吹きかけ、あまつさえ不思議そうに首をかしげる。なんだこの男は。


「私の選んだ()()に不満でもあったかね? 中佐殿」

「いえいえ、そんなことはありませんよ閣下。ただ少し獣臭かったので、まさか獣人なのではと思って“テスト”してみただけです」

「テスト……? この液体は何だ?」

「その液体は人間のふりをしている獣人をあぶり出す代物だ。本来の獣人の皮膚であれば皮膚から凄まじい拒絶反応が出るものだが、君はどうやら真人間のようだ」


 そう言って中佐は身の潔白を証明するかのごとく自分自身にも霧吹きを吹きかけ、毒物ではないことを証明する。


「しかしおかしいな……どうも獣臭い気がしたのだが」

「吹きかけて何ともなかったのなら問題ないのだろう? とにかくそれをしまいたまえ」

「閣下がそうおっしゃるのであればそうしよう」


 疑問が残りながらも中佐は霧吹きをどこかへとしまい込むと、中佐と呼ばれる男は改めて俺とミラーの正面に立って自己紹介を始める。


「改めて、私の名前はロック・ホワイト。階級は中佐だ」

「彼には主に作戦参謀をして貰っている」


 簡素な紹介だが、それだけでさっきの霧吹きの説明にはならない。


「それでさっきはなぜ霧吹きを?」


 俺にとっては素朴な質問のつもりだったが、中佐はよくぞそれを聞いてくれたと目を輝かせる。


「私はね、それこそ皆殺しにしてやりたい程に獣人が嫌いなのだよ!」

「――っ!」

「っ!?」

 常軌を逸した狂気の眼差し。皆殺しという言葉を簡単に吐き捨てるほどの神経に恐れをなしたのか、ミラーは思わず後ずさりをしている。

 そしてたった一言で狂人だと分からせるような言葉に対し、この俺も言葉を失ってしまう。


「そもそもエーニア帝国の最終目的について、ウーベル兵長などから聞かされていなかったかね?」


 幸か不幸かギルドレッドの問いにより次の言葉を見つけることができた俺は、静かに口を開く。


「……言われてみれば、確かに聞いていないな」


 そもそもヴァヌシュデア連合国についたときもただ生きる為だけに、日々の生活を賄う為だけに戦争屋として戦場に向かっていた。それを改めて国家の意図は何なのかと考えると、確かに両国がなぜ戦っているのか、疑問が浮かび上がってくる。


「我々の目的はたった一つ。人間を奴隷とする亜人共を、一匹残らず殲滅することだよ!」


 中佐の口から飛び出したのは、俺達のような普通の人間――いわゆる真人間と呼ばれる種族を至上とする真人間至上主義トゥルー・ヒューマニズムと呼ばれるものだった。


「巨人も、獣人も、オークもゴブリンも! 人を模した出来損ないなど、死に値する!」

「……とまあ彼の思想は我々の中でも少々過激なものだが、実際として数多の亜人から構成される連合国に対して、我々のような真の人間が生きていける国を開拓、そして発展させるのが我々エーニア帝国軍の使命だ」

「そもそも奴らは我々を見下しているようだが、我々真人間という種から派生したあのまがい物共の方が格下だ! 奴らはそれを理解していない!」


 もっと詳しく話を聞いてもいいのかもしれないが、そのような人間としてのプライドが飯の種になる訳でもなく、紛争地帯出身の人間の心に響くこともない。


「……成る程。何はともあれ、俺は戦争屋としての義務を全うするだけだ」

「ほう? 随分とビジネスライクなものだな。歴史の勉強は嫌いかね?」

「生憎紛争地帯生まれなもので、学校すら行ったこともないからな」


 中佐の言葉に皮肉で返すと、改めて雇用についてギルドレッドに問う。


「今後、俺とミラーは中佐の下で働くことになるのか?」

「そうなるな」

「具体的には軍所属というより、私の直下の私兵としての雇用になる。なーに、心配することはない。具体的には今まで君達がヴァヌシュデアでやっていたことと同じだ。殺してくれれば、それでいい」


 この中佐の私兵か。まあいい。


「契約金については既にウーベルから聞いているだろう。一つの戦場につき、向こうで支払われていたものの十倍以上、更に敵へ損害を与えた分だけ追加で出来高を支払う」


 ひとまず納得のいく契約内容を聞くことができた俺は、最後に契約書にサインをするべく謁見の間を去って行く。


「期待しておるぞ。君も、その付き人君も」

「閣下、あの娘も一緒に?」

「君の下に凄腕の人材を送るんだ。多少の不便も付き合って貰うよ、ホワイト中佐」

「ふむ、仕方のないことだ――」

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